第5話 ベジタボォ・・・・・・

 家の中に入るとリビングのような空間に案内されました。そこには奥さんらしき人も居て遭遇するなり第一声が


「また女の子連れてきたの!私たちまだ式も挙げてないのにもう浮気かしら?」


 言いながら幸太郎さんに掴みかかっていました。たぶん奥さんと思われる方は綺麗な朱色の長髪を逆立てるような勢いです。


「ご、誤解だよ。アニスの時もアリューの時もたまたま自分がそこにいたから助けただけで」


「わかってるわよ、あなたのそういうところ。ほっとけなくていつも困ってる人を助けようとするとこにも私は惹かれたんだから」


 のろけというか茶番劇というかいちゃいちゃを見せつけられた私はどう反応すればよいのでしょう。とり あえず奥さんのステータスを軽く覗いてみました。ランクの高い冒険者ですか。冒険者と言えばたしか魔物狩りのプロですよね……厄介です。


「あらすみません。私ったらお客さんに挨拶もしないで」


「いえしっかりと存在認識していただけたなら何よりです」


「妻の鈴木エリーです」


「サラ・クラークでっっわふっ」


 挨拶しようとしたら軽くはぐされました。というかこの人距離が近い。私、臭うかもしれないのでやめてほしいです。


「なんかこの子すごくかわいいんですけど」


 私にはない柔らかさをこの人の胸部から感じます。なぜでしょう少しだけ私の中の黒が沸き上がりそうです。


「こらこらお客さんなんだから」


 幸太郎さんの言葉でなんとか離れてもらえました。




 私は勧められるままに村長夫婦と向かい合うようにして木造りの椅子に座っていました。


「それでサラちゃん、こんな辺鄙な村に何の用なのかしら」


「はい、私はアルリス教会の新支部の設立場所の視察、許可申請を兼ねて、村長さんの方へ挨拶をと思いまして……」


 先程のダイモンさんに使った理由でこの場を通します。


「アルリス様ですか、懐かしいなー。実は僕、昔に一度だけアルリス様にお会いしたことがあるんですよ」


 存じております。


「アルリス様は僕にいろんな力を授けてくださって、結局直接的な魔王討伐の役には立てなかったのですがこの村でできることをやりました」




 そうでしたね。ちょっとばかり幸太郎さんのステータス確認をしておきましょう。ふむ、異性が見守っている時のみ身体能力が強化されるスキル[主人公補正Ⅰ~導入編発展]と一度死んでも一日一回蘇るスキル[蘇生]。この二つは前の少年も持っていましたね。あとは加護【遺伝子組み換えである】。これは遺伝子をいじくりまわして植物にあらゆるスキルを付与させる加護。更にその植物は早ければ一日で成長するといった効果。ああーこれは現地調査必須ですね。もうこの危険な香りはスメルハラスメントに該当します。訴えます、絶対訴えてやります。こんなあほな能力の加護を考え与えた女神ってやつを!!!!


 落ち着け私、今は目の前の問題に向き合わなくては。




「幸太郎さん、それで教会の件は検討していただけますか?」


 私の言葉に幸太郎さんが少し違和感を覚えたような顔をした気がします。


「そうですね、教会ができればこの村はさらに活気づくと思います。なので僕は賛成です」


 びっくりです。即答ですよこの人。


「もっと慎重になられるかと思ったのですが」


「これは直感みたいなものなんですが、サラさんからアルリス様と似たような気配というか力を感じたのでそれで勝手に信用してしまいました」


 この男、私の中にある天界の力を感じとれるのですか。少しというかかなりまずいです。ちゃんと詳細まで時間をかけてスキル構成を見なければなりません。


「やっぱり修道女の人は女神様の加護とかあるんじゃない?」


 エリーさん、私はアルリス様が思慮して加護を与えているのを見たことがないのです。ダーツとかサイコロ振ったりいろいろやっています。しかし加護持ちというアイディアはいいですね。採用させてもらいましょう。




「私も女神アルリス様より加護を授かっておりますがどういったものかに関してはここでは控えさせてもらってもよいですか」


 なにかが起きたときのためにあらかじめここで言い訳できるものを用意しました。更に加護を持っているということを教えるだけでもこの世界なら価値があるはずです。


「加護は大変貴重なもので持っている人間はそれだけで狙われる。それを僕たちに教えてくれただけでも充分です。なるほど、やはり加護の力によってアルリス様と同じものを感じたのかな」


その言い方だと過去に加護を持った人と出会っている?


「やはりというのは……」




「たのもおおおおおおおおおおおおおおおお」


 私の質問は突如玄関より発せられた大声によりかき消されます。


「おおー幸太郎、元気だったかー」


そして家主に断りもなくこのリビングまで何かが来る。


「久しぶり、シン。随分と早かったね」


 幸太郎さんがフレンドリーに接しているところを見るに友人でしょう。しかし、困りましたね。私の服がまた反応している。


「ネダヤシ……」


 漏れてかけていますよクロムさん。落ち着いて!クール!クロムさんが反応したということはこの来客は転移者、転生者の類なのでしょう。


「あ、お客さんだったか。すまん出直す」


 言うなり彼は早々に立ち去っていました。




「慌ただしくて申し訳ない。彼はこの世界の勇者です。聞いたことないですか、この大陸に巣くっていた魔王を倒した男、シンの話」


 詳しくは知りませんが名前だけは天界にも知れ渡っています。できれば関わりたくないです。


「彼の力になればと思って実は僕の農園で作った物を提供しているんですよ」


「なるほど、勇者様が欲しがるほどおいしい野菜とかですか」


「味も自信はありますが、僕の加護で育てた作物には特別な力があるので冒険者に評判なんですよ」


「加護のことを私に話してしまってよかったのですか?」


「平気ですよ。僕の加護はもう結構知れ渡っちゃいましたから」


 これは詳しく知らないとあとあとひどい目に遭いそうです。


「よろしかったら教えていただけませんか?」


「興味あるんですか!それはうれしいな。ちょうど今からシンに渡す作物を取りに行くので一緒に来ます?」


「ぜひ、ご一緒させてください」


敵状視察のチャンス到来です。




 まさか奥にこんなものまであったとは。村の目立たないところに建てられたそれは紛れもなくビニールハウスでした。室温管理はスキルでやっているようで中に魔力の流れを感じます。


「さて、シンにいつも渡しているのはっと……これとこれとこれと」


 幸太郎さんが次々に収穫していきます。紫色のトマトみたいなものや星形の何かやピンクのキャベツのようなもの、最後にはうねうね動く人参のようなものまでバラエティに富んでいます。


「まずは、このジャイアントパンプキン。これには防御三段階強化付与させる効果があるんだ。こっちのゴルフボールみたいな形の豆が100面大豆、これは攻撃力倍化。ピンクキャベツはバッドステータス全回復。そして伯爵スイカは魔法威力三段階アップだったかな。ふふふ、どうだいとってもベジタブルだろう?」


 効果は1時間ほどしか続かないんだけどねとと嬉しそうに話す幸太郎さん。ベジタブルな話題だからでしょうか話し方も砕けた感じになっています。ですが、こちらは笑えません。      


 こんなチート野菜食われて戦闘になった日には完封負けです。力づくのプランは切り捨てましょう。しかし、1つ1つはありえないほど強力な野菜ですが鮮度とか持ち運びとかの関係で効果が落ちそうですね。


「さて、これをアニスの家に持っていこう」


 どうやら移動みたいですね。荷台に野菜をのせて農園の近くにある民家を訪ねました。

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