第3話再生する心
折れた心をどう再生するか。そもそも再生するのか。心は不透明で脆くて、簡単に変化してしまうのに。
タイシャクは隊の戦闘刀「月光」のメンテナンスの為、神和地区の対討伐武器の管理局に来ていた。「タイシャクさん」と手を振ったヨミ、その横には討伐武器の技術管理を担当しているシュコンが仏頂面でメンテナンスを行っている。シュコンはだいぶ古びた白衣を着ており、髪も髭も長い。髪は一応結んであるが、最後にいつ切ったのか定かではない。「タイシャク、来るなら一報入れてくれよ。お前のメンテナンス、あほみたいに時間かかるんだから」「あはは!タイシャクさん6重あるからですか?」「両刀使いは時間かかるのよ」とシュコンは表情を変えずにのたまう。「ヨミはもう終わるのか?」「私はこの前の小競り合いで1重使ったので、その補填ですよ」右肩、鎖骨の下あたりを拳で叩く。すると予め体にインストールされている体内内蔵刀「月光」が現れた。一人に3重しか支給されないのは、体内への刀の浸食を最大限減らすためだ。つまり討伐でも3回で仕留めなければ命が無い。「はーい次は両刀使いさん」「両刀使い呼びは本当にやめてくれ」上の隊服を脱ぎ、メンテナンス台に上がった。インストールの更新プログラムを読み込み、月光が充填されていく。タイシャクは月守隊で唯一、左右から刀を出せる。シュコンが言うには左の心臓部分近くに内蔵されている刀が厄介らしい。
更新プログラムに黄色のランプが点滅する。「うーん、左部分さ」「何か異常か?」メンテナンス台に横たわりながらシュコンの顔を見た。「異常というか、空洞が出来てる」「空洞」「そう、もう何重か補填出来そうだけど、10重位入れとく?」「それは技術的に可能であれば、お願いしたいが」シュコンは右頬を掻きながら「あんまり保証できないからやめとく」と言い、「タイシャクはほら、無理しがちだから」と告げた。「ラセツ君の件もそうだけど、無理して何かを信用しすぎないほうがいいと思うけど」シュコンは黄色のランプを消し、補填を続ける。「基本的に人も鬼も疑ってかかるべきかなって」「俺は人も鬼も平等に疑うし、等しく信頼もする」シュコンもヨミも、鬼に先祖を散々蹂躙され、殺されたのだ。そうじゃなくても月守隊や団隊にはラセツを恨み、憎むものが居る事は十分に理解していた。「ラセツ君に月光はインストール出来なかった。何回やっても月光を受け付けない。鬼だからって理由かもしれないけど、そう単純な、技術的な問題じゃなくて、彼の心には再生できないほどの空洞があるんだよ」シュコンはタイシャクの補填作業を中断する。「心が戦う意志を見せないと、月光は起動しない。ラセツ君にはその意志はある?」「確かめてみる、が」シュコンは確かめた方が賢明だと助言した。「タイシャクの左の空洞部分は意志により保たれている状態で、そこにも無理が生じたら」シュコンに補填作業を促し、もう既にラセツを疑う事が出来ない事実を胸にしまった。タイシャクは知りたいし、信じたい。人と鬼とが共に生きる事の出来る常世を。
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