第8話 神の証明

「光、私を殴ってみなさい!」


「・・・意味がわからない。ついさっき天然属性が追加されたと思ったら、マゾ属性も追加だなんて。」


「はぁ?あなた、何を言ってるの?」


 やべぇ、声に出てた。それにしても、天然マゾヒストキャラとは、また新しい。


「能力を見せるから殴ってこいって言っているのよ。」


 続けて、光の拳は当たらないから安心してと静流は言うが、成長期の男のパンチはそれなりに強力だ。もし当たってしまったら軽傷ではすまないだろう。それに女の子を殴るのは、例え理由があったとしても嫌だ。


「大丈夫だよ。彼女の言っていることは本当だから。思い切りパンチしてみなさい。」


 君の男女平等パンチを見せてくれ。と軽い感じで朱記さんは言うが・・・というかこの人ノリノリだな。


「じゃ、じゃあ、本当にいいのか?」


 最後に彼女に確認を取る。彼女は、返事の代わりに顎をクイっと上げた。どうやら早くこいと言っているらしい。


「ほ、ほんとに知らないからな!いくぞ!」


 今まで殴り合いどころか口喧嘩さえしたことない俺だが、へっぴり腰になっていないだろうか。一応王道バトルマンガは一通り目を通しているので、それをイメージして俺は腕を思い切り振りかぶる。



「うおおおおおお!!釘パ○チィィィィィィ!!」



 渾身の一撃。勢い任せだったため、つい全力で拳を振り上げてしまった。当たり前だが、俺の拳と彼女の顔までの距離は一瞬にして縮まる。おいおい、やばいぞこれ。彼女は全く避ける素振りを見せない。ああ、もうだめだ。絶対に当たってしまう。なんと言って謝ろう。俺はとんだDV男だ。責任をとって彼女を一生支え続けよう。そして家庭を築き、幸せに・・・てふざけている場合ではない。まじで。頼む。避けてくれ。ついに拳と彼女の綺麗な鼻までの距離は親指一本ぶんほどになる。


 刹那。俺の目の前にいた彼女の姿は消失し、対象を失った俺の拳は空を切る。同時に、勢いを抑えきれなかった俺は前方に転倒。


「あ、れ・・・?」


 俺は痛みに耐えながら、彼女が避けてくれたことに安堵する。


「痛ってぇ。・・・でも静流がちゃんと避けてくれてよかったよ。まじで女の子殴っちゃったのかとシバリングしたぜ。」


「避けたのとは少し違うかな。後ろを見てごらん。」


 朱記さんに言われて後ろを振り返ると、さっきまで目の前にいた静流が俺の後ろで息を切らしていた。


「どういうことだ・・・」


「これが彼女の持っている神の力だよ。能力名は」


「透過よ。」


 なおも息を切らした彼女が言った。これが本当だとすると、俺の拳、それだけじゃなく、俺の身体が彼女をすり抜けたということになる。消えたように思えたが、実際は透過したのか。神の力という割には地味な能力だなと思ったが、言わないでおく。


「ところで、なんで静流は息を切らしているんだ?」


「神の力は不完全でね。能力によって、制限や代償があるんだ。そして彼女の能力の代償は、めーーーっちゃ疲れる!ということだよ。」


 そんなアバウトな。とは思ったが、実際、彼女は疲労困憊という感じだし、演技でもない限り疑いの余地はない。


「ひとまずはその能力を信じるとして、なんでわざわざ俺に、一般人に見せたんだ?」


「君だから見せたんだよ。僕たちは研究所から数年に1度しか出られない。故に外界のことはあまり詳しくないんだ。せっかく短い期間ではあるけど外出許可がでたから、どうせなら色々と経験したことないことをしてみたいじゃないか。」


「朱記さんと静流がその力故に重い境遇にいることはわかった。でもまだ他の一般人じゃなくて俺を選んだ理由がわからない。」


「それは、伝えづらいことなんだけれど、君が静流を亡くなった幼馴染と勘違いしていたみたいだからね。」


 勘違いではないが。なるほど、つまり俺を利用できると踏んだみたいだ。だが


「だとしても、あの短時間であの判断はできるものなのか?」


 一度深呼吸して、俺は気持ちを落ち着かせる。


「どういうことだい?」


「あまり自分から言いたくはないが、初めて会った時の俺の言動はお世辞にも普通とは言えなかったはずだ。」


 例えるなら、電車内で叫んでいるおっさんと同じといったところか。なんにせよ関わりたいとは到底思えない言動をしていたはず。なのに彼はあの一瞬でなんと言ったか。場所を変えようと言った。電車内で大声を出しているおっさんに対して場所を変えて話しましょうなんていう人間は、警備員くらいだろう。そう、普通なら無意識的に嫌悪感を覚え、避けようとしまうものだ。さっきまでの静流がそうだったように。というか彼女はまだ嫌がっているようだが。


「・・・朱記さんも神の子と呼ばれる能力者の一人なんだろ?だったらその能力、わかったよ。」


「ほう。」


「見た者の記憶を読み取ることができる能力、じゃないか?」


 あの場で俺を利用する価値があるか判断をする素材はほとんどなかった。そしてずっと感じていた違和感。


「初めて会った時、わざと俺にぶつかったんだろ?」


 静流のときと違って、それなりに距離はあった。本来ならぶつかるはずはないほどのゆとりがある距離だった。なのに何故ぶつかったのか。彼らが言う神の力というものが本当に存在するなら、俺の記憶をみてわざとぶつかったとしか言いようがない。そしてさらに言えば俺の中の幼馴染との記憶をみて、利用価値があると判断したのだろう。だからぶつかった時、俺の顔を見てしばらくなにか考えごとをしているような不思議な顔をしていたのだ。具体的な一番の価値とは、やはり、口外をする可能性が限りなく少ないということだろう。


 ・・・待てよ?あの時、朱記さんと違って静流は確実にぶつかる距離にいたが、結果はぶつかることなく、俺に罵声を浴びせ走っていった。そしてカフェで朱記さんは静流に向かって、さっき能力を使っていたじゃないかと言った。・・・能力を使ったのはあの時だったのか!


 繋がった。俺が彼らに抱いていた違和感が全て繋がった。俺の中で半信半疑だった”神の力”が証明されてしまった。


「半分正解」


「半分・・・?」


「僕の能力は、対象者の記憶をみれるだけではない。忘れていた記憶を引っ張り出すこともできる。そして」



「対象者の記憶を書き換えることもできる。」



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