第16話 協力者確保
「クロムさあああああああああん!聞こえないんですかああああああああ!」
私は一人、ベッドの上で叫んでいました
「クロムさん、やっぱり聞こえてないみたいですね」
クロムさんから全く反応がこない。まるで聞こえていない感じです。
これで無視しているだけだったらさすがに傷つきますよ。
さて、クロムさんはしばらく戻ってこれなさそうですしどうしましょう。
少し前、ドラゴンさんと思われる方に通信が切られた直後、私の服はただの布へと変わってしまいました。久々に羞恥で叫びましたよ。よく考えたら元の私の服はどこへいったのでしょう。
服がない私を見かねてトーカさんが大浴場へ行くことを提案してくれました。トーカさん曰く
「みんな裸なら恥ずかしくない!裸の付き合いといこー!」
だそうです。お風呂自体はすごく広く全員で入っても問題なかったです。問題があるとすればウィズさんとチユさん。それはもううらやましいものをお持ちでした……今そのことを考えるのはやめましょう。
お風呂から出た私はチユさんからお洋服をいただきました。昔、着ていた白のワンピースだそうです。私に似合うかは置いておいてチユさんのイメージにはピッタリな服ですね。ありがたく着させていただいています。
その後、私に用意された客室に着き誰かがベッドの上に置いてくれた布に触れた瞬間にクロムさんの布切れから声が聞こえてきたというわけです。前と違って映像までは出てこず更に一方的な受信しかできないっぽいです。しかも布から手を離すと声は聞こえなくなります。
「どうしたの?なんかすごい雄叫びを上げてたけど」
「はい、鬼気迫るものを感じました」
ウィズさんとチユさんが心配になって部屋まで来てくれました。ただ声が向こうに届くか試していただけなんです。
「い、いえ、何でもないんですよ」
「そうですか……何か困りごとがあれば言ってくださいね」
チユさんが心配そうな顔でまだ私の方を見ています。
「今はしっかりと休息をとりなさい」
ウィズさんのこの発言は空気を読んでくれたのでしょうね。
「お二人の心遣いに感謝します。でも私は大丈夫ですよ」
二人が出ていくのを確認した私は状況整理を開始です。いや無理でしょう。クーリングオフする人がいないんですよ。とりあえず布からの会話を盗み聞きしましょう。何か糸口を見つけなければ。
「シン、これはなんだ?」
少し優しいトーンになっているクロムさんの声が聞こえます。クロムさんとシンさんの関係の改善が覗えます。
「クーが持っていてくれ。もしかしたらなんかの役に立つかもしれないだろ」
「シンがそういうならこれは我が預かろう」
クロムさんは何かを受け取ったようですね。
「回復の魔法陣があれば水と食料はなくても死ぬことはねーけどそろそろ動きたいな。クー出発するか。1階層ずつ頑張っててっぺん目指そうぜ」
ふと疑問に思ったのですがワープ系スキルで一度このダンジョンの昨日であるランダムな場所に移動するという機能を使えば最下層よりは上の階に行けると思うのですが。いやこれは素人考えですね。もしかしたらとんでもない場所にワープしてしまうかも知れないとか引き返せない可能性とか危険性を考えてのことでしょう。
その後、詳細な方針を決めた二人は上の階へと向かい始めました。私はクロムさんの布を腕に巻きます。これで向こうの会話を片手間で聞くことができますね。クロムさん達が行動を開始したならこちらも動きましょう。私はシンさんの家から移動します。打てる手は打っておかないといけません。クロムさんが帰ってきてから無計画というのもあれですしね。
王都の中心部から少し離れた大き目の建物、これが私の目的地、冒険者ギルド。何とか夕方に着くことができました。冒険者ギルドは魔物討伐などの依頼を受けられる場所らしいですが今の私の目的とはあまり関係ないですね。
迷わず中へ入ります。私が中に入っていくといろいろな方の視線を感じました。場違いですし視線にさらされるのもしょうがないですね。とりあえず受付に向かうふりをしますか。
「おい、嬢ちゃんここがどこかわかるか?ガキの来るような場所じゃあないんだぜ」
不潔そうな大男が酒瓶片手に私の方へと近づいてきます。
「ふむ、よかった。あなたでしたか」
私は彼のステータスを見て確信します。
「なんだ?もしかして花売りか。そういうことなら」
下種な笑みで私のことを値踏みしてくる大男。すこし不快ですね。
