北へ【5】
音の滴が落ちてくる。
青年は瞬きをして、ベッドの上に身を起こした。
起き上がった拍子に髪結いの糸がほどけ、黒橡色の髪が頬に掛かる。彼はそれを気にするまでもなく、窓の外に目をやった。幼さの残る甘い顏に反して、髪の合間から覗く紺碧の瞳は酷く険しい。
宿屋の部屋は狭く、ベッドと彼の荷物があるだけで、他に人の気配はない。そもそも人々はすでに寝静まっている時刻である。
現に彼も疲れた身体をベッドに横たえ、眠りの波に身を任せていたはずだ。
けれど、その眠りは音の滴に阻まれた。
いや、音というには曖昧な空気の震えが先程から滴となって落ちてきている。
アルクトゥールス《この地》に着いてから三日、こんなに天の裂目から音が落ちてくる日は今までなかった。
枕元に置いた小さな竪琴を手にとり、彼は窓枠に身を寄せた。
ぽろんっと腕の中の弦を弾けば、空のオーロラがそれに答えるように揺れる。
「流星、何を伝えようとしているの」
彼は友の名を呼んだ。しかしここに居ない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます