第33話 お見舞い(3)

エレベーターに向かう廊下で僕は自己嫌悪に陥った。


病室に戻ろうか。

何度もそう思ったがその勇気は出なかった。


その時だ。少し前を歩いていた武田君が突然に足を止めた。


「俺、スズメにちょっと話があるから戻る。先に行っててくれ」

そう言うと武田君は引き返した。


――え?


「おい何だ? まさか病院で告白か?」

ある男子が冷やかすように言った。


「悪いな」


武田君は軽く笑いながら病室へ入っていった。


ウジウジ迷っていた自分が情けなくなった。


葵さんに何の話だろうか?

僕は後ろ髪を引かれる思いでみんなのあとについて歩いた。


「克也、スズメに何の話だろ?」

ひとりの女子が言った。


「克也のやつ、ズズメとヨリを戻したがってたからな」

別の男子のその言葉は僕の心に突き刺さった。


ヨリを戻す? 

ということはやっぱり葵さんの元カレは武田君だったんだ。


自分でも何となくは分かっていた。

でも、それがはっきりするとさらに寂しくなった。


確かに武田君と葵さんならお似合いだ。

無理やり自分にそう思わせた。


エレベーターで一階まで下り、玄関前のロビーで武田君が来るのを待った。

けれども武田君はなかなか戻って来なかった。

その時間がとても長く感じられた。


僕は否が応でも膨らんでくる不安な気持ちを無理やり抑え込む。


「克也、いい加減に遅くね?」

クラスメイトの男子が痺れを切らす。


「二人で抱き合ってキスでもしてんじゃねえの」

不安感は抑え込める限界を超えた。

僕は居たたまれなくなり席を立った。


「ごめん。僕、先に帰るね」

そう言って僕は逃げるように出口へと向かった。


こんな弱い自分が心底嫌になる。

フラれたのに未だに未練がましい自分に腹が立った。


病院を出ると、駅へと向かうバスに飛び乗った。

少しでも早くこの場所を離れたかったのかもしれない。


結局、彼女と何も話すことはできなかった。

でも元気な姿が見られただけでよかった。

そう自分に言いきかせた。


その時、何か体が震えたような感覚を覚えたが、バスが揺れたせいだとも思って気にしなかった。


しばらくして時間を見ようとポケットから携帯を取り出すとメールの着信が入っているのに気づく。


誰からだろう? 

携帯を海に落とした時に登録したデータは全て消えてしまった。

そのため名前は表示されなかったが見覚えのあるアドレスが表示されていた。


suzume・・・・の文字に胸がキュッと締め付けられる。


覚えている。これは葵さんのメールアドレスだ。

僕は慌てながらそのメールを開いた。


『今どこにいるの?(怒顔スタンプ)』


やっぱり葵さんだった。

僕は焦りながら返信する。


『――バスに乗ってるけど』

『どうして勝手に帰るの?(怒顔スタンプX2)』


意味分からなかった。

どうしてって、どういう意味だ?

怒顔の数が増えていた。


『――さよなら、言ったよね?』

『君には言ってない(怒顔スタンプX3)』


そう言われると確かに彼女は僕の顔を見ては言ってはいなかったが・・・。


さらに怒顔が増えていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る