第13話 勇者と怨念(クロム)

「というわけでシンさんを地球へ返したいと考えています。」

 ダンジョンの出口、時間はお昼過ぎといった頃です。私は、勇者パーティの3人に囲まれステータス情報を見て観念し勇者・シンを狙う理由を軽く話しました。さすがに全部は教えられないです。

「つまりシンを連れ戻しに来たってわけね」

 格闘家の子、トーカさんが私の話をまとめました。

「でも、天界からの使いなんてすごいわねー」

 魔法使いのウィズさんは天界から来たことに驚いています。

「サラさんの言っていることは本当だと思います。アルリス様のお力を感じます」

 治癒師のチユさん。なんとなくわかっていましたがアルリス教徒の方です。私に抱き着かれた時にアルリス様の力を感じ多少思考がパニックだったそうです。


勇者パーティの皆さんは、私の方にも先程の状況を教えてくださいました。なんでもダンジョン内で転移系のスキルを使うとこのダンジョンのどこかにランダムで転移するそうです。

「それにしても皆さん落ち着いていますね。勇者さんが消えてしまったのに」

「いやー、だって……ねえ?」

「シンだもの」

「はい、シンさんは必ず帰ってくると思います」

 すごく信頼されているのはわかります。

「前からちょくちょく消えるの。でもけろっとした顔で絶対帰ってくる」

 トーカさんも

「でも一応、私たちも態勢を立て直して救出に向かうけどね」

 ウィズさんも

「はい、こういう時は一度立て直して万全の状態で挑むのがいいです」

 チユさんも冷静です。訓練された勇者パーティってすごいなあ。

「とりあえず近場の鈴の村に行きましょう。アリューさんとエリー、それにコータローならきっと協力してくれると思うし」


 ウィズさんからの提案に聞き覚えのある名前がありますね。ああ、これ言うとまた印象悪くなりそうです。

「あのー大変申し上げにくいのですが、アリューさんは現在、お休みになられておりエリーさんは私が幸太郎さんと共に異世界へ送りました」

「何やってくれてんの!」

 トーカさんが私に非難の混じる声で言ってきます。

「落ち着いて聞いてください。エリーさんと幸太郎さんに関しては自分達から行きたいとおっしゃっていたので」

 事後確認ですけどね。幸太郎さんは自分の世界にエリーさんを連れて行ってみたいとおっしゃっていたそうです。本来、帰りたいと思わない人間がこの世界に送られるはずなんですが、ここでの生活で何か心境の変化があったのでしょうか。


「そ、そうなの。ごめん、大きな声上げて」

 トーカさんは素直に謝れる子というか真っ直ぐな子なのですね。

「アリューさんは昔から魔力補充のために眠っている時期がありますからね。これも仕方ないですね」

 チユさんもアリューさんに会ったことがあるみたいです。信じてもらえたようですね。

「では、王都へ行きますか」

 ウィズさんの提案に誰も異議はなく王都へと我々は行くことになりました。

「そういえば私って捕縛されたりはしないんですか?」

「いいのいいの。うちのパーティ女の子の扱いは丁重にってシンからの命令でね」

 トーカさんがうれしそうに喋っているところを見るとこの命令で何かあったのですね。

「そ、そうですか」

 このパーティの弱点はけっこう致命的な気がします。久々に有益な情報をくれましたねアルリス様とか思いながら王都へと向かうのでした。


 我は今、外来種とともに目の前の巨大な5本指タイプの足と対峙している。

「どういうことだ外来種、なぜ貴様と我が」

「話は終わってからいくらでもしてやるさ。今は目の前の巨神の足をどうにかしないと」

「貴様と一緒に戦えと?お断りだ!」

「危ない!」

 急に我の方へと外来種が来る。対処しようと思えばできたのだがどうやら敵意や攻撃の動作を感じない。

 外来種は我を庇うようにして防御スキル[防御壁]を展開、先程まで静かだった足が突っ込んできた。外来種のレベルの高さのためか、見えない壁が我らへの攻撃を完全に防いだ。


「ははは、何とかなってよかった。これでただの蹴りっていうんだからやってられないぜ」

「なぜ我を助けた」

「だから今は俺たちで戦ってる場合じゃないんだ。今の一撃みただろ?あんなのくらったらたぶん死ぬぞ」


 確かにそれはまずい。

「……わかった手を貸してやる。だが、終わったら」

 巨大な足が一瞬で二人の頭上に移動しそのまま踏みつぶさんとする。

「ええい、貴様!我が話しているときに騒々しい」

「合わせる」

 外来種は我の動作に合わせて剣を振る。重なる一撃。今の我の姿が人間の女だからなのが合わせやすかったのだろうか。外来種の力が我に流れて何かのスキルか加護によるすさまじい力が出ているのを感じる。

