第2話 常磐衣裳でございます
連載戯曲『梅さん②常磐衣裳でございます』
時 ある年の初春
所 水野家と、その周辺
人物 母(水野美智子 渚の母)
渚(卒業間近の短大生)
梅(貸衣裳屋、実は……)
福田ふく(梅の友人、実は……)水野美智子と二役可
スマホの地図を見ながら、紺の袴に矢絣姿、パンフのモデルそのままの「梅」が、衣装箱を持って、水野家の玄関にいたる。
梅: ごめんくださいませ……
母: はい……?
梅: 常磐衣裳でございます。御注文のお衣裳をお持ちいたしました。
渚: ……かっこいい。
母: ありがとう……あなたパンフのモデルをやってらっしゃった……(パンフとみくらべる)
梅: はい。モデル自身が御注文と同じお衣裳で、おとどけいたすことになっております。
社員なのでプロのモデルではございませんが、この姿をご覧いただいて、最終的にご判断いただき、
お気に召していただければ、着付けのお稽古などもさせていただきます。
母: まあまあ、それはごていねいに(^▽^)。
渚: お母さん、だんぜんこれがいい(#^0^#)!
母: なにもかも勝手に決めてって、文句言ったのは、どこの誰だったっけ?
渚: いいものはいいの、それでいいじゃん。いいと思ったことは素直にみとめる。
年格好というか、姿形というか、あたしによく似た美人さんだし、あたしもピシッときめれば、こうなるんだ!
梅: ありがとうございます。
母: それじゃ、あたし近所の寄合に行ってますんで。どうぞ上がっていただいて。
着付けの指導とかしていただいてもらいな。その梅の鉢も忘れずに入れとくんだよ。じゃ、よろしくね。
梅: はい、承りました。いってらっしゃいませ。
渚: こっちよ、玄関入ってくれる。
庭のセット(物干しに植え込み程度)が瞬時に片づけられ、居間の設定になる。
梅: 失礼いたします。
(渚が開けた無対象の玄関を閉じ、框で草履を脱ぎそろえ、下座とおぼしきあたりに正坐をし、作法どおりに頭を下げる)
改めてご挨拶いたします、このたび水野様の担当をさせていただきます、水野梅と申します。よろしくお願いいたします。
渚: あ、ども、こちらこそ……同姓なんですね、水野さん(梅の鉢をもったまま、一応正坐で礼をする)
梅: おそれいります。どうぞお楽になさってくださいませ。あ、その梅の鉢はわたくしが……
とりあえず出窓の方でよろしゅうございますでしょうか?
渚: う、うん。
梅: まことに、見事な剪定でございますね。枝の詰め方といい、葉の刈り方といい……
あら、思い切って間引いてございますね。
渚: でしょ。花が開いたときにちょうどよくなるって、おかあさんもそう言うんだけど……
梅: ……
渚: あたし的には、自然にボサッとパンクしててさ、ゴシャッとしているのがよかったんだよね。
梅: ここまで……
渚: どうかした?
梅: いえ、蕾の間引き様に驚いてしまいました……
渚: でしょでしょ、ほっときゃそれなりにお花がいっぱいになったのにね……
梅: さ、ではさっそく着付けのお稽古をいたしましょう。
渚: うん、どこまで脱ぐ?
梅: コートをお脱ぎになって……
渚: はい。
梅: あら、お覚悟の良い、ショートパンツでいらっしゃいますのね。
渚: うん、部屋の中でゴシャゴシャと着てるのウザったくって、コートだけごつくして、中味は、夏とそうかわんないの。
梅: それでは、そのセーターとレッグウオーマーを……
渚: ブラとかパンツは?
梅: ホホ、そこまでは、お稽古ですから、Tシャツとショートパンツで……
襦袢、着物、帯、袴と要領よく着せていく。
その間「いいプロポーションでございますこと」「へへ、そうかしら」「足袋をお履きになって……」
「旅から帰って足袋だ」「おみ足もおきれいでいらっしゃいますこと」「へへ、どうも」
「はい、やっぱり今のお方ですものねえ……」「おねえさん、いい香り」「さようでございますか?」
「なにかつけてんの?」「いいえ特別なものは」「ううん、なにかつけてるよ」「ホホ、椿油とヘチマコロンを少々……」
「ヘ、ヘチマ?」
「レアものでございますのよ、ホホ……お袖を通しますわね……そう、リラックスなさって……この襟元がコツでございましてね」
「へえ……どうだろ、髪型とかは?」
「おまとめになって、お手伝いしますね……そう……おリボンもセットされてございますから」
「わ、おっきくてかわいいね、このリボン」「お似合いですわよきっと……帯をしめます、息をお吐きになって」
「ハー……」「はい!」「……帯ってこんなにきつい……おねえさんの性格……?」
「いいえ、」「すっきりしあげるためには、ここが肝心!」「ギョエッ……」
「でも、私どもの……いえ、昔にくらべますと、かなり略式になってございますのよ。
はい、ではお袴はこんな……感じでございましょうかね」
「ま、毎日着るわけじゃなし……へえ、袴の位置ってこんなに高いんだ」「料金はお安くしてございます」
「ハハ、うまいこと言うジャン」「はい、鏡をどうぞ……」
「ワッ、カッケー、脚がすんごく長く見える。こんなの制服にしてお店開いたら、アンナミラーズとか、今流行のメイドカフェより繁盛うたがいなしかもね」
「ホホ、そういうときには襷がけなどいたしますと、二の腕あたりがチラリと……色っぽうございますわよ」
「ハハ、おねえさんもなかなか言う……」「さ、できあがりました、ひとまわりしていただけます……(かるく襟元などを手直しする)はい、よろしゅうございます」「ありがとう」など。
着付けの時間無言になったり、テンポをくずさぬよう、着付けの練習と会話の練習をしっかりしておくこと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます