……そしてッ!! #3

 それもひとつではない。あらゆる方向から、多数の絶叫が幾重にも交響している。


「仲間を、呼んだ!?」


 フィンは、ミノムシ状態にある緑の悪鬼を睨みつける。

 でっかい口を盛大に歪め、テメェらはもう終わりだよ、とでも言いたげな笑みを見せている。

 声から予想される数は、少なく見積もっても十体以上。殺さずに無力化できるような数ではない。

 即座に少女に向き直る。


「どこか安全な場所は!?」


 すっと腕が伸び、少女が走ってきた方角を指差す。


「では急ぐであります!」


 その手を取ると、フィンは駈け出した。


 ●


 黒神烈火はその後もパンツ一丁でテキトーに歩き回り、あぁー午後ティー飲みてえなぁモヒカン殺してえなぁパイオツ揉みしだきてえなぁーとグチグチグチグチ言いながら鼻ほじってたところ、ついに念願の第一村人的なサムシングと遭遇することが叶ったのであった。

 すわ美少女か! 酒池肉林か!

 鼻息も荒く待ち構える烈火の前に現れたのは、


「グルアアアアアァァァァァァッッ!!」


 緑の肌! クソでかい顎! 長い牙! 赤く充血した眼! 長く逞しい両腕! ずんぐりとした下半身! なんか全体的にはゴリラみてーなフォルムをしたよくわからん生き物だった! 違うのはゴリラより遥かに肩幅がでかいという点である!


「……はあ?」


 こめかみに怒りマークを浮かび上がらせながら、烈火はクソでか溜息をつく!


「ナメてんの? ねえナメてんのお前? 誰がオーク出せっつったよコラァ! 美少女かと思った? 残念! オークちゃんでした~! キレるぞさすがに! しかもファンタジー界の汁男優として名高い豚面オーク様じゃなくて欧米仕様のガチオークじゃねえか破壊と殺戮のことしか興味ない感じの!! ザけてんのか空気嫁や俺の愛と肉欲と酒池肉林異世界ライフにてめーらみてーなブサイクなのはいらねーんだよコラてめえファックオフてめえコラ聞いてんのかあぁんコラ!?」


 とかまくし立ててる顔面に、斧の一撃が叩き込まれた。

 黒神烈火、頭蓋を砕かれここに死す! というようなことにはならず、むしろ砕け散ったのは斧のほうだった!


「だからナメてんの? 刃物ごときでこの超天才が殺れるわけねーだろコラァ!!」


 爆速踏み込み! 爆速正拳! シンプルながらその運動エネルギーは天文学的な数値に達し、オーク(仮)はその場で砕け散った……どころの話ではなくプラズマ化して蒸発した!! 肉片すら残らなかった! 命中した瞬間に発生した暴力的な風圧が周囲の枝や葉を折れよとばかりにざわつかせ、怯えた小動物たちが一斉に逃げ散ってゆく!

 恐るべきことに烈火にとっては今の一撃など必殺技でもなんでもなく、ボタン一発で出る通常攻撃なのであった!


「おぉーっと世紀末ストレスがけっこう減ったぞこれ! まぁオークもモヒカンもやってることは大差ねえしな!!」


 と、そこで烈火あることに気づく。

 さっきのオーク、モヒカン化してなかった。常人よりは明らかに強かったが、モヒカン化を免れるほどのものではなかったはずなのだが。


「んんー?」


 これはどういうことなのか知らん、と柄にもなく思案。

 そういえば元の世界でも犬とか猫とかはモヒカンに見えなかった。つまり人型を明らかに逸脱するフォルムの生物はモヒカン化の適応対象外らしい。さもなくばビジュアル的に矛盾が生じるしな。こいつらも一応直立二足歩行してはいるが、体つきがどう考えても人間離れしている。

 と、我ながら筋の通った考察にぽん、と手を打っていると、


「グルアアアアアァァァァァァッッ!!」「グルアアアアアァァァァァァッッ!!」「グルアアアアアァァァァァァッッ!!」「グルアアアアアァァァァァァッッ!!」「グルアアアアアァァァァァァッッ!!」「グルアアアアアァァァァァァッッ!!」


 とクソうっせえ奴らが大樹の陰からなんかいっぱい出てきて斧を振りかざし殺意も露わに突進してくる!!

 烈火、再びクソでか溜息!!

 そして三白眼が凶悪な色を帯びる!!


「美少女出せっつってんだろうがアアアアアァァァァァァ殺すぞテメェらアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッッ!!!!」


 爆速ダッシュ!! 暴風を伴いながら、世紀末伝承者がオークの群れに飛び込んだ!!


 ●


「美少女出せっつってんだろうがアアアアアァァァァァァ殺すぞテメェらアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッッ!!!!」


 よく意味の分からない大喝が轟き渡った。


「っ!?」


 フィンは足を止める。

 さらに、爆音が轟いた。

 しかも連続している。

 次いで、金髪碧眼の少女も足を止める。こちらはかなり息が上がっていた。

 緑の悪鬼どもの咆哮と同時に、まるでような、壮絶な爆音の連続が響いてくる。


 ――なんだ!?


 そんなとんでもない兵器など、フィンは聞いたこともない。

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