第3話 はじめての強制送還術(クーリングオフ)後編
さて、そろそろ私も動かなきゃいけないみたいですね。
「夜分遅く失礼しまーす。どーもー天界より派遣されました天使見習いです。とりあえずみなさん戦闘を中止してください」
周りの視線を独り占めです。
「天使様!?なぜこのようなところに?」
少年は私にも多少の敬いがあるようで口調に出ていますね。うれしいです。
「ええーそのですね。ちょっと、うーん何て言いましょう……お説教の時間です」
私はとりあえずこの状況のゴールを目指すことにしました。
「少年、君はとりあえずその焚火を消してくれますか。それでゴブリンさんたちは帰りますから」
「え?」
「代わりの明かりと言っては何ですが明かりになる魔法陣でも敷いておきます。クロムさんよろしくお願いします」
「明かりの魔法陣などっ……なるほど承知しました」
クロムさんが少年を中心に魔法陣を書きはじめます。
「毒は私が打ち消しますね」
警戒心を解く意味を込めて彼の毒の状態をアルリス様より貰ったアイテムを使って取り除きます。他の天使や女神様だったらスキルでパパっと取り除くのでしょうけど生憎、私は情報収集系の加護しか使えない雑魚天使です。
「あ、ありがとうございます」
少年はとても素直な子で私を疑うことなく毒の治療をさせてもらえました。少年の治療中、横にいた少女からの視線がやけに鋭かった気がします。しょうがないじゃないですか。近づかないと治療できないのですよ。そんなやり取りをしているとクロムさんが魔法陣を描き終えたようです。大体5分くらいですね。
すぐにクロムさんが詠唱を開始します。すると魔法陣よりまばゆい光が放たれました。起動に成功したようです。私から多少天界の力が抜けていく感覚がありますが気にならないレベルです。さて、これだけ光っていればいいでしょうと言って私は焚火を消します。
焚火を消す確認ができたゴブリンさんたちは帰っていきました。
「おまたせしました。それでは説明を始めさせていただきます。とりあえずクロムさんが先走った行動をとってしまい申し訳ありませんでした」
クロムさんに目を向けると魔法陣光らせる作業を頑張っているようで話は聞こえていません。
「天使様、幸い僕は無事だったので気にしてないです。でも、なぜ僕が襲われたのでしょうか。その黒い霧やゴブリンに」
「やはりなにもわかっていませんでしたか……えっと簡単に言うと焚火はもう少し開けた場所でやってくださいというご近所さんからの苦情です」
まあ、クロムさんはただの私怨ですけど。そこに至る経緯と近隣のゴブリン事情を丁寧に多少盛りながら説明しました。あと何分時間を稼げばいいんでしょう……
「なるほど、彼らはそれを注意するために……じゃあ僕たちに近寄ってきたゴブリンはもしかして注意と焚火を消そうとしただけ?うわあああなんてことをしてしまったんだああ」
頭を抱え行動を悔いるところを見ると根は悪い人じゃなさそうですね。
「言語が分からないとはいえ少し落ち着いて相手を観察したほうがいいですね」
「はい、反省しました。でもクロムさんって言いましたっけ?あの霧の方。どうも僕を殺そうとしたみたいなんですが……どう考えても焚火を消すのではなく僕の命の火を消しに来てましたよね」
やはりスルーしてもらえませんよね。
「この件に関しては完全に私の監督不行き届きです。彼はゴブリンの言葉も分かるので対話で解決してくれると思ったのですがゴブリンに感情移入してしまったのでしょう。怒りのままに加勢してしまったみたいです」
「うーん、そういうことなら僕にも非がありますね」
「今、彼には反省の意味も込めて照明代わりの魔法陣をずっと光らせていますから納得してはもらえませんか」
「はい、でもなんかこの魔法陣変じゃないですか?明かりをつけるためだけならこんな大仰な陣は組まずともできると思うのですが?」
くっ!ここでその疑問を口にしますか。10日前後のルーキーといえど異世界転移者、鋭い。
「わざとですよわざと。だって簡単な魔法陣じゃ反省にならないじゃないですかー」
なんとか言い訳しましたが、ここで先程まで地蔵だった少女が口を開きます。
「でも、何かおかしい。この魔法陣の複雑さ、確実に大規模な魔法を使おうとしている」
疑いのまなざしが二人分、私に向けられました。
「えっと・・・あのちょっと待ってください」
ここで使える材料はなにか、なにか、なにか、考えて私。材料は少年、少年の詳細データ、少女、クロムさん……
仕方ないこれを乙女に使うのは非常に申し訳ないのですが。