 二本の刃は頭上の足を切り裂きその攻撃の威力の高さを物語る。

 しかしすぐに足は再生した。我が言うのもなんだがなんとも不気味な足である。

「やっぱり再生するか。本来はアイテムでスキル封印を施してから倒すんだよなあいつ」

「奴と戦ったことがあるのか」

「そりゃあ魔王倒した伝説の勇者だぜ?いろいろ経験してるさ」

「ふむ、スキルといったな。ならば回数制限があるのだろう?」

「まさか……まじで?」

 どうやら我の意図がわかったようだ。

「伝説の勇者なのだろう?」

「まったくもってその通りだが!」


 我と外来種はただただ再生する足を切り刻んだ。この足たまに物理攻撃だけでなく5本の足の指からレーザーやら炎を出してくるから厄介極まりない。

 だが、切り刻む。我はあの外来種に劣ってはならぬ。それだけは認めてはならぬのだ。

「これで100!」

 ちょうど100回目、我と外来種の斬撃が足を切り裂いた。そこで足の再生はなくなり結晶を落して消えていった。魔物の落す結晶には様々な使い道があるらしいが我は興味ないので外来種にくれてやった。

「ふう、何とかなった。おつかれさん!えっと……そういや名前聞いてなかったな」

「ふん…………クロムだ」

 まあ名前くらい教えてやろう。別に最後の攻撃が気持ちよかったとかではない。この後の話に支障が出ないようにだ。

「じゃあクーで」

「なれなれしいぞ貴様。そんなことより説明しろ。今の状況はどういうことか」

 そこから外来種の説明が始まった。なんでもこのダンジョンは転移系スキルを使うとランダムに場所移動するらしい。


「では、我はサラ様を危険な場所へ連れていってしまうところだったのか……」

 何をやっているのだ我は。少し前に天界よりのアップデートで得た空間把握系スキルを使えばわかることだろう。更に勇者パーティがワープ系スキルを使わなかった理由を気にしなかったのも完全に我のミスだ。

「知らなかったんじゃ仕方ねえよ。それに巻き込まれたのが俺でよかったろ?」

「そうだな。その点は貴様で本当によかった」

「だよなー、なら少しだけ感謝してくれてもいいんだぞ」

「調子に乗るなよ外来種。きさまは今から死にゆく定め。感謝など不要であろう」

「ちょっと待ってくれ。そういやなんで俺が襲われているのか聞いてないんだが」

「知る必要のないことだ」

「ええー俺はちゃんとダンジョンの仕組みについて話したのになー。なんか不公平じゃね?」

「……」

「……」

「ふ、ふん。それくらいは冥途の土産に教えてやろう」

 我は外来種をこの世界から元の世界に返すという偉大なる天界の指令を教えてやった。

「あれ?それ俺殺しちゃだめじゃね?」

「わかっている。殺すというのは言葉の綾だ。今から貴様を強制送還する……と言いたいところだが、サラ様の力がなくてはこのスキルは完成しないのだ」

「つまり二人でここから出ようってことでいいのか?」

「まったく遺憾であるがな。少し待て、いま現在位置を調べる」


 空間や物質を把握スキル[構造解析]、レベルの高いこのスキルを使えばダンジョン内の構造がすぐにわかる。チートスキルと呼ばれる類のものだとアルリス様より教えられた。さっそく全体図が頭に浮かび現在位置が赤い点で表示される。

「なるほど、現在99階層と思われる位置にいるらしい。あと一つ下の階層にいけば最下層だ」

「まじか。これってチャンスなんじゃねえか」

「急に何を言い出す」

「いやなこのまま上の階層を目指すより一番下の階層に行った方が早く外に出られるかもしれない」

「なんだと!?」

「俺の潜ったダンジョンだと一番下の階層に転送陣みたいなのがあってそれに入るとダンジョンの入り口まで送り届けてくれるとこがあった。ただし最下層のボスを倒さなきゃならねえが」

「なるほど、それは一理ある……だが」

 外来種を拘束しサラさまの元へお届けする力が残るかが心配ではある。

「クーと俺ならもしかしたら最下層も突破できるかもしれねえだろ」

 ニカッと笑う外来種の顔をみてなぜか少しだけ暖かいものが胸にこみあげてきた。

「ふん、当たり前だ」

 今はこの状況を打破することが先決。ひとまず出た後のことを考えるのは無駄であろう。戦闘も終わり状況もつかめた。あとはサラ様に現状を報告しなくてはと我は自身のかけらたる服へ通信を開始した。

 

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