「コード18782、私のサポートをお願いします」
天界の略式コードを口頭で伝えました。大男はぴたりと動かなくなります。
「コードと力の確認が完了いたしました。役割を一時的に解除、天界のサポートへと移ります」
大男は私に対しての態度が一変します。次の言葉を待っています。ふふふ、これぞ天界より頂いた緊急時に使える解除コードです。地上にて転移者や転生者のサポートを行っている天使たちに現在の役割を解除させ助力をしていただけるのです。
「はい、よろしくお願いします。とりあえずここは目立つので場所を移しましょうか」
先程からギルドの受付の方や他の冒険者の視線が気になります。正義感の強そうなのに話しかけられそうですしね。
「承知いたしましたぜ」
急にフランク?なしゃべり方ですね。たぶん長年の役職が抜けないのでしょう。私たちはさっさとその場をあとにしました。
「えっと武器屋さんはご存知ですか?」
「もちろんしっていますぜ。ご案内いたしますぜ」
ちょっと変なしゃべり方の大男の案内で私は近場の武器屋へとたどり着きました。
「いらっしゃい。ってダグラじゃねえか。てめーに売る武器なんてこの店には1つもねーよ!帰りやがれ!」
髪の毛の存在が確認できない、少し色黒のゴツイ店主が入ってきて早々、私の隣の大男ことダグラさんを追い返しにかかります。
「コード8996、私のサポートをお願いします」
先程と同じようにコードを言います。彼の動きが止まります。
「コードと力の確認が完了いたしました。役割を一時的に解除、天界のサポートへと移ります」
二人に今、何が起きているかを私の知っている限りで説明します。
「それにしてもシンの野郎を捕まえて追い返す。随分な無茶ぶりだ」
「そーですぜ、魔王たおしちまうくらいの力を持っている時点でやべえですぜ」
お二人とも喋り方は馴染んでしまっているようなので話しやすい方でと頼みました。それにしても武器屋のタンゾウさんは結構、勇者と付き合いが長いのでいろいろ知っているみたいですね。
「お二人ともここでの職務は長いのですか?」
ここでお二人の情報も整理しましょう。
「まあまあだな。この世界に来て50年くらいずっと武器屋の店主なんて職業をやらされているがちゃんと異世界人たちをうまくサポートできていると思う」
「俺はやっぱ、やられ役だからよ随分と苦労したぜ。毎回、ギルドに異世界人が来るたびに突っかかってやられに行かなきゃなんねえ。それであいつらに自信が付くってんならやりがいはあるけどな」
このように天界の住人の何人かはこの世界に潜み陰から彼らをサポートしているのです。
天界の者の寿命は長く見た目は変わらないのでこういった役は定期的に交替があるのですが人材不足なのでしょうか。同じ人が50年もやって見た目も変わらなかったら自然に思われないのでしょうか。今は他に考えることがあるので優先度の低い疑問は頭から外しましょうか。
「とりあえずシンさんを動けなくしたいんですが、やっぱり寝てる時を襲うのが一番ですかね?」
「無理だな。気配察知のスキルが常時発動してるし、奴は勘も鋭い。下手したら設置した天界の術式すらばれる」
「ならお二人が力づくで抑え込むとかは」
「サラちゃん、それは無理ってもんだ。たしかにサポートに回っている今、俺たちは天界の力もフルに使えるから多少は戦えるけどよ」
タンゾウさんは難しい顔をします。
「じょーちゃんすまねーがんばって1分足止めできるかってとこですぜ」
「そんな!お二人だけがたよりなんです」
「いや、そこは天界から派遣されたサラちゃんの考えるとこだろうよ」
タンゾウさん意外と冷たい。
「ぐぬぬ……わかりました。少し考えてみます。今日は顔合わせと状況説明だけです。各自役割に戻ってもらって構いません。後日何らかのお手伝いをしてもらうと思いますのでその時はよろしくお願いします。では、解散です」
とりあえず新しい仲間を確保したので計画を立てなければ。やっぱりこうなるんですね。なんとかお二人のデータは記憶しました。天界の術式の知識に詳しいダクラさん、術式の形成が得意なタンゾウさん。二人とも天界の術式に精通しているみたいなのでそこを活かしたいですね。あれこれ考えながらもクロムさん、早く帰ってきてくださいと最後には祈るばかりです。
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