「さすが、女神様に認められた少年のお仲間です。この魔法陣に気づかれるとは。この魔法陣はですね実は恋心に反応するシステムが組み込まれているのです!」
「恋心?」
少年は疑問を浮かべ少女はハッとした顔をしました。
「ちょちょちょっとまって天使様、お願いまってください」
ふふ、くいつきました。これはイケますね。
「ちょっとまっててカケル。私そこの天使様と二人で話したいことがあるの。そこにいて」
ああーいいですね。向こうから来ていただけました。そして少女は私にぎりぎり聞こえるくらいの声で話し始めました
「その……天使様、あの魔法陣って私に反応したりしてます?」
これは完全に少年のスキルの虜になっています。10日前後でよく好感度ここまで上げられますね。彼女耳まで真っ赤にして私と話しています。微笑ましいです。
「はい、あなたの想いの手助けをと天使がおせっかいをかけてみました」
本当にかけたのはカマなんですけどねー。ニコニコ笑顔で私は返します。
「や、まだ私たち出会ったばっかりでその早すぎると言いますかぁぁ」
焦ってる焦ってる。本来、魔法に詳しい者ならば陣の形が天界の術式なので興味を引くことでしょう。疑われる可能性も十分にありました。しかし、彼女は現在、恋愛脳特有のバッドステータスにかかっているご様子。さらに先程の魔法陣に対する発言でステータスを見るまでもなく実力は計れました。となればたとえ本職だとしてもレベルも高くない彼女が魔法陣に対しての疑いは随分と薄いものになるでしょう。精神干渉系の魔法陣も複雑らしいですし見たことのない可能性のほうが高いでしょう。
「そうですか。でも、大丈夫ですよ。あの魔法陣の光はお互いに好き合っている者同士でしか反応しません」
もちろん嘘です。もう私は嘘をつくことに抵抗するのをやめましたのでガンガン行こうぜです。でも、心がどこかで堕ちていく感覚があります。
「そ、それじゃあカケルと私はりょ、りょ、りょ、両想い?」
お顔がとてもかわいらしくなられています。ほんとこころがぐるじい……
「そうです。今、この時が最大のチャンスなんです。魔法陣の光もなんとなくロマンチックに感じるでしょう?決めちゃいましょう!」
今、私はどんな顔をしているのでしょうか?お母さん、こんな娘になってしまいました。ごめんなさい。お母さんの顔覚えてないですけど。
「わかりました。私やってみます!」
少女は魔法陣の中にいる少年の元へと戻っていきます。自然と陣の中心で二人が向かい合う形になります。そこでクロムさんから準備okのサインが出ました。では、私の合図でお願いしますと伝えました。
「あのね、カケル。私あなたと一緒に冒険がしたいもっともっと一緒に居たい」
「う、うん。大丈夫だよメルティ。僕は君をパーティの一員だと」
「違う!そうじゃないの!私だけ……私だけを見てくれませんか」
「・・・・・・」
少年は言葉の意味を理解したようです。ただ頭の中が真っ白というのが表情から伝わってきます。初々しいですね。見ているこっちが恥ずかしくなる……ことはなく罪悪感でいっぱいです。
少しの時間が経ち少年は少女に向き直りました。
「ぼ、僕なんかでよければよろしくお願いします」
恥ずかしそうにそれでもはっきりと彼女に言葉を伝え、彼女の手を取りました。
「クロムさん、ここです」
「承知しました」
告白の返事とともに魔法陣が輝き始めました。二人は自分たちの世界に入っているようでそこまでこの光を気にしていません。二人の祝福の演出と勘違いしているのでしょうか。
そしてそのまま目映い光に包まれ跡形もなく消え去りました。辺りはあるべき夜の闇に包まれ明かりと呼べるものは上空にある惑星から照らされるものだけとなりました。
告白が成功してよかったです。大丈夫、あの二人なら地球に送られてもうまくやっていける。彼はもう昔の彼じゃない。いじめっ子より強いゴブリンさんと戦えるだけの勇気がありました。それがあれば大丈夫ですよ。きっと。そんな無責任な願望が浮かび心を落ち着ける精神材料にしました。
「そういえば、本人以外も送り込んじゃったんですけどこれはいいんでしょうかね」
「クーリングオフの術式は対象と触れているものまで送ってしまうのです。説明を忘れておりました。申し訳ない」
「なるほど、まあいいです」
私はもうこれ以上考えるのをやめ今日の達成感と毎回のようにこんなやり取りをしなければならないのかという絶望で両ひざを抱えるようにしてその場に座り込みこの世のすべてを拒絶しました。おやすみなさい。
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