第4話

「まぁ、でも話しかけにくいことがあるっていうのは分かるよ。じゃあ、話しかけやすそうな人から友達になっていくのは?」

 

 川崎さんは一応の理解を示すポーズとして次の案を提示した。


「たとえば?」


「同じようにグループに入ってない人とか?」


「まぁ、ありだわな」


 作戦としては有用だと思う。というか正解まである。

 浦和さんもクラスの人を思い浮かべているのか「う~ん」とうなりながら視線は宙をさまよっている。

 そういう人たちは浦和さんと同じく日々心細い思いを多少なりともしているだろうし、話しかけたらある程度仲良くなる可能性は高いが……


「ただな〜」


「なんか歯切れ悪くない?問題でも?」


「いや、俺がってより浦和さんが。な?」


 そう言って浦和さんに視線を振るとぴくんと跳ねた。

 この子、俺が見るたびに跳ねるんだけど、俺ってそんなにきもい?ちょっと泣くよ?


「いや、それもいいかなーって思うんですけど……」


 浦和さんも歯切れ悪く返事する。視線もどこを見るでもなく俺たちの様子をうかがっているようだ。まるで、失敗をごまかす子どものように。

 止まった解答の続きを川越さんが促す。


「けど?」


「そういう子たちとは違うかなって……」


 気まずそうな顔で浦和さんはつぶやいた。

 なんとなく、浦和さんが未だにグループに入ってない子たちと組みたくなり理由が分かった。

 ただ、言いにくいよなぁ。特に川越さんが「誰とでも仲良く!」なんて聖人っぽいこと言ったばっかりだしな。

 俺は浦和さんが出すのをためらっている気持ちを確認する。


「もしかして、ださいグループに入る気はないってことか?」


 俺の質問に浦和さんは上目づかいで首肯する。小さい浦和さんがさらに縮こまった。まさに叱られる子どもだ。

 つまり、浦和さんの悩みは『クラスの上位グループに入りそこねた』という事だ。

 たぶん浦和さんは高校デビューを目指そうとしたのではないだろうではないか。

 だから遠くの学校に通い、髪をカールさせたりネイルをしたり容姿に気を使い始めたのだろう。川越さんへの憧れの強さもその一端かもしれない。

 おとなしそうなイメージの彼女が入学早々これだけ構えているのも申し訳ないが少し違和感を感じる。

 いろんな推理材料はあるが、川越さんの2つ目の提案に納得していない様子だったことが一番の引っ掛かりとなった。


「おーけー。だいたい分かった」


 問題点とゴールは見えた。あとは道筋を提示してやればいい。


「浦和さんはSNSはやってるか?インスタとか」


「一応やってます。クラスの人の投稿見て気持ちが沈むので最近は開いてないですけど」


 わかるー。インスタって自慢しか載せないからイライラして開かなくなるんだよね。え、そういう事じゃない?


「クラスの奴らのことはフォローしてるんだな」


「まぁ、一応相互フォローしてる子もいます」


 細工は流流だ。


「よし、じゃあ行くぞ!」


 俺はそう言って席を立ち、机をもとの配置に戻し始める。


「どこに?」


 川崎さんが意味わからんキモ、と言わんばかりに聞いてくる。

 だから、俺は全力の笑顔に横ピースで答えた。


「デートに!」


 あれ?二人とも笑ってないどころか、ちょっと睨んでる。

 はいはい、嬉しい嬉しい。

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