第12話

 目が覚めると、見慣れない天井にドキッとした。

「――ここ、どこだっけ」

 隣を見ると、スヤスヤと安らかな寝顔のネイサンがいる。

 ぼんやりしている頭の中が、だんだんはっきりとしてきた。少し開いた扉の隙間から、包丁が刻む心地よいリズムが聞こえてくる。

 私はそっと布団を抜け出すと、ひんやりとした石造りの階段を降りて行った。


キッチンに近づくと、ジュージューと何か焼ける音がする。そして、とてもいい匂い……。

「そこの卵、ベーコンの上に落としてくれる?」

 後ろから大量に野菜を抱えた園田さんが現れた。私は言われるがまま慌てて卵を片手に取ると、立て続けに三つ割った。

 盛り上がったオレンジの黄身が、座布団の上に収まるように、ベーコンの上に滑り落ちる。

「片手割りできるの? すごいな」

 野菜を仕分けながら様子を見ていた園田さんは、驚いたようだった。

「兄が調理師なんです。私もよく手伝わされて」

「へぇー」

「レイコ、ソノダ、おはようー」

 欠伸をしながらネイサンが降りてきた。

「おはよう。朝ご飯、もう出来るからな。座って待っていて」

「は~い」

 とろっとろに仕上がったベーコンエッグ。きつね色に焼けた小麦入りのパンに山盛りのバター。そして、グリーンアスパラと柔らかチキンのミルクスープ。

「すみません、昨日からご馳走になってばかりで……」

 三人分、濃いオレンジジュースを注いでいる園田さんに声をかけると、彼は笑った。

「気にしないで。俺は根っからの料理人だから、目の前にお腹が空いている人がいたら、その場で出来る美味しいものを出したくなるのさ。こんなに可愛いちびっ子とお嬢さん相手なら尚更、ね」

「ソノダのご飯はすごく美味しい! 僕、お店が開店したら食べにくるよ」

「本当? それは嬉しいな。さ、冷めないうちに召し上がれ」


 ご飯はどれもとても美味しくて、私とネイサンはたくさんお代わりをした。

(こんな日常、なんか、いいな)

 そんなことを考えながら、私はスープを飲みほした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る