第10話 初恋の人
連載戯曲『梅さん⑩ 初恋の人』
時 ある年の初春
所 水野家と、その周辺
人物 母(水野美智子 渚の母)
渚(卒業間近の短大生)
梅(貸衣裳屋、実は……)
福田ふく(梅の友人、実は……)水野美智子と二役可
ふく: わかった?
二人: ふくさん!?
ふく: 平四郎さんて、梅さんの初恋の人。
梅: ちょ、ちょっとふくさん!
ふく: 話しには聞いてたけど、いい男だったわね。
梅: あ、さっき感じた気配?
ふく: あ・た・し、ヘヘ、でも渚ちゃんも良い勘してるよ、梅さんの決心間違ってないと思うよ。
渚: ありがとう。で、平四郎さんて?
ふく: 旧制一高の学生さん……いつも通学途中の坂道ですれちがっていた……そうだったよね?
梅: ……
渚: デートとかは?
ふく: とんでもない……一度だけ……ね(n*´ω`*n)
渚: 一度だけ?……
ふく: 変なこと想像したでしょ(ー_ー)!?
渚: う、うん……
ふく: 正直でよろしい。でも、そういう刺激的な想像が先にたつようじゃまだまだね。
渚: は、はい。
ふく: 一度だけ……平四郎さん、脇に抱えた辞書をおっことして、それを梅さんが拾ってあげたことがある。
渚: 勉強家なんだ。
梅: さあね……でも、それで間垣平四郎いう名前が知れた。
「あの……落としましたわ……」
「ありがとう……君、白梅女子の?」
「はい、佐倉梅と申します(*ノωノ)」
「そう……ありがとう佐倉君」
「どういたしまして……」
「じゃ」
間
渚: ……それで?
梅: それだけ。
渚: それだけ?
梅: 卒業間近い、ちょうどこんな梅の季節……
ふく: そして、それが桜に替わり、八重桜も散った新緑の頃……お見合い、そして結婚。
そして次の梅の季節に雪ちゃんが生まれて、そして、その年の新緑のころ死んじゃったのよね。
渚: ……そんなにあっけなく。
梅: よくあった話よ、昔は。
渚: 梅さん……
梅: え?
渚: サクラって苗字だったんだ……
ふく: そう、佐倉惣五郎の佐倉。
渚: え?
梅: 人偏に左って書く佐と、倉敷の倉。わたしの旧姓。
渚: でも、耳で聞くとサクラウメ、春の妖精みたいだね……
梅: ありがとう、でもわたしは水野梅よ。たった一年ちょっとだったけど、わたしは今でも水野梅……渚のひいひいお婆ちゃんよ。
渚: ありがとう……
ふく: じゃ、私はこれで……
梅: マレーネは、うまくいった?
ふく: ヘヘ……また二人きりの時にでも……じゃあこれで、大事に生きるんだよ渚ちゃん。
渚: はい……
梅: 一つだけ聞くね。
ふく: なに?
梅: ドイツにもその格好で行ったの? たしかブランデンブルグ門の近くだったわよね?
ふく: もちろん。
梅: やっぱし……
ふく: じゃあね(消える)。
渚: ふくさん……悲しそう。
梅: そう分かっただけでも成長ね。でも、渚が同情しても解決にはならないからね。
今夜はよっぴき二人で飲み明かすわ……それより平四郎さんはね……
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