……そしてッ!! #7

「がーははははは!! どーだガキども! この俺様の天才パーフェクト腹筋は!!!」

「ほあー、カッチカチであります」


 フィンの感嘆に、隣の金髪碧眼の少女もうんうんと同意する。

 何故か二人で烈火のバッキバキに割れた腹筋をペタペタ触っているのだった。


 ……最初の邂逅から数分。パンツ一丁の男は「超・天・才!」という枕詞を何度も付けながらクロガミ・レッカと名乗った。そこで三人、お互いに名乗り合い、少女の名もシャーリィ・ジュード・オブスキュアであると判明したのは良いのだが、それぞれの事情を話し合おうかというところで何故か彼女はレッカの腹筋にしきりに興味を示し始めた。「おーん? 俺様のアルティメットマッシヴボデーに興味を示すとはガキの割に見る目があるじゃねえか。触るか? おん?」などと微妙にセクハラくさいことを言いだすレッカもレッカだが、眼を輝かせて頷いたシャーリィもちょっと変な人だなとフィンは思った。


 しかし実際見事な腹筋である。鋼のごとく鍛え抜かれた筋骨の集合体は、同じ男として素直に憧憬の念を覚える完成度だった。


「レッカどのレッカどの。一体どうやってこんな見事な肉体を作り上げたのでありますか。後学のためにうかがいたいであります」

「あん? そりゃおめー超食って超動けばこうなるだろ」

「そーなのかー。小官もちょう食べてちょう動いてレッカどののような立派な体になるであります!」


 脇の前で両のこぶしを握りしめ、フィンは眼を輝かせた。


「あ″あ″ん!? ナメてんじゃねーぞこのハイパーマッシヴ超天才と同じレベルに至ろうなんざ五億プランク長はえーっつーの!!!!」

「紙一重!? いや……あの……よくわかんないでありますけどそれは距離の単位では……」


 一方シャーリィは、レッカの背後に回り込んで思い切り背伸びをし、広背筋に手を伸ばしている。

 ぺちぺち、さわさわ。


「んー、しかしおめー……」


 肩越しに背後のシャーリィを見下ろし、しばし思案するレッカ。


「五年……いや三年ぐらいはえーなぁオイ。惜しいところだが……烈火くん残念ながらロリは駄目なのよねロリは」


 と、フィンにはよく意味の分からないことを呟き、


「……あれ? そういやこいつらモヒカン化してねーな」


 と、これまたよくわからない独り言を言って首をひねった。


「これはまさかアレですかな? この世界ではモヒカンフィルターがなくなるとかそういうアレですかな? オーゥ、マージデースカァー? もうこれ酒池肉林しかないでしょうこれ!! 神は言っている。この地にハーレムを築けと!! ウッホついにわが世の春がきたァァァァァッッ!!」

「もひかんふぃるたあ? はーれむ?」


 ?マークが三つぐらい頭上に浮かび上がるフィン。

 と、そこへレッカの筋肉を堪能し終えたシャーリィが寄ってきた。

 ちょいちょいと軍服の袖を引っ張られる。


「どうしたでありますか?」


 半神的な美貌の少女は、花が綻ぶようにニッコリと笑うと、


 ――フィンくんも、おなか、見せて?


 と、衝撃的な耳打ちをしてきた。


「…………え」


 ――腹筋、見せて、さわらせて?


「いやいやいやいやいや! それは勘弁してほしいであります!」


 頬を紅潮させて一歩飛び退るフィン。思わず両腕でおなかを庇う。

 彼女はややはしたなく頬を膨らませると、指をワキワキさせてよいではないかよいではないかと迫ってきた。


「うわああっ、許してほしいであります~!」


 思わずレッカの方を見ると「ぎゃははははは!! そーだな俺だけ見せんのは不公平だよなオラ見せつけてやれよテメーのハイパーマッスルボデー(笑)をよ!! プークスクスクス」ぜんぜん助けてくれそうにない。

 フィンはシャーリィに追い掛け回されて、バター化するトラのごとくレッカの周囲を逃げ回った。

 が、日常的に過酷な行軍を繰り返してきたフィンに持久力で敵うはずもなく、息を上がらせたシャーリィはむくれた表情で再びレッカの腹筋を触り始めるのであった。


「え、ええと、それでですね。そろそろ各々の事情をですね……」


 ぷいっ、とそっぽを向くシャーリィ。おなか触らせてくれないなら話進めてあげない、とでも言いたげなリアクションだった。


「ふんぬッ!! ふんぬッ!!」


 そしてレッカは腹筋に力を込めたりぴくぴくさせたりしているのであった。


 ――なんかもう、なんだこの人たち。


 フィンは、どっと押し寄せる脱力感に屈しそうになった。

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