第2話
俺たちが使わせてもらっている教室は、特別棟2階にある少人数の授業などで使用する多目的教室だ。黒板、教卓の前にはざっと15人分ぐらいの机と椅子が並んでいる。
普段は適当な位置の机を選んで座っているが、だいたい定位置が決まっており、俺は窓側に座り川越さん達は教室の真ん中あたりに座ることが多い。
しかし、今日はお客さんがいるので真ん中で机を3つくっ付けて島にしている。そこで俺たちは今……
「8切り!10捨て!ジョーカー!」
「あ、俺スぺ3持ってる。はいクイーンボンバー×2。ふはは、お前らAとキングを捨てろ」
「あ、あの、わたしあがりです……」
「ばか大宮!なにやってんの、ばーか、ばーか」
「ふぇぇ、そんなこと言われたって。あ、10捨てで俺もあがり」
「うっわ、きもー」
特殊ルール全有り大富豪をやっていた。
俺の対面に座っている川越さんはまだ「きもー」と連呼している。
女の子の「きもい」ってなんであんなに破壊力えぐいんだろうね。本気じゃないとわかっていても寝る時に思い出して胸がざわざわするんだよ。
なんて少し傷心していると、普段はこの教室にいない小動物女子が声をあげた。
「あ、あの、先輩たちは何なんですか⁉」
まるで誘拐された人みたいなセリフだなぁ。
彼女はお誕生日席から警戒心丸出しの小動物みたいに俺たちをきょろきょろ見まわしている。
久喜先生が何も説明せずに帰っちゃたからなー。可愛そうに。
そんな小動物ちゃん……教室に入ってくるときに浦和実憂って名乗ってたな……浦和さんの様子を見て、川越さんは緊張感をほぐすような朗らかな笑顔を向けた。
「わたしは2年B組、川越楓子。よろしくね!」
「知ってます!」
浦和さんは興奮気味に嬉しそうに答える。テンション高いな。
まぁ、俺も名乗っておくか。しかし、初対面の男が妙にテンション高く自己紹介すると93%スべるのであくまでぶっきらぼうにしよう。いやまじで、ここぞとばかりにボケて愛想笑いされると脇から滝汗がすごいからね。
「2年E組、大宮」
「……知らないです」
「おい!」
いや、おい!って程じゃないけど、川越さんとの落差で思わずツッコんでしまった。
浦和さんはおずおずと申し訳なさそうに答える。
「いや、フーコ先輩は1年生の中でも有名なんで。美人でかっこいい人が2年にいるって。先輩のことはちょっと……」
「さいでっか」
「いや~、美人だなんてありがとね」
川越さんはあっけからんとお礼を言う。
まぁ、川越さんはバリ陽キャだから他学年にも知られてることもあるでしょうよ。かたや俺はクラスの人にも知られてないまであるからね。
それなのにウヴォ―キンみたいな大きい声出してごめんね。いや、そこまで大きくもなかったけど。
「でも、フーコ先輩ってほんと噂通り綺麗だし、誰にでも分け隔てなく優しいんですね!」
「ぜんぜんそんなことないよ~。ほら、いろんな人と仲良くなる方が楽しいじゃん?」
おい、その『誰にでも』って浦和さんのことだよね?俺のことを指してるわけじゃないよね?
照れ笑いするように答える川越さんを、浦和ちゃんは「ほへ~」と尊敬のまなざしを向けている。
あれ?川越教に入信しちゃったかな?けっこう信者いるらしいのよ。俺は入信してないけど。
だってあんまり優しくされてないし。
「それで、浦和さん?ミユちゃん?はどういう経緯でここにきたの?」
「ミユで大丈夫です。ちょっと悩みごとがあって相談室に行ったんですよ。そしたら久喜先生にここに連れてこられたんです」
それはいつものパターンだ。
久喜先生は放課後に相談室で生徒の悩みを聞いたりもしている。生徒の問題を迅速に把握・解決するために設けられたシステムらしい。
それで、たまに久喜先生は相談者をこの部活によこすのだ。
職務怠慢!とか相談者が可哀そうだろ!とは思うが、なかなか俺たちは先生に逆らえない事情があったりする。
「ていうかここって何かの部なんですか?」
たしかに陽の女子と陰の男が二人でいると思ったら、教室に入るなり大富豪させられるとか意味わからないよね。今のところライアーゲームとか賭ケグルイのノリだもんね。
「ふふーん、何部でしょう?」
川越さんがいたずらっぽく笑うと浦和さんは少し思案したのち答えた。
「うーん……ごらく部?」
たしかに遊んでるだけだけど、それだと一昔前のアニメみたいになっちゃうよ。だいじけんだよ。
たしかに川越さんと浦和さんのゆるい百合展開もありですけどね。
そんな風に俺がアホなことを考えていると出題者の川越さんは横ピースをして正解を発表した。
「正解はテーブルゲーム部兼相談分室です!」
それにしてもこの川越、ノリノリである。
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