第14話 勇者と怨念(クロム)と龍

 王都に向かうおうとしたところで服を通して声が聞こえました。

「サラ様聞こえますか?ご無事でしょうか」

 クロムさんからでした。

「私は大丈夫ですよ。そちらもご無事ですか」

「はい、なんとか。いま、外来種と共に最下層の一つ手前におります」

「ええ!?帰ってこられるのですか?」

「それはわかりません。ですが最下層にいるこのダンジョンの主を倒せば外へ出られるかもしれないとのことなので我ら二人で挑む所存です」

「クロムさん、あの一応こっちでも救出作戦を立てているのですが……」

「サラ様の手を煩わせるわけにはいきません。それよりもサラ様、服越しの状況を見る限りそちらで手荒い扱いは受けていないようですね。安心いたしました」

「はい、シンさんの方針で女の子には優しくしないといけないとかで拘束もされず普通に王都に案内してくださるそうです」


「サラちゃん誰と話してるの?」

「ウィズさん、実は今クロムさん達と連絡が取れたのです」

 私はこの衣装がクロムさん製であることと通信ができることを話しました。仕方ないですよね。

「なるほどね。どうせ止めても聞かないだろうから頑張ってらっしゃいな」

 ウィズさんは状況を確認するとシンさんを止めることはせずあきらめに近い溜息を吐いていました。

「シン、私も一緒に戦いたかったー」

 トーカさんは残念がっています。

「どうか気を付けてください」

 チユさんも止める気はないようです。

「皆さんほんとにシンさんを信用されてますね」

「あのバカは一度決めたことはなかなか曲げてくれなくて……いつの間にかこういった対応になってしまったわけ」

「クロムさん、私たちは王都へ行きます。そこで体力を回復した後にここに戻ってくると思います。王都へ行っても会話はできますか?」

「はい、この世界にいる限りは大丈夫です」

 すごいですねクロムフォン。電波よりも信頼度高いです。


 王都へはウィズさんのスキル[返送]により一瞬でつきました。シンさんの王都での自宅に案内していただきました。すごい豪邸に住んでいるのかと思っていましたが予想よりは若干小さ目、でも豪邸じゃないと言えばそれも違う、ぎりぎり裕福層に入るのではないかというレベルの家でした。

「さあさあ上がって上がって。あと、靴はここで脱いでね」

 トーカさんがこの家のというか日本式の自宅のルールなるものを教えてくれました。

「お邪魔します」

 中は幸太郎さんの家よりはやはり広いですね。オジギマソウはなさそうです。

「適当なところに座ってくれる」

 リビングにある適当な椅子に腰かけます。

「さて、今もシンたちと会話できるんだよね?」

「はい、向こうの声が聞こえてきたので大丈夫だと思います」

「サラ様、ただいま100階にたどり着きました」

「これってまさか・・・・・・ドラゴンか?」

 シンさんの声の後にものすごい咆哮が聞こえてきました。

「おやおや、数十年ぶりの来客ですね。歓迎いたしますよ脆弱なる者」

 聞きなれない声が聞こえてきました。

「なるほどラストダンジョンにこれほどふさわしい存在もいないか」

「ドラゴン相手とかいい思い出がまるでないんだが」

「サラ様、龍種です。とりあえずこれを処理次第合流できるかと思われます」

「アナタ様、おかしなスキルを使いますね。それはとても無礼です。生物の頂点たるワタクシと話しているというのに。遮断します」

 その言葉を聞いた後にクロムさんの方から声が聞こえなくなりました。




 サラ様との会話を切断されたようだ。あの龍ただものではない。まずは状況を把握しなければ。この階層全体は他の階層と比べると光源となっている石の数が多い。100階層の広さは他の階と比べ1本道などがない分広く高さもある。その中央で待ち構えていたのがこの巨大な龍。翼から粉のようなものが噴き出し光源の石によりキラキラと輝いていて龍を幻想的なものへと演出している。

