第2話 神谷
チリン
ドアベルが鳴った。
「いらっしゃい」
客の顔を確認し、磨いていたグラスを棚に戻す。
そしておしぼりを1つカウンターに置いた。
「よお」
酒灼けしたような声に、派手なシャツ。
袖から見える腕にはびっしりと彫られたタトゥーが。
男の名前は神谷。
「雨、降ってきましたか?」
「あぁ。悪りぃけどタオル貸してくれよ」
「ちょっと待ってて」
新品のタオルを手渡すと、神谷はまず顔を拭いた。
首にタオルをかけて、長い髪を擦る。
「あ、これ。この前忘れて帰ったでしょ?」
レジ横の小さなカゴに手を伸ばし、神谷に手渡したのは黒いヘアゴム。
「おー、サンキュ」
ヘアゴムを口に咥え、その長い髪の上半分を後ろで括る。
雑な団子が1つ。括られなかった残りの髪は無造作に肩へ散らばる。
「何飲みます?」
「じゃあ…、ウィスキーロックで」
目を細めて歯を見せながらニーッと笑う神谷。
「ありません」
こちらもニコリと返すと、神谷は声を出して笑った。
「ハハハッ、じゃあブラックでお願いします」
カウンターに両手をつき、深々と頭を下げて丁寧にそう言った。
「かしこまりました」
棚から磨き立てのカップを準備して、香りが立つように注ぐ。
「どうぞ」
神谷の見た目の治安の悪さとそのコーヒーは相反する者同士だけど。
それが面白いんだ。
神谷はゆっくり口を付ける、喉を通る音がした。
*
「黒崎ぃ〜」
「はい?」
「俺のこと殺してくれよ」
白昼堂々。
穏やかなカフェには似つかわしくない会話がまた始まった。
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