第2話 邂逅

 あの子と初めて会った時も、似たようなシチュエーションだった。あの時は、あの子じゃなくて俺が走っていたんだが。

 

 俺と彼女の出会いは確か小学1年の9月頃。まだ少し蒸し暑かったから9月の始め頃か。その日もまた、俺は宿題をランドセルに入れるのを忘れて家を出てしまった。目の前の信号が赤になる。


「あーくそー渡れなかったぁ。長いんだよなーこの信号。」


 その場でぼーっと色が替わるのを待っていると、はっと自分が家に忘れてきた物に気がついた。当時、今とは比べ物にならないくらい真面目だった俺は、回れ右して全速力で家に向かう。そして曲がり角であの子。星宮心乃(ほしみやしの)とぶつかった。


「ご、ごめん!!大丈夫?」


 慌てて心乃の、当時は名前の知らない少女の肩を掴む。少女は最初、「うぅ」とか「イタたぁ」とか言っていたけれど、同い年くらいの男の子と話したのは初めてだったのだろうか。驚いたような声で、だけど、可愛らしい笑顔で「だ、大丈夫!!」と言ってくれた。

 この出会いは運命だと思った。だって今どきマンガやアニメでも曲がり角で男女がぶつかるベタな展開なんてないし。俺はその子に一目惚れしてしまったんだ。


 

 そして今、俺の前にはあの子がいる。俺がずっと死んでしまった、殺してしまったと思っていたあの子が。

 驚いた。しかし同時に色々な感情が湧き出てきた。だから、きっと声は震えていたと思う。


「よかった。」


「はぁ?」


「生きていて、本当に良かった。」


 あの夜、君がなにを言いかけたのかずっと気になっていた。そしてなによりずっと君にあやまりたかった。・・・だけど、心乃が生きていてよかった。それがかすれた涙声で最初にでた言葉。本当はまっさきにあやまるべきなのだろう。でも本当に嬉しいんだ。君が生きていてくれて。心乃は今まで何していたんだろう。今はどこに住んでいるんだろう。もしかしてこの町の近くなのかな。だったらいいな。

 俺と同じく困惑しているようにみえる心乃が口を開いた。



「ちょっとあなた、頭、大丈夫!?」

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