第5話 神様・仏様・カー○ル様

「私があなたを心底嫌っているのは、紛れもない事実だから。」


「・・・そうか、ごめん。」


「静流(せいら)、あんまり彼をいじめないでやってくれ。」


「どうしてこいつの肩を持つのよ。」


「どうして君はそんなに彼を嫌がるんだい?」


「それは・・・あなたもわかっているでしょ?」


「はあ、そういうことか。いっそのこと、彼に色々とお世話になるってのはどうだい?」


「はあ?あなた、そうすることの意味、わかってるの?」


「もちろんわかっているさ。だからあとは、彼次第だ。」


 何を話しているのか全くわからない。しかし、どうやら静流が俺のことを露骨に嫌がるのには理由があるらしい。それにお世話になるってどういうことだ?


「あのー、さっきから言っている事がうまくつかめないと言うか。」


「光くん、僕たちから、折り入って話があるんだ。」


「ちょっと、私は責任取らないわよ。」


「はい!!なんでも話してください!!」


 朱記さんは、笑って「まずは、敬語をやめよっか。」と言ってくれた。 

 なんであれ、静流の力になれるなら、俺にとってそれほど嬉しいことはない。それに朱記さんもいい人だし。俺にできることなら何でもするつもりだ。


「君は、神様を信じているかい?」


「へ?俺んちは代々、無宗教だけど・・・。」


「宗教は信じていないみたいだね。」


「どういうこと?」


「君が信じていないのは宗教であって、神様ではないということだよ。」


「・・・」


一体、朱記さんは何が言いたいんだ?まさか宗教の勧誘ではないだろうな?最近は可愛い子で若い子をつって勧誘することもあると聞いたことがある。でもふざけている感じじゃないんだよな。


「なぜ君たちは新年に初詣に行くんだい?」


「それは・・・伝統だから?」


「では、寺や神社でお祈りをするのは?おみくじを引いて一喜一憂するのは?」


「そ、それも伝統だからだよ!!だいたいそれがなんだって言うんだ!!」


 つい語気を強めてしまう。怖い。ここから先を知ってしまったら、もう普通の日常生活には戻れない。直感でそう思った。だけど、もともと俺の日常生活というものは、何の刺激もなく、ダラダラといたずらに過ごしていただけの日々だ。だからその先を知ることに、なんのためらいもない。


「例えが悪かったね。では、お墓によく置いてあるお地蔵様と、このカフェの向かい側の店の前に置いてある、カー○ル・サン○ースの置物、どちらかを押し倒さなきゃならない場合、どっちを倒す?」


「は?」


 すぐに先程までの柔和な朱記さんに戻った。しかし、例えが全然よくなった気がしない!!でも、誰だって答えは同じだろう。


「もちろん、カー○ルだよ。お地蔵さんを張り倒したらバチが当たりそうだ。」


「バチとは天罰のことかな?じゃあ天罰は誰が与えるんだろうか。」


「・・・神様。」


「同じ質問を100人にしたら、100人全員がカー○ルに大外刈りをすることを選ぶだろうね。中にはそれだけじゃ飽き足らず、羽交い締めまでする人もいるかもしれない。」


 やめて!カー○ルのライフはゼロよ!!


「つまり人は、カー○ルを・・・じゃなかった。神を常に意識しているんだ。」

 

 あ、今この人、神様のことカー○ルって言いかけた!!!カー○ルって!!!これ天罰もんじゃね?朱記さんは気にする素振りも見せず、続ける。


「これは、人間の細胞が、遺伝子が神の存在を認めていると言っていいのではないかな?そしてその神とは・・・」


 神とは・・・心のなかで朱記さんの言葉を繰り返す。全く予想もつかない。なんだ?何を言おうとしているんだ?気になる、早く言ってくれ。大事なところで朱記さんの渾身の溜めが入る。3秒、4秒・・・ちょ、まじ長い、溜めが長い!!思わず口に出そうと思ったその時。


「なっっっっっっがあああああああい!!!!」


「ふぇええ!?」


 静流が数分ぶりに声を出す。朱記さんはそれに驚いて、たまらず声が裏返る。


「話がながああああああい!!!!!!」


「どうして男はこう理論武装で会話するのかしら!!!せめて結論から言え結論から!!!!」


 会話に入れない苛立ちが爆発したのか、いきなり大声で叫ぶ静流。店内は静まり返り、何事かと多方面からこちらに視線が注がれる。しかし、当の本人は気にもとめず、会話を続ける。ドヤ顔で、「結論からいいましょう。」と。



「神様とは・・・カー○ル・サン○ースよ!!!!」



 俺の記憶の中の清楚で可憐な、そして聡明な幼馴染のイメージが一瞬にして消えていった。

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