後編

「涼!こっち、こっちだよ!早く来てよ!…ずっと待ってるから...。涼....!」

「待てよ!葉瑠!...葉瑠!俺を置いていくなっ!!」

あいつの姿が遠くなっていく。大切な「ーー」が居なくなったら…。


「葉瑠!」

目が覚めたとき、あいつの名前を呼んだ。大切な葉瑠愛する人の名を。

「ごめん、葉瑠…。ほんとに...ごめん...。」

葉瑠は3ヶ月前、俺のせいで死んだ。葉瑠の葬式のとき、あいつの親友には思いっきり責められた。いつもはあまり口数が多くなく、おとなしい子で葉瑠以外にはあまり感情を見せない子だったのに...その時はまるで別人みたいだった。葉瑠の両親もきっと俺を責めるだろう、そうじゃなきゃおかしい、と、そう思っていた。俺だったらきっと責めていただろうから。だけど葉瑠の両親は俺を責めなかった。「涼くんは悪くないよ。涼くんだって葉瑠が死んで辛いんだから…。」と俺を慰めてもくれた。本当に優しい人達だと思った。そんな人達から愛するものを奪ってしまったなんて...。葉瑠は死ぬ間際何かを伝えようとしていた。葉瑠ので聞くことは出来なかったが...。俺は葉瑠の周りの人たちへの罪悪感と、葉瑠をなくした喪失感から何度も自殺しようとした。だが、葉瑠の遺したあの言葉が頭から離れなくてどうしても死ぬことが出来なかった。ただ...純粋に死ぬのが怖かったのもあると思う。情けない。

「葉瑠…何であんな物…。」

葉瑠は俺にあるものを遺していた。


ー1ヶ月前ー

俺は葉瑠の母親に呼ばれ、葉瑠の部屋に来ていた。何故呼ばれたのか、理由を聞く。葉瑠の母親は

「葉瑠がこんな紙を遺してて…私達も探したんだけど見つからなくてねぇ...。涼くんなら分かるんじゃないかと思って…。」

と言って葉瑠が書いていた日記と、そこに挟まっていたらしい紙を手渡された。紙には〔私の大切なものはある場所に保管してあります。場所は涼が知っています。涼が見つけたいと思うのなら、探してください。でも涼に探す気が無いのならそのまま探さないでください。〕と書かれてあった。場所はすぐに見当がついた。生前、葉瑠が自分になにかあったら、と言われていたのだった。すっかり忘れていた。当時は、そんな事あるわけない、と軽く受け流してしまっていたが...。

「どうする?私達は涼くんの意思に任せるから…」

「俺は…。」

(葉瑠の大事なもの、か...。見つけなきゃ、きっと後悔する。だから…)

「探します。...探し出します、絶対に。」

「そっか...!なら、家の中は好きにあさってもらって構わないからね。頑張って...!」

葉瑠の母親はまるで理想の母親のように素敵な人だった。

「ありがとうございます!」

葉瑠の母親の許可をもらい、探し始める。

(たしか、部屋の中にある隠し部屋、だったよな。)

葉瑠と作った隠し部屋。今はもう誰も使ってないから何かを隠したいなら最適な場所だった。案の定、わかりやすいところに置いてあった。缶の中には、俺が葉瑠にあげた贈り物、そして本来の日記とは別のものと思わしき手帳と手紙が入っていた。日記には、他人には見せられない内容、(特に両親とか)が書かれてあった。そして手紙には…これまでの真実が書かれてあった。


ー涼へー

これを見ているってことは涼の誕生日に私が死んだってことかな。あ、今なんでって思ったでしょ?それはね…手紙に一緒に入ってるおみくじが関係してくるんだ。今年の初詣で引いたおみくじです。あのときはごまかしたけど、私があのとき固まっていたのはおみくじにそんなことが書かれてあったから。私の死の運命が書かれたおみくじ。最初はイタズラかなって思ったよ?でもこの手紙が残ってるってことがイタズラじゃないってことの証明になってるんだよなぁ...これが...。涼も知ってるでしょ?うちの家族とみっちゃんの誕生日が涼の誕生日より早いこと。涼の誕生日が無事に過ぎたらこの手紙、捨てるつもりだった。でも、ホントになっちゃったんだね…。イタズラであってほしいって何度思ったか…。

 涼?私さ死にたくなかったんだよ。涼ともっと一緒に過ごしたかったから。私、私ね?涼のことずっと好きだったんだ。涼の誕生日に伝えるつもりだった。涼に告白成功するように、って初詣で願ってた。祈ってたって言ったほうがいいのかな?でもそのおみくじ引いて...誕生日に思いを伝えようか、正直...迷ってた。涼を悲しませたくなかったし。大切な人の誕生日が私の命日に来るんだよ?そんなの辛いじゃん。それに思いを伝えて余計に悲しませるのが嫌だったんだ。だからギリギリに伝えようって思ってた。私は告白したのかな?

