第4話 女子力から得られるもの

 いつの間に寝ていたのでしょうか。いや、おやすみなさいって思った記憶があるので昨日の私は確信犯ですね。目を覚ますと私は森の中の低い視界から今日をスタートしました。


「おはようございます」

 朝の挨拶をしてくれたのはクロムさんでした。どうやら昨日ここで眠ってしまった私を夜間警護していてくれたみたいです。それにしても野宿に何の抵抗も示さなかったのは乙女としていかがなものかと。私の体、少し臭いますかね。ちょっと気になりくんくんしてみましたが大丈夫っぽいです。でもこういうのは自分じゃ気づかないものですよね。おっと、思考の海にダイブしてクロムさんを放置してました。


「ありがとうございました。クロムさんは睡眠をとらなくてもいいのですか?」

「霧にそのような時間は不要です。24時間いつでも動けます」

 社畜の鏡のような発言です。

「こちらご近所のゴブリン達からです。御礼とのことで果物をいただきましたので朝食代わりにどうぞ」

「あ、どうも」

 天使の羽が没収されている以上、食事はエネルギー補充として必須になってしまったので助かります。というかなんで没収するかなーどう考えても仕事に支障出るじゃないですか。


「それでは食べながらでも構いませんのでこちらをご覧ください。天界よりお手紙が届いております」

 クロムさんにどういった仕組みで手紙が届けられるのか未だに謎仕様です。とりあえず手紙に目を通します。


 やりましたね!初任務達成おめでとー!その調子でバンバン送っていきましょう。さーてお楽しみの次の任務情報です。このまま南西へいくと辺境の村が見えてきます。そこでスローライフを送る転移者、鈴木幸太郎(750日目)がいるので祖国へのご帰還を願いましょう。彼に関しては台風と地震と流行り病と食害が立て続けに来て自身の畑がやられたことにより絶望し、どこかでやり直したいと願ったようです。結果、彼は転移者に選ばれています。


 スローライフ送ってるだけなら別に害はないのでは?というか情報少なすぎでは?あと選定理由が農家さんなら当てはまってしまうのでは?

「うーん、異世界生活は700日を超えていますね。嫌な予感がしますが、考えていてもらちがあかないのでとりあえず行ってみます」

「賛成です。やつらはいるだけでこの世界に様々な影響を与えます。一刻も早く抹殺しなくては」

 また、怨念が漏れ出てますね。


 少し歩くと本当に村がありました。丸太でできた塀が村を囲み入り口には門番らしき人もいます。ここからでは中の様子を見られません。

「クロムさん、とりあえず黒い霧の状態だと怪しまれるので何か別の形をとってくれますか?」

「了解しました」

 するとクロムさんは私の周りに散らばりやがて黒い服になりました。

「いかがでしょうサラ様」

 まずは全身チェックです。なんか新しいお洋服とか黒系はかっこいい感じがするのでテンション上がりますね。でもなぜでしょう?この服装なんか……

「はい、大丈夫なんですが教会のシスターさんみたいな感じですねこの服。クロムさんの趣味ですか」

「私に集められた記憶(怨念)の中から印象のよいものを選んでみました。どうやらその服装の人物に少しだけ施しを受けたようです」

 魔物にもいろいろあったみたいです。

 とりあえず偵察してみましょうか。クロムさんもなるべく気配を悟られないように気配遮断スキルを使ってくれているみたいですし。うまくいけば転移者と交渉ができるかもしれませんし。


「こんにちは~」

 中の様子を見たいので正面から40代くらいのおじさん門番に声をかけます。

「はい、こんにちは。見ない格好だねあんた、どこから来たんだい」

 天界のほうから落下してきましたとは言えません。

「辺境の山にある教会より来た者です」

「ふむ、てーとアルリス教会の人かい?」

「はい、アルリス様にお仕えさせていただいております」

 女神様のお名前もやはり地上に知れ渡っているのですね。私の言葉もその神の関係者ですので間違ってはいないはず。

「そうかい。でもこの村にはアルリス教会はないんだが……」

 それは好都合、教会の人と口裏を合わせさせる必要性がなくなりました。

「存じております。だからこそ私はこの村に来たのです」

 さーて、適当に理由を付けましょう。


「なるほど、視察や教会を村に建てる交渉で来たってわけか。なら村長に用事だな!案内してやるよ」

 もう少し門番さんは警戒心を持つべきではとも思いましたが物事がスイスイ進んでいくのは気持ちいいのです。もしかしたらアルリス教徒って印象良いのですかね。

 私は門番さんに案内されながら村の様子を見てみます。中はほぼ普通の村と変わらずこの世界で一般的な木造建築の家が広がっていました。あとはやたら農場があるのが気になりますがそれくらいでしょうか。


