連載戯曲『梅さん』
武者走走九郎or大橋むつお
第1話 お母さんっヽ(#`Д´#)ノ!!
連載戯曲『梅さん① お母さんっヽ(#`Д´#)ノ!!』
時 ある年の初春
所 水野家と、その周辺
人物 母(水野美智子 渚の母)
渚(卒業間近の短大生)
梅(貸衣裳屋、実は……)
福田ふく(梅の友人、実は……)水野美智子と二役可
幕開くと、水野家の玄関脇の庭。母の美智子が鼻歌まじりで洗濯物をとりこんでいる。明るい性格だが、子育てには失敗したようで、娘の渚は、わがままで刹那的な性格。生まれもった人の良さを、ほとんど損なっている。ややあって、家の前の四メートル巾の道路に見立てた花道(客席通路)を渚がキャリーバッグを引きずり盆栽のビニール袋をぶら下げ早足でやってくる。母の鼻歌が聞こえるやいなや……
渚: お母さああああああああああん!
母: あら、お帰り。さっそくで悪いけど、洗濯物たたんどいてくれる。
五時から町会の寄り合いがあんの。短時間だっていうけど、夕食前の五時なんてねえ、婦人部長だから仕方ないけど……町会長も考えてくれなきゃ……悪いけど夕飯は、お父さんと適当に食べといてね。
渚: お母さんっヽ(#`Д´#)ノ!!
母: なによお、怖い顔して、卒業旅行の帰りって顔じゃないわよ。
渚: これ!(スーパーの袋に入った梅の盆栽を、母の顔の前につきつける)
母: あら、かわいい盆栽じゃない。白梅ね……おじいちゃんにもらったんでしょう?
やっぱり親類の家を利用するのが一番よね。伊豆の一等地で、宿泊代もただでお土産までもらって。
盆栽のお土産って気が利いてるじゃないの、じいちゃんも増やしすぎてもてあましちゃったんだろうね。
まだ蕾だから、水やりに注意して家の中に入れといたら四五日で開くわよ。玄関に置く? それともリビングの出窓にでも……
渚: あの!
母: あ、飛行船が飛んでたでしょ! ツエッペリンての、ニュースでやってた。なんかの宣伝らしいけど、伊豆の海と山の上をゆーっくりと飛んでるの。見たかったなあ……渚は見たんでしょ!?
渚: 人の話を聞かないで一方的にしゃべるのは、水野家の伝統のようね?
母: あ、そう?
渚: 娘がこんな顔して帰ってきたら、理由聞くのが先でしょ!?
母: ごめん、卒業旅行が羨ましくってさ。
伊豆の海と空と飛行船、おまけにあんまりかわいい盆栽だからさ……どうかした?
ひょっとして盆栽きらい? だったらお母さんが……(手を出す)
渚: (さっとひっこめて)これは、あたしがくれって言ってもらったものなの!
母: はあ……
渚: だから……
母: だったら怒ることなんかないじゃない。
渚: だから聞いてよ! この梅はね、昨日まで、葉っぱや蕾がいっぱいついててゴージャスだったの、
だからちょうだいって言ったの。卒業式も控えてるし、白梅学園て学校の名前にもピッタリだったし。
母: おやおや、麗しい愛校心ね。そうだ、卒業式の衣裳決めてなかったでしょ、もう間に合わないから決めといたわよ。
縁側にパンフ置いといたから見といて、今日明日くらいには配達してもらえる手はずになっているから。
渚: またそうやって勝手に事を……盆栽よ……盆栽!
いつしょに行ったトコとかサチはきれいに散髪しといてくれって言ってたけど、あたしの梅はボサボサのまんまがいいって、
じいちゃんちっとも話聞いてないんだから!
母: じいちゃんらしいねえ。
渚: そのくせ、湯かげんはどうかって、お風呂入ってる時に覗きに来るし。
母: アハハ……
渚: アハハじゃないわよ。就職したら、カチコチのスーツ、髪だって眉のとこまで切るんだよ、チョンチョンにさ。
ミッションスクールじゃあるまいし……そんなみじめな自分の姿とも重なるってことも考えないで、こんなに散髪しちゃって……
母: 剪定っていうのよ。花が開いたときにちょうど良い姿にするために、開花するちょっと前にも……(自分でパンフをとりにいく)
渚: あたしはボサボサがいいの!
母: ほら、卒業式の衣裳。やっぱ紺の袴に矢絣、これにしといたよ。
まあ、モデルさんほど清楚なべっぴんてわけにはいかないだろうけど、馬子にもなんとかっていうから……
渚: もう、そうやってみんななにもかも勝手に……
母: 勝手なことばっかり言うんじゃないわよ!
文句があんなら、どうして旅行の前に決めとかないの、
前から言ってるでしょ。盆栽だって、じいちゃんが善意でしてくれたことでしょうに。
それをそんなに悪く言うもんじゃないわよ!
渚: 勝手がしたいの!
もう大人になって、社会人になって、着るものから髪型までうるさく言われる会社に入って、
三月半ばから、もう研修とかでしばられっぱなしで、この半年一年は、息もつけないんだよ。
それを、その直前ほんのちょっとわがまま言ったり、勝手言ったりしちゃいけないの!? 衣裳だってスマホで送るなり……
母: おじいちゃんちは圏外なの、知ってんでしょ。裏山で電波届かないって!
渚: 電話で話してくれるだけでもいいじゃない!
母: 電話でイメージなんか伝わらないでしょ。だいいち、旅先に電話なんかしてくんなって行ったのは渚の方なんだよ!
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