命降る夜【5】

 セラは言葉の意図がわからず目を瞬かせる。


「どうして?」


「兵達がそれを許さない。きっと命を狙われるだろう」


 セラは僅かに肩を震わせ、昼間の兄との遣り取りを思い出す。何もせずに受け入れることを、セラは決して望まない。他に方法があるにも関わらず、それをせずに黙って受け入れるようでは、村の大人たちと同じになってしまうからだ。


 今こそ考えを行動で示す時だろう。


「私、やる!」


「命が惜しくないのかい?」


 怖くないと言ってしまえば嘘になる。それでもセラには強い決意があった。


「端からあんなやつらにくれてやる気なんてないわ。私は私の未来のために行動を起こすの」


 セラは決意を音にして、繋がれた手にぎゅっと力を込める。その途端、セラの耳をついたのは軽快な笑い声である。


「乙女、君は母様が言っていた通りの人物のようだ」


「母様? 星にも親がいるの?」


「もちろん。君に両親や兄弟がいるように、俺にも肉親はいるよ」


「でもなぜ、あなたの母親は私のことを」


 知っていたかってこと?――と、流星は言葉尻を奪うと、苦笑いを浮かべるように目尻に皺を寄せた。


「それは考えるまでもないことだよ」


 彼が星であるなら、親も星なのだ。セラは流星が口にした言葉の意味を悟った。彼らは空からすべてを見ている。確かに尋ねるまでもないことだ。セラはそれ以上そのことには触れず、言葉を続けた。


「ねえ、流星、あなたは自由に生きられる場所を知っている?」


「なんでそんなことを聞くんだい」


「もしこの村にいられないなら、私はそんな場所に行きたいもの」


「それがどんなに困難でも?」


「ええ」


 はっきりと答えたセラに、流星は何かを思案するように険しい表情になった。


「君ならあるいは……」


 流星の呟きは本当に小さくて、セラは最後まで聞き取ることができなかった。教える気がないのか、それとも最初からそんな場所など存在しないのか。もし存在しないというなら、それはセラにとって悲しむべきことだ。それでも流星の次の言葉は、セラの気持ちを幾分か浮上させる。


「わかった。俺が君の望む場所まで導こう」


「本当にいいの? 兄さんのことでもお願いを聞いてもらったのに」


「いや、元々あれは、誰かが言わねばならない言葉。そのために誰かが死ぬのは見たくはない」


 セラはふっと気持ちが軽くなった。誰かが死ぬのは見たくない――という言葉が自分の思いと重なる。それは流星を信頼するには十分な言葉だ。


 きっと兄に死が迫ることはないし、セラ自身も自由な場所を手に入れられるだろう。


 不安は薄れ、セラの中では期待が生まれつつある。


「行きましょう、流星」


 返事の代わりに流星は、力強くセラの手を引いた。

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