そして最後のケルベロス

倉本たつき

遺跡にて……

「夢幻残像拳!」

 僕は無我夢中で目の前の敵に必殺技を使った。

 目の前の敵は中型のスフィンクスだ。

 夢幻残像拳はその名のとおり、夢や幻で残像を作る技だ。

 スフィンクスはモンスターで、僕と戦っている。

 スフィンクスは僕の残像に囲まれて、殺気立った目を周囲に向けている。

「喰らえ! ファイナル・ゲリラゴ」

 僕は炎の魔法でスフィンクスを焼き尽くした。

 これで良かったんだ。

 といっても油断はできない。

 僕はこの遺跡に入ってから、まだ宝は一つも入手していないが、出てくるモンスターはどんどんパワーアップしている。

 最初はスライムやゴブリンを倒していたのだが、まさかスフィンクスのようなモンスターまで出てくるとは。

 しかしどうやらこの遺跡の門番は次で最後らしい。

 僕の頭の中の地図が、遺跡の最深部は次と見ている。

 僕は勢いよく遺跡の扉を開けた。

 すると、最後の番人が出てきた。

 三頭の犬、ケルベロスだ。

 左右の顔は舌を出しているが、真ん中の顔は僕を正面から睨んでいる。

「グウウ……!」

 さっきのスフィンクスほどの大きさはないものの、敏捷性や運動神経、身体能力はこのモンスターの方が高そうだ。

 僕は腰に差していた剣を抜いた。

 この剣は古の時代に、ドワーフが作ったという魔剣クロスキャリバーで、切れないものはない。

 ただし、一秒使う毎に、寿命を一秒使ってしまうので、本来なら使うべきではない剣だ。

 だが、遺跡の最深部には、どんな病気も治す万能草があるという。

 万能草は、病気の母親のために、なんとしても手に入れなければならない。

 僕は勇気を出して、剣を構えた。

 そして一気にダッシュ斬りをした。

 しかし、ケルベロスは想像以上に速い。

 僕とケルベロスの戦いは、まるで泥試合のようだ。

 お互いにスタミナを消費し続けている。

 毎朝、走って鍛えていなければ、今頃スタミナが尽きていただろう。

 ケルベロスは僕の背後を狙って走ってくる。

 よだれを出しながらも、僕という敵への集中力は切れていないようだ。

 こうなったら魔法と剣のコンボで倒すしかない。

 僕は尽きそうな魔力を振り絞って呪文を唱えた。

「パラミス!!」

 ケルベロスの表情が一斉に驚きに満ちた。

 ケルベロスの足が凍りついたのだ。

「無限・斬!!」

 僕はここぞとばかりに、エクスキャリバーでケルベロスの頭を切り落とした。

「ぐぎゃああ!」

 次々に三頭とも首から斬り落とした。

 ケルベロスは死んだ。

 僕は遺跡の最深部へと足を踏み入れた。

 そこには、確かに宝箱があった。

 開けてみると、万能草があった。

 やっとこれで母さんの病気が治る。

 僕の名前はアレックス・ガリオン。

 冒険者として10年間鍛えてきた。

 遺跡を帰るのは簡単だった。

 何故なら、敵を倒した後だったからだ。

 僕は長い距離をかけて家まで辿り着いた。

 途中で野宿をしながら一ヶ月で帰った。

 家が見えると、妹のソフィアが庭にいた。

「お兄ちゃん、お帰り」

「ソフィア、母さんは?」

「駄目だよ。ずっと目を覚まさない」

「安心してくれソフィア。僕は万能草を手に入れたんだ!」

「本当? ありがとう、お兄ちゃん」

 僕は玄関から家に入った。

「母さん……ああ、本当だ。眠っているままだ」

 妹も後からついてきた。

「お兄ちゃん、手伝おうか?」

「頼む」

 僕は妹と二人で母さんに万能草を飲ました。

 僕が母の体を支え、妹が飲ましたのだ。

 眠っていた母さんは、目を覚ました。

「ここは? あれ、ソフィアじゃないか! ああ、アレックスも!」

「母さん、もう大丈夫だよ」

 僕の発言に母さんは言った。

「ありがとう、アレックス。私はずっと眠ってたんだね……お父さんは?」

「そういや、父さんはどうしたんだ。スフィア」

「お父さんは……この間、モンスターとの戦いで死んじゃったの……」

「なんだって?!」

 僕は内心、雷が鳴るほど驚いたが、顔には出さなかった。

 人はみないつか死ぬ。

 だからこそ、一生懸命生きるべきなんだと思ったからだ。

















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そして最後のケルベロス 倉本たつき @kuramototatuki

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