「あれを吸ってはいけない!」

 外来種が叫ぶ。

「吸う?愚かですね。これはこう使うのですよ」

 烈風、龍が翼を少し動かしただけ。それだけで烈風は巻き起こり、先程まで舞っていた光輝く粉は我らに浴びせられた。

 しかし、何の違和感もない。ただ粉が全身に張り付いただけである。まったく吸ってはいない。

「これならば問題ない。くらうがいい」

 我は高速で相手の後ろへと回り込み渾身の一撃を与えるスキル[背撃]を使用した。

「どこを斬っている?」

 我の刀はただ何もない空を斬った。なぜだ。[背撃]は転移系のスキルではないはず。このダンジョンの影響は受けない。


「クー、どうしたんだ」

「くっ、わからない。我はただ相手の背後に回り込み襲撃を仕掛けようとしただけだ。なぜ我は何もない場所へ攻撃して」

「おい大丈夫か」

 外来種が近寄ってくる。

「感覚が狂わされているのか?」

 外来種の言葉を我は否定する。

「違うぞ外来種。感覚に異常を起こさせるスキルならもっと早く我らはその違和感に気づけているはずだ。我の攻撃を受けた貴様ならなおさらな」

「じゃあ、何だっていうんだ」

「楽しんでいただけてますかね。凡百のスキルでは味わえない特殊な効果。しかし、久々の来客がなすすべなく死んでいくのも味気ないですね。すこしばかり情けをかけてあげましょう」


 我らが躍るのが愉快なのか知らぬが向こうは機嫌が良いようだ。ウィンクまでかましてくる。それに合わせて光が少し動いた気がした。もしやあの石はやつの思いのままに光の調節ができるのだろうか。

「ワタクシの鱗粉には思っていることとは別の似た行動を行わせる効果があります。行きたいと思う方向に進めることなど稀でございますね。なぜこのようなことが起きているのか、ワタクシにも実のところ原理は不明。ですが効果さえ知っていれば十分なので存分に使わせてもらっています」

 どうでもいいことだが龍種も瞬きをするのだな。生物なら当たり前か。

「右へ行こうとすれば左へ、しかし一定の距離移動すると同じ方向へ進まなくなる……ランダムということなのか」

 我がとりあえず歩いてみた限りではそうとしか思えない。

「ランダム?いや違う、ある程度は一定に進める。同じ位置からなら先程とまったく同じ位置まで進めている。これは法則性があるんじゃないのか?」


 外来種がなにやら考え込んでいる。いろいろ試しながら進み我の近くまでやって来た。

「考えるのもいいですがワタクシは退屈です。なので少しばかり危機感というスパイスを足しましょう」

 龍が目を閉じあくびをするように攻撃する。我らが鱗粉に苦戦しているところに火炎のブレスを飛ばしてきた。仕方なく防御系スキル[防御壁]を使い見えない壁を展開し外来種もおまけで守る。どうやら目の前で展開するスキルなら大丈夫のようだ。

「ありがとう。クー」

「たまたま近くにいたからついでに守っただけのこと。我だけであんな奴は十分だ」

 我の言葉を聞いてなぜか嬉しそうにしている外来種。

「高速思考、観察眼、目星のスキルを同時発動」

 外来種は思考強化系スキルを同時に使用したようだ。


「ほうほう。一人で相手ができると?随分と甘く見られたものですね」

「瘴気の風」

 [瘴気の風]は我から流れ出る憎悪を霧状に分散させ、刀一振りの風に乗せてターゲットへと飛ばすスキル。この霧を取り込んだものは一定の時間、憎しみを覚える。憎しみの対象などは我が決められる。

「どこへ向けて攻撃しているですか?ワタクシはここですよ」

 やはり攻撃が適当な方向へ飛んでいき当たらない。

「瘴気の風」

 少し移動しながら我はかまわず瘴気の風を連打した。

「たしかにそのうち当たるかもしれません。しかし、ワタクシは悠長に待てないのですよ」

 目をこする動作の後、先程より高威力な熱光線のようなブレスを吐く龍。ぎりぎりで[防御壁]を展開した。

 だが、貫く。見えない壁を突き破り我の体にその光線が穴をあける。

「クウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」

 外来種の声が遠くに聞こえる気がした。

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