君と入れ替われたら③




今日は退院してからの初めての学校だ。 予め学校で仲のいい友達と、よくからかってくる生徒の名と特徴を教えてもらっている。 


―――授業は既に予習済みみたいなもんだ。

―――問題は燿の方だよな・・・。


中二から高二になった燿が心配だった。 簡単に勉強の手解きはしたが、一朝一夕で何とかなるものではない。 それに加え、身体の動かし方も何となく違うものだ。


―――本当に身体以外は全て入れ替わったんだな。

―――記憶も中身も。


昼休み時間になった。 短い休みでは関わってこなかった二人の男子が近付いてくる。


「おーい、燿ー! 今までどうして学校を休んでいたんだよ。 どうせ仮病だろ?」

「・・・」

「今まで俺たちの世話をサボっていた分、たくさん働いてもらうからな。 まずはそうだなー、萌え台詞でも言ってもらうかな」


―――萌え台詞?

―――てっきりパシリでもさせられるのかと思ったけど、違うのか。

―――あぁ、この中学校には自販機はないんだっけ・・・。


燿は声が高く容姿も中性的だ。 だからこういう風に遊ばれているのだ。


―――普通にコイツら、気持ち悪い・・・。

―――燿はいつもこういうことをやらされていたのか。


嫌々ながらも燿の日常を壊さないためこなし続ける。 そしてようやくのことで長い一日を終えた。 意地悪な生徒に絡まれないようそそくさと家へ帰る。


「ただい・・・」


ドアを開け挨拶をしようとしたところ、リビングの方から囁き声が聞こえた。 どうやら今日は両親は既に帰ってきているらしい。 

何か大切なことでも話しているのだろうと思い、そっと二階へ上がろうとした。 だが家の中が静か過ぎて聞きたくなくても会話の内容が耳に入ってしまう。


「燿を私の親戚の家に預けたいの。 燿も退院したことだし」

「でも、いいのか?」

「えぇ。 だって、あの子がいるだけでこの家の評判が悪くなるんですもの。 近所からも批判的な言葉を受けた。 これ以上貴方に迷惑をかけたくないの。 ここは貴方の家だから」


ある程度会話の内容は分かっていた。 だが流石に動揺してしまい足音を立ててしまう。


「ッ、燿? 帰ってたの?」

「あ、うん、今丁度」

「そう、おかえり・・・。 あ、そうだ燿。 楓真くんのおじいちゃんとおばあちゃんの家に届けてほしいものがあるの。 行ってくれる?」


祖父母の家は歩いてでも行ける距離だ。 それに承諾し家を出た。 だがこれから何が起こるのかも想像は付いている。 祖父母に荷物を届けると帰り際に言われた。


「ウチの孫の楓真にあまり関わらないでね? 貴方みたいな、頼りなくて弱々しい子には育ってほしくないから」


楓真の祖父母は楓真のいないところで燿に悪口を言っているようだ。 こんなに性格の悪い祖父母は見たことがなかったため悲しくなった。 そして家に帰る途中、親戚や近所の人にも陰口を言われた。


「あ、ほら、あの子が再婚した子供さんですって」

「本当に女の子みたいね。 あれが弟だなんて楓真くんが可哀想」


ひそひそ声で話しているが全て燿の耳に届いていた。 悔しくて思わず拳を握り締める。


―――見た目が女らしいって何だよ。

―――燿は本当は強くてカッコ良い人なんだ。

―――こんな理不尽な悪口に毎日耐えてきたんだから。

―――・・・でも燿は、いつもこんなに辛い日々を味わってきたんだな。

―――でももう大丈夫だよ。

―――あとは俺が全て受け継ぐから。

―――俺なら耐えられるから。

―――今まで、気付いてあげられなくてごめんな。


そして弟になって普通に生活を送れるようになってから一週間が経った。



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