第51話 涼芽の想い ~suzuka

明日はいよいよ手術だ。


今日、ハルくんが来てくれた。もう逢えないと思っていたからすごく嬉しかった。


でも手術のことは最後まで言えなかった。

ごめんね、ハル。普通にお別れしたかったから。


今度の手術は今までのとは違い、かなり難しいらしい。

お父さんとお母さんの様子でも分かる。


もしかしたら、もう最後になってしまうかもしれない。


覚悟はできていた。

ずっと前から。


今まで生きてこられただけでも幸せだと思っていた。

でも、いざとなるとやっぱり怖くなった。


みんなに心配かけたくなかったから言えなかった。

私が悲しい顔をしたらみんなが悲しむだろうから。


だから一生懸命に明るく振る舞った。

そうすることで自分の気持ちも誤魔化してきた。


そうしてずっとがんばってたのに、あいつは最後の日にブチ壊してくれた。

だから私は彼に全ての気持ちをぶつけてやった。


不思議だった。

全てをぶつけたら寂しさや怖さを感じなくなった。


私を包んでくれた彼の身体はとても暖かく気持ちがよかった。


ありがとう、ハルくん。私の想いの全て受け止めてくれて。


ハルくんと一緒に過ごせた時間はとても楽しかった。

いや、楽しいとは少し違った感覚だった。


彼と一緒にいると何か暖かいものに包まれている不思議な感覚がした。


彼がハルノートを置いていってくれた。

彼の小説を読むのは久しぶりだ。


読んでみると、ラストシーンが大きく変わっていた。

ヒロインが死ぬことはなく、ハッピーエンドになっていたのだ。


私を勇気づけるために変えてくれたのだろうか。

そんなワザとらしいくらいの気遣いが嬉しかった。


もう一度彼に逢いたい。僅かな時間でもいい。

でも、もしかしたらダメかもしれないな。


だから私は彼にメッセージを書くことにした。

私の気持ちを残そう。

伝えられなかった彼への気持ちを。


『ハルくん。ずっと一緒にいるって言ってくれてありがとう』



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