第6話 種の起源

「神様とは・・・カー○ル・サン○ースよ!!!!」


  クスクスと周りから笑い声が聞こえてくる。俺まで恥ずかしくなるから、店内で変なことを叫ぶのはやめてくれ。


「ごめんね。静流。いま大事な話をしているからさ。」


 朱記さんが彼女を優しく鎮める。


「わかってるわよ。冗談だっての。神が何者かの話をしているんでしょ?」


「でもこの答えを彼に伝える前に覚悟を問うべきじゃないかしら。」


 何を今更といった調子で朱記さんは続ける。


「さっき光くんに、何でも話してくださいと言われたよ?」


「あなたそれ、詐欺師と同じよ。事が事だけに詐欺師よりたちが悪いわ。」


「光、今から話す内容を聞いたらもう引き返せないわよ。」


「ぜ、全然、ばっちこいだぜ!!」


 初めて静流に名前を呼ばれてつい、「ポ○モン、ゲットだぜ」みたいなノリで答えてしまった。というのは置いておいて、俺は、多少危険なことであっても協力するつもりだ。何度も言うがもともと俺の生活は腐っていた。こうして静流と再会していなければあの生活は続いていただろう。そして静流と会えなくなることもそれと同義だ。またあの閉じこもった生活には戻りたくはない。あぶねー、このままだと異世界転生に賭けるしかなくなるところだったぜ。


「最悪、死んじゃうけどね!」


「え?」


 満面の笑みを浮かべた彼が言う。死ぬってどういう・・・


「何度も話しの腰を折って済まないね。だけど、これから話すことは他言無用だ。もし誰かに話したら君はもちろん、聞いた相手も殺されることになる。それを伝えたうえでもう一度問おう。この話、聞くかい?」


「・・・聞かせてくれ。」


 死ぬとか殺されるとか全く現実味が沸かないが、死んでいた人間が、死ぬかもしれない人間になるだけだ。むしろプラスじゃないか。そして俺には友人や家族はいない。故に人に話す可能性は皆無!!フハハハハ!!ぼっち最高!!まあ、親友はいるが、彼を巻き込みたくはない。というかこの数十分間でえらく俺も明るくなったな。


「では、話そう。まずは神とは僕たちの先祖だ。」


「はい。」


「そして私たちは神様の力が使えるの。」


「はい?」


 神が俺たちの先祖?まあ宗教的な考えだとそうなるのか。しかし神の力が使えると言ったか?それに至ってはナンセンスだな。どうやら彼らは俺のことをからかっているらしい。さっきまでの俺の覚悟はどこへ言ったのやら。まあ、話を聞くだけでもいいか。朱記さんの話はなんだかんだ惹きつけられるし面白い。


「手っ取り早く信じてもらうために、まずは君に神の力を見せてあげたいところなんだけど、ここで使うわけにはいかないからね。」


「はあ、そうですか。」


「もし証拠が残ってしまったらここにいる全員が消されるものね。」


「・・・」


「とか言って、静流。君、さっき使っていたじゃないか。」


「あ、あれはしょうがないじゃない!不可抗力ってやつよ!」


 ゴホンっと朱記さんは一度咳き込んで、場の空気を改めようとする。


「能力はあとで見せるとして、君は進化論って知っているかな?」


「ダーウィンの進化論ですか?」


「そう、それだ。」


 ダーウィンの進化論。大昔、猿(猿人)が過酷な自然環境から生き残るために突然変異を繰り返し、長い年月をかけて今の人間になった。という人類の起源に関するダーウィンが19世紀に発表した理論だ。学校でも習う、最もポピュラーな人類起源説の一つだろう。もはや一般常識といってもいいくらいだ。


「あれはね、間違っているんだよ。」


「え?」


「生物には2つの間に位置する中間種というのは存在しない。なぜなら明確な遺伝子的境界があるから。」


「?」


「何が言いたいのかと言うと、猿と人間の間に位置すると言われている、原人や旧人といった人間への進化過程そのものが否定されると言うことだよ。つまり、猿から人間に進化したというのはありえないことなんだ。」


 ゴクリ、と俺は息を呑む。


「それだけじゃない。人間を含む現在地球上に存在する生命のうちの90%が10万から20万年前に突然現れたということが最近の研究で明らかになっている。」


「それはどういう・・・」


「人間だけじゃなく、全生物が同時期に何者かによって意図的に作られた。」


「その何者かが、神、だと?」


「断言はできない。だがその可能性は大いに有り得る。」


「・・・」


「と、普通の科学者や研究者なら言うだろうね。」


「!?」


「我々は、その神が存在した証拠をある場所で発見した。そしてその場所の管理、研究をしている。研究者の中には日本政府との関係が深い者もいる。だから、この話を他の人間に聞かれたら、その人間は国家権力により消されるだろう。」


 一度忠告を受けたため覚悟はしていたつもりだが。なんだか取り返しのつかないやばいところに足を踏み入れている気がする。ただ、この話が全て作り話だったら、朱記さんはとんだ厨ニ野郎だな。


「ちょっと朱記、最後くらい私に言わせなさい。」


 やはり難しい理論的な話はわからなかったのか、話がまとまりかけたところで彼女が口を開く。


「そして私たちは”神の子”と呼ばれるその神様の末裔よ。その証拠に神の能力を行使することができる。だから、残念だけどあなたが探していた幼馴染と私は全くの別人ということになるわね。」


 彼女、静流は間違いなく俺の幼馴染の心乃だ。その確信はこの都市伝説染みた話を聞かされてなお変わらない。しかし、こう、理論立てて説明されると、誰であっても容易に否定することは難しいだろう。特にただの高校生である俺にはできるはずもない。




――――証拠を見せられない限りは。




「聞いてくれてありがとう。では場所を変えよう。神の力を証明する。」


 そういって朱記さんと静流は席を立って出口へ向かう。


「あ、そうそう。会計よろしくね。」


 もともと俺が払う条件でここに集まってもらったのだ。しかし、彼らは俺が来てからは何も飲み食いしていない。俺が来るまでに何かを食べていたとしてもせいぜい1000円を越えるくらいだろう。テーブルに伏せられているレシートを掴んで金額を確認すると、そこには8900円と書かれていた。


「おい、食いすぎだろ。」


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