第11話 父

その夜


「まずは変装用の服装を選ばなくてはね。」


「そうだな。朱記さんが着る服は俺が使っていたのでいいか?」


 いいよと、二つ返事で承諾してくれる朱記さん。


「はいはーい!私、制服を着たいです!!!」


「いや、女用の制服なんてないぞ。」


「ぴえん、ぴえーん」


「嘘泣きしてもダメだ。無いものは無い!」


「ぴえん・・・うっ、ふぐっ・・・うっうぅ」


 え、マジ泣き?!泣くほどのことじゃあないだろう!

・・・というか、会った時の静流とは驚くほど別人だな。あんなに俺のことを嫌っていたのに。


「静流はもともとこういう性格だよ。会ったばかりの時は、君を巻き込まないようにわざと冷たい態度をとっていたということだね。喜怒哀楽がはっきりしている性格というか、アホというか。」


 そう、俺の心を読んだかのように朱記さんは補足説明をしてくれる。なんだ、俺を嫌ってるわけじゃないのか。優しいじゃん。静流たん。


「そうね。でも、あの時はまじでキモかったわよ。不審者に絡まれたのかと思ったわ。」


 キモいってやめてぇ!普通に傷つくからぁ!てかやっぱり嘘泣きだったんかい!


「それより制服よ!制服!あなたのお母さんのお下がりとかないの?」


「ちょ、静流・・・」


「母さんも父さんも少し前に死んじゃってる。」


 多分、朱記さんは俺の記憶を覗いた時みたのだろう。そう、俺の両親は少し前に死んでしまっている。父は医者ということもあって、貯金はごっそりあった。俺はそのお金を使って生活している。ニートの極みだ。


「あ、ごめん・・・」


「いや、いいよ。父さんとは数回しか会ったことはなかったし。母さんは・・・」



「言わなくていいよ。光くん。」


 母さんは父さんが死んで心が弱ってしまったのか、数年後に自殺してしまった。母さんのヘルプ信号に俺は気づけなかった。


「母さんと父さんの部屋で探してみるか。朱記さんの服のサイズも俺のより父さんのほうが会っている気がするし。」


「いいのかい?」


「もちろんさ。変に気を使ってくれなくてもいい。」


 それじゃあ、と言って静流は母さんの部屋へ、朱記さんは父さんの部屋へ入っていった。5分くらい経過したところか、静流が部屋から出てきた。


「制服どころか、服が一着もなかった・・・」


 どうするのよー!と嘆く静流だが、どうしようもないだろう。こうなったら、危険だが、逃げている途中にどこかで買うしかない。そんなことを考えていると


「あったーーーー!!!!」


 父さんの部屋から歓喜の声が聞こえる。朱記さんは気に入った服をみつけたらしい。


「あったー!あったよ女の子用の、制服!!!」


「おおおおおお!!!やったああああああ!」



「は?」


 なんで父さんの部屋から女子高生の制服がでてくるんだよ・・・


「どうやら、君のお父さんはそういった趣味が・・・」


「やめてくれええええ!」


 そんなこんなで俺たちは朝を迎えた。目的地は東京。ここから車で4時間程度だ。


「ふぁ~~はぁ、光くん、僕はまだ眠いよ。まだ朝の6時だよ?」


「もたもたしてられない、俺は少し準備があるから玄関で待っていてくれ。」


「はいはい。静流を起こしてくるね。」



数分後


「おまたせ」


 俺は車庫にあった父さんの車を玄関前で止める。


「光くん、君、運転できたのかい?」


「いやいや、できるわけないだろう。俺はまだ高1だ。免許すらもってない。」


 本当のことだ。そもそも15歳じゃ免許取得もできない。確か日本は16歳からだったか。昨日の夜中、車の運転方法を動画サイトで見漁った。


「父さんの車がマニュアルじゃなくてよかったぜ!」


「そんなドヤ顔で言われてもね・・・犯罪行為はだめだよ」


「自分の命がかかっているんだ。これくらいはする。ところで、静流は?」



「待たせたわね!」


  現れた静流は制服を身にまとっていた。その可愛らしくも、綺麗でもある少女に不覚にも見惚れてしまった。ああ、本当だったら彼女は、普通の高校生のように学校に通って、青春を謳歌しているはずだったのに。彼女を学校に通わせてあげたい。俺の目的が一つ増えた。

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