 涼は自分のせいでもないのに自分を攻める所あるでしょ?だから…私が死んだのは自分のせいだって思ってる。でしょ?うん。きっとそうだ。そんなこと、絶対にないからね!誰かのせいって言うならそれは、運命を決めた神様なんだから!(笑)涼は苦しまなくていいんだよ。

だから…自分を責めないで。私が辛くなる。

 私、知ってるよ。涼がいじめにあってること。なんて...知ってても行動できなかったんだけど...。それで絶望して私しか心の支えが無かったんじゃない?...って思うんだけど合ってるかな?涼ってホントは心めっちゃ脆いよね。見た目に反して。なんで気づいたかって?私、女優目指してたんだから当然って言えたらかっこいいんだけど…まあ…ほぼほぼ勘だね。...それでさ、私がいなくなって、心の支えがなくなって、生きる意味が無くなった、とか思ってない?それで、自殺とかしようとしてたでしょ。そんなこと、許さないんだからね!そんなことして天国こっち来ても私は会わないから!だから、だから涼は自分の人生、寿命がなくなるまで生きてよね。私の分までしっかり生きて!それが、私の最期の願い。お願いだから、ね。私は告白の返事、ずっと待ってるから。


                        ー葉瑠ー


 衝撃だった。葉瑠が手紙に書いていたことは俺のことも含めて、本当だった。俺のことまで勘付いてるのは正直驚きしかない…。でも、何より衝撃だったのは俺の引いたおみくじと同じことが書かれてあったことだ。全く同じ、というわけではないが。俺のおみくじにも死の運命が書かれてあった。葉瑠とは確かに違っていた。俺の死に方が【無差別殺傷事件で死ぬ】だったのが。これも神様のいたずら、とでも言うべきか....。

 俺が死ななかったのは、というか死ねなかったのは「葉瑠の遺した願い」が頭にちらついたから。葉瑠の言う通り、俺は葉瑠を心の支えにしていた。葉瑠がいたからいじめにも耐えられた。きっと、俺が死ぬ日、誕生日の人は葉瑠だと思う。だけど葉瑠の誕生日はまだまだ先だ。

(俺はその時までいじめに、葉瑠のいない世界で生きることに耐えられるだろうか)

つらい日々はまだまだ続いていく。だけど、確かに手紙を見つける前よりかは明るくなれた気がする。


ー数カ月後ー

今日は葉瑠の誕生日だ。

(俺は本当に死ねるのか?)

そう思いながら帰っていた。

「きゃああああああぁぁあぁぁぁーーーー!!!」

「っっっ!?!?!?」

急に叫び声が聞こえてきた。振り返ると刃物を振り回している男がいた。

(もしかしてこれって、無差別殺人?!まさか...本当に…?どうしよう…とりあえず警察と救急車を!早くしないと大変なことになる)

犯人の男は自暴自棄になっているのか、勇敢にも止めに入る人が来ても気にせずに犯行に及んでいた。段々とこちらに近づいてくるのが見えた。周りには呆然と立ち尽くしている人もいる。俺は無我夢中で通報した。通報していると、少年が刺されそうになっているのが見えた。足や腕は服と共にすでに切り裂かれている。すぐに分かった。足がすくんで逃げることができず逃げ遅れたのだと。俺はとっさにその子をかばった。そして…

ーグサッ!!ー

「グハッッッ」

小さくうめき声をあげた。熱さと同時に鈍い痛みが体中に広がっていくのを感じた。きっとここで俺は死んでしまうだろう。なんとなく感じた。でも…心残りはない。だってやっと.....

(やっと...やっとこれであいつのところへ行ける…。)

そう、安堵して俺は深く、二度と覚めることのない眠りについた。


ーーーー

目を覚ました直後、俺は探した。愛しい人の姿を。

「葉瑠ー!」

俺は叫ぶ。愛しい人の背中に向かって。

「っ!涼ー!」

俺に気づいた彼女は俺の名を呼びながら手を振り駆け寄ってくる。そしてーー

『大好きだよ』

二人同時に言いながら抱き合う。今度こそ幸せにしてみせる。そして誓う。


「ー来世ではキミとーー幸せにーー」

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来世ではキミと... みーみっく @koumiku

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