【毎日更新】Revise~死んだはずの幼馴染は神の子になって生きていた~

あると

第1話 幼馴染を殺した

 俺には幼馴染と呼べる存在が二人いた。一人は親友で、もうひとりは初恋の人。


 小学生の頃、遠足で地元の山に登った。小学生が登るにしてはちょっと険しすぎるんじゃなかと思うくらいの山だった。しかし地元ということと、なんだかんだ毎年全員が登りきれているということもあって、その年も例年通りに遠足は行われた。初めての遠足に興奮していた僕と親友は、周りのペースなどお構いなしに、あの子を連れて山の中を駆け回った。そして気がついたときにはもう、自分たちがどこにいるかわからなくなっていた。

 あたりが真っ暗になって、いよいよ俺たちは焦り始めた。俺は、ここにとどまって、誰かが来るのを待ったほうがいいという親友の意見を無視して、あの子を連れてとにかく上に向かった。その時の俺は、テレビかなにかで聞いた、道に迷ったら山頂に向かったほうがいいといった話を盲信し、今自分たちがどういう状況に置かれているのかも考えなかった。

 しばらく上に向かって歩いていると、普段から口数が少ない彼女が口を開いた。


「ひーくん、私ね、ひーくんのことが、ずっと前から」



「え?」


 足場がなかった。暗い道の中ひたすら上に上がっているつもりだった。自分が平衡感覚を失っているのに気が付かなかった。あの時、親友の意見を素直に聞いていればよかった。クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!



 俺はあの子の手を引いてしまった。




 その後、搬送先の病院で、父から彼女が死んだことを聞かされた。

 

 あれから、自分の身体が回復し、数ヶ月ひきこもった後、引っ越した。引っ越した先で小、中と過ごし、去年高校にも上がった。

 現在俺は高校2年、今日は登校日なので重い腰を上げて学校へ向かう。幼馴染の親友とは、あれかたどうなったかというと


>ピロリン!


 スマホから通知音がなる。


>お前今日までの英語の課題ちゃんとやったかー?


「やっべ。家においてきた。」


 親友は俺があの子を殺したことを知らない。だけど俺の心が、あのことをきっかけふさぎ込んでしまったのは知っているはずだ。だからこうしてあいつとは違う高校に通う俺のことを気にかけてくれているのだろう。


「だからって他校の課題の提出日まで把握してるやつがどこにいるんだよ・・・」


 まあでも、あいつとのやり取りが唯一俺の心の平穏を保ってくれている。さてと今から課題を取りに帰ったら、確実に間に合わない。課題を忘れ、成績を落とすか、遅刻していくか。


「・・・なに普通の高校生っぽいことを考えてるんだ俺は。」


 親友がこうして人殺しの俺を気にかけてくれているのは素直に嬉しいが、俺には普通の学校生活は送れない。送っちゃいけない。あいつの未来を奪っておいてそんなことはできない。

 そして、なにもかも嫌になり、いつも通り、と言っていいだろう。俺は踵を返し、家の方へと歩きだす。もちろん課題を取りに行くわけではない。そこの角を左に曲がって真っすぐ行けば10分くらいで家につく。


 その時、「え!」と甲高い声が耳に響いた。ああ、ぶつかる。そう思った。しかし、ぶつかることは、なかった。


「どこみてんのよ!ばーか!!」


 そんな文句をたれながら、はぁはぁと息を荒げながら走って俺から離れていく黒髪の女。確かにぼーっと歩いている俺も悪いが、


「走るなら周りに注意しろよ・・・」 

 

 そう小声でつぶやく。


「あああああ!!」 


 少し遠くから今度は男の声。さっきの女が通った方向、つまり左側から聞こえてくる絶叫。

 しかし十分避けれる距離なはずだ。なにせさっきの女は俺の目の前だったのにも関わらず避けれたんだ。人間というのは危機的状況に陥ると身体が勝手に動くらしい。

 実証例2だなと、自嘲する。そうして実証例3を待っていたのだが、ドンッっと鈍い音が聞こえた。

 痛ってええええ。ぶつかったのか?あの距離で?おそらく、ぶつかったであろうところを抑えながら、内心では苛立ちつつも一応声はかける。


「あの、大丈夫ですか?」


「すまない、僕は運動が苦手でね。」


 ありがとう。そう言って俺の手をとったその人は、不思議そうな目で俺を見てた。少しの間の沈黙。それを崩したのは、先程聞いたばかりの声。俺に罵声を浴びせて、そそくさと走っていった女の声。


「ちょっとゼロロクー!!なにやってんのよー!」


 女の声が近づいてくる。ゼロロク?この男の人の名前か?変わってるな。そんなことを思いながら声がする方に振り返るとそこには



「は?」


「なにジロジロ見てんのよ!ぶち殺すわよ?」





 死んだはずの幼馴染が立っていた。

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