第3話 ~Hside~ ②胃袋をつかむのは僕の方


彼女はどうやら体調が悪そうだ。


彼女は必死に普通にふるまって仕事をしているが、僕にはわかる。

喉の調子が悪いのか、喉を気にしているのがバレバレだ。



僕は、昼休みに、わざわざのど飴を買いに出かけた。


もちろん、彼女にはそんな恩着せがましいことは言わない。

他の買い物のついでに買ったかのように装って、僕の食べ物もついでに買った。



偶然すれ違った廊下で、「はい!」と手渡した。

彼女はビックリしていたが、とても喜んでくれた。



やっぱり、彼女の笑顔は可愛い。

この笑顔に僕はどうしても弱いのだ。


中毒性がある。

また見たくなる。何度でも。ずっと見ていたい。


でも、笑顔だけじゃなくて、くるくる変わる彼女の表情も好きなのだ。

だから、わざと怒らせたくもなる。

ぷく~っとむくれる彼女の姿もかわいらしいのだ。





これは、どういう感情と思えばいいのだろうか?


僕には7つ年の離れた妹がいる。彼女は妹と同じ年齢だ。


妹みたいに可愛いといえば、確かにそうなのだが、そうではない感情もあるような…。




でも、僕は、今まで生きてきて、自分の感情を口にしたことはない。


恋愛をしてこなかったわけでもないし、もちろん童貞でもない。

結婚の経験だってある。すぐに別れたけど…。


モテないわけでない。むしろ、僕から告白しなくても相手からきてくれるのだ。

来るものは拒まない。


なんてたって、彼女が命名したように、外面良男(そとづらよしお)だからな。


で、付き合ってみると最初のイメージと違う!なんてこともあるのだろう。

去る者も追わないので、よくわからないが…。



情熱的には見えないかもだけど、結構尽くすタイプなんだけどな。

女の子のワガママをきくのは嫌いじゃない。



けど、なんでも全部きけるようなスーパーマンじゃないから。

最終的には僕がキャパオーバーになってしまうんだ。



とはいえ、別れるのも僕からはなかなか口には出せない。

僕はとにかく自分の感情とか自分の話をするのが苦手なのだ。




だから、そういう意味でも、彼女を見ているとホントに羨ましい。

自分の感情に素直に生きているから。


僕は怒ることも声を荒げることもないし、ましてや泣くことすらほとんどないからな。



だから、もし、僕に、彼女に対して妹以上の感情があったとしても、

よっぽどのことがない限り、僕がそれを彼女に伝えることはないだろう。


バツイチで7歳も年上の僕が、22歳の彼女にそんな想いを伝えるなんて、できるはずがない。


それに決めたんだ。

別れた元妻が誰か別の人と幸せになるまで、僕も誰かとの幸せは思い描かないことを。



だから、彼女に気持ちを伝えるなんて、絶対にありえない。


可愛いなぁ。そう思いながら彼女の笑顔を見ているだけ、それだけでいいんだ。

だから、彼女の世話を焼く。


慕って頼りにしてくれる彼女の笑顔が、僕に向けられている、それだけで嬉しいのだ。




だから、ついつい、居残りして2人になった時に、誘ってしまうんだ。

ご飯を食べて帰ろうって。


彼女が楽しそうに、時には愚痴をしゃべりながら、

美味しそうにほおばる姿がまた可愛くて、


そして、彼女とのおしゃべりの時間が、僕にとっても、とってもとっても楽しくて

時間なんてあっという間で、足りなくて、また誘ってしまうんだ。




よく、女が男の胃袋をつかむなんて話があるが、

彼女の「おいしい!!」の笑顔を引き出すために、毎日せっせとご飯に連れて行く。


彼女の胃袋をつかむのは僕の方だ。

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