 少し歩くとこの世界には存在しない作りの一軒家に案内されます。漫画にあった地球にある東京の一軒家がこんな感じでしたね。この家には表札がついていて日本語で鈴木幸太郎、鈴木エリーと書かれていました。物事がスイスイ進むのがいいとは言いましたがここまで進んでしまうと事前の準備の少なさを不安に思います。

 しかし、門番さんはもうドアをノックし家主をこの場に呼び出すための工程を終了させています。


「はいはい、今日はだれですか。おや、ダイモンさん。門番の仕事でなにかありました?」

優しそうな印象を受ける20代くらいの黒髪の男性でした。ピクリと服が反応します。

クロムさんステイ。

「まぁな、道案内だ。こちらの修道女さんがコータローに用事だとよ」

 視線を向けさせるしぐさをする門番さんことダイモンさん。彼の視線は自然とこちらへ向き一瞬鋭い視線を感じました。しかし、すぐに表情を最初の優しそうなものに戻します。


「ふむ、その服装はまさしくシスターさん!うわー久々だぁ」

なんか近寄ってぶんぶんと握手されました。この人も補正で女性をたらし込みそうな気がします。近寄られたことによりまたクロムさんも反応してますね。抑えてくださいここが正念場ですよ。ファイト!クロムさん。

「ど、どうもアルリス教会より来ましたサラ・クラークといいます」

 クラーク部分は偽名です。

「おっと申し遅れました。この鈴ノ村の村長をいつのまにやら任されてしまった鈴木幸太郎といいます」

 ご丁寧に挨拶をくれました。そこのダイモンさんに村長の座を押し付けられたそうです。

「ああダイモンさんはもう戻っていいですよ」

 ダイモンさんはたまには飲みにこいよとか幸太郎さんにいいながら帰っていきました。


「さて、あなたの要件の前に一つだけ聞かせてください。僕の家の玄関に飾ってあるオジギマソウって草なんですが実は面白い特性がありましてね」

「?」

 なぜ急に玄関の観葉植物を・・・・・・もしかして自慢の一品ってやつですか。

「この草は普段は葉が広がった状態でいるのですが魔物の放つ独特の魔力に反応して身を守るために葉を閉じるんですよ。今みたいにね」

 ニコニコっと私を見てくるその顔は先ほどまでの優しそうというものとは全く印象の違うものになりました。浅はかなり数秒前の私、何が自慢の一品かっ!ある意味正解ですよ!


 ちなみに魔力とはこの世界の生物が生まれ時から持っているものでスキルを使用するときに使います。

「あら、すみません。実はこの服には魔物の素材が使われています。旅の途中で襲われないように同じ魔力を纏わせ相手の察知スキルを掻い潜ったりするんです」

 さすがに魔物の匂いとかクロムさんだけでなくゴブリンさんとも多少接触があったりしたので、臭い対策の言い訳は必須です。クロムさんの存在は切り札になるのでできるだけ隠したいです。朝一番で臭いの心配をした私の女子力、言葉の使い方があっているか知りませんが役に立ちました。これに気づいていなければ対策も考えていなかったのです。


「これは失礼しました。疑うような真似をして申し訳ない」

 なんとかごまかせたみたいです。さすがに触って確認とか無礼な行動はしない方のようですね。いやまて、でもこの人は最初、何の警戒もなく私の手に触れて……ああ、私の手に粉が付いています。どんなスキルも一定時間使用できなくなる効果のあるやつですねこれ。まあ私はスキル持ってないので無意味ですが。でも、印象変わっちゃいましたよ幸太郎さん。

「立ち話もなんですから中へどうぞ」

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