第9話 ~Hside~ ⑤僕のペラペラ流暢な話術

いただいた映画のチケットを

ノートパソコンにたてかけて

それを見つめながらうんうんうなっていた。


誰かが見たら、さぞかし仕事に集中しているように見えるであろう。

が…仕事はなかなか進まない。



もし、もしも、彼女が来たなら…

なんて誘えばいいんだ?


っていうか、誘ってもいいのだろうか。


ただただ彼女を見守る

笑顔を見られるだけでいい

そう思っている僕が、そこまで親しくなっていいものだろうか。



というか、ずっと一緒にいたら

理性を抑える自信がなくなる。




そんなことをぐるぐると考えていたら

いきなり背後から「わっ!」と声が聞こえた。


びっくりして振り返ると

いたずら笑顔の彼女が立っていた。


僕はしばらく思考が停止してしまった。



笑顔だった彼女が急にしょぼんとした顔で謝るから

慌てて僕も謝った。


彼女は何も悪くない。

僕がやましいことを想像してたから

とっさに対応ができなかっただけなんだ。





ってか、来ちゃったよ~!!

どうすんだ!俺!!



10秒くらいパニックになったが

それからすぐに、平常を取り戻し、


いつものように、彼女の話を聞き

いつものように、冗談を言って

愛らしい彼女のむくれ顔や拗ねる姿を楽しんだ。



怒ったり拗ねたり笑顔になったり

ホントにめまぐるしく変わる彼女の表情をみているだけで

僕はとても楽しい気分になるし何より癒される。



僕が僕でいてもいい


そんな風に許された気になる。



こじらせ系女子ならぬ、こじらせ系おっさんだから

僕のこの毒舌すらも笑ってくれる彼女に癒される。


彼女が戻ろうとしたその時、

意を決して、彼女を映画に誘ってみた。




ねぇ、映画に行かない?


彼女は、急に誘われて、戸惑いを隠せていなかった。


彼女のことだ、恋人と僕のことをぐるぐる考えているに違いない。



正直、僕は彼女の恋人が彼女に合っていると思えない。

彼女を幸せにしてくれる人なら応援するけど…


とはいえ、別れろとも言えない。


ただ、彼女には笑顔でいてほしい。

もっともっと人生を楽しんでほしい。


そういう意味でも、彼女を『外の世界』へ連れ出したかった。

こういう時、僕のペラペラ流暢な話術は発揮される。




彼女は、「うん、わかった。」と答えた。


よし!さすが俺!!

ザックリと日時を決め、僕が迎えに行く約束をとりつけたのだった。

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