第12話 楽しいドライブ戦争

「超絶美女の制服JK姿はどう?」


 ほれほれ~とスカートをひらひらとまくりあげ、挑発してくる静流。


「・・・俺たちが今着ている服は東京に入ったら別の服に変える予定なんだが、最初が制服でよかったのか?」


 そのために最初に彼女たちが着ていた服に加え、もう一着新しい服を用意したわけなんだが。


「え?聞いてないわよ!そんなの!」


 

 部屋に戻って着替えてくると言う彼女を慌てて止める。

 さすがに、研究所も全ての監視カメラを見られるわけではないだろうし、警察や自衛隊をいいように操れるわけでもないだろう。だが先程から何かが俺たちを上空から監視している。


「ドローンだね~」


 そう口にする朱記さんはまだ余裕があるようだ。なるほど、先程から俺たちを監視しているのはドローンだったか。やはり替えの服を用意しておいて正解だったな。車は東京のどこか、ドローンに見られないところで乗り捨てよう。


「え?なに?もう監視されてるの?これ着替えたらダメなやつ?」


「超絶美女(笑)の制服JKコスプレは残念ながら東京に入ったらおしまいだ。」


 (笑)じゃないわよ、と声を上げる静流。それと同時にパンッと乾いた音のツッコミが入る。え?なんでビンタ?普通、ツッコミって軽くどついたり、胸を叩いたりするものじゃないの?冬で肌が乾燥してるからめちゃめちゃ痛いんだけど。というかコスプレは認めているのか・・・


「とにかく、早いとこ行こう。ここで警察や自衛隊に来られたら積みだ。」


 そうね。と俺の意見に賛同し、車に乗り込む静流と朱記さん。ここから長い旅が始まるわけだが、大丈夫かなぁ、運転。


 1時間ほど経っただろうか。思ったより安定した運転ができている。さすがに道路標識等は覚えきれなかったので、助手席で道案内と共に朱記さんが指示してくれる。


「なかなかうまいじゃないか。光くん。でもさっきのは一時不停止だよ」


「え、標識あるなら言ってくれよ」


「ははは、まだ東京に入るのは先だけど、東京に入ったら怖いぞ~。平気で一時停止無視をする二輪車、煽ってくるトラックやタクシーのおじさん・・・」


「怖いこと言わないでくれ」


 いや、でもまじでいるみたいだからなそういうの。しかも割と頻繁に。俺は緩んできた運転に対する緊張感を、もう一度引き締め直す。



「それにしても、まだまだ暇だね~ということで、大予想大会を開きまーす!」


「いきなり大声出されるとびっくりするじゃない!」


 後部座席でうとうとしていた静流がはっと目を覚まして朱記さん以上の大声を出す。こいつもこいつで緊張感ないよなぁ。


「お題は、神様が使えそうな能力!はい!せーの!記憶操作!」


 おうおう、いきなり始まったなぁ。順番は時計回りと考えると俺の番か。せーのという朱記さんと静流の声に合わせて俺は答える。


「え、えーと、炎・・・とか氷とか、雷とか出すやつ・・・」


 アウトー!と後部座席から強めの蹴りが入る。こいつ、まっじ、あぶねーから。


「リズム0点、発想0点、容姿0点で3アウト!チェンジです!」


「容姿は関係ないだろ!」


「一番ダメなのは発想ね。なに?炎氷雷出すやつって、ちゃっかり3つ言ってるのもアウトよ、アウト」


「だって神様って、そういうの使うイメージなんだが。ほら例えばゼウスとかゲームでも雷属性が多いじゃん。」


「はは、光くんはやっぱり面白いね!発想力プラス3点あげよう!」


「いらねえわ!というか何点満点だよ!」


「もちろん、100点満点だよ」


「クソ!!!」


 語彙力も0点!と静流に背もたれを軽く蹴られる。まあ、これくらいなら別に危なくもないし、むしろもっとやってくれて構わなくもなくはない。ちなみに俺はマゾではない。


 静流が続ける意向を示す。


「じゃあ今度は私から!せーの!撃滅!」


「ストーーーーッッッップ!!!!」


「な、なによ!?」


「なんだよ、撃滅って!」


 撃滅というのは・・・と、例のごとく解説役の朱記さんが説明してくれる。彼いわく、“撃滅”とは、アニメやゲームで出てくる攻撃技の総称らしい。


「炎とか氷とか、一つしか攻撃のバリエーションがない神様なんていないからね。」


 ・・・なんか腑に落ちないが、ゲームだし、まあいいか。


「じゃあ、続き!朱記からね!」


 まだやるのか・・・でもコツは掴んだぞ。要はなろう小説でありがちなチート能力を言っていけば言い訳だ。だったら、なろうというなろうを読み漁った俺に分があると言っても過言ではない。そして、せーのという合図からリズムを刻んでゲームが始まる。


 記憶操作・撃滅・未来視・透明化・不老不死・再生・因果律操作・時間停止・時間遡行・・・


「・・・飽きた」


 自分の番が回ってきたところで静流が言った。


「はい負け~!静流の負け~!ばーか!ばーか!」


「ばー・・・」


 静流の腕が朱記さんの首に回る。


「ぎ、ぎぶ!ぎぶ!ごめん、ごめん!やばい、落ちるぅううう!」


 朱記さんは、身体をばたつかせてなんとか抵抗する。あ、あぶねぇ・・・俺も言うところだった。


「なんかテンション上がってきたわね!光!音楽かけなさい!ミュージックスタートよ!」


「はいはい」


 信号が赤になったので停車し、俺は自分のスマホをBluetoothで車に繋げる。敢えて演歌を流してやろうかと思ったが、朱記さんの例があるからな、俺が落ちれば運転できるやつはいない。さらに俺たちが立てた計画もおじゃんだ。こんなくだらないことで命を落としたくはない。おとなしくJ-POPでも流そう。テキトーに自分のプレイリストからランダムで音楽を流す。



<こころぴょんぴょん待ち?考えるふりして・・・




「ちょ、まっ・・・」


 静流の腕が俺の首に回ってくる。


 

 もうすぐ東京だ。

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