第11話 初めてのデート(5)

僕は何であんなことを言ってしまったのだろう。


いい加減なのは僕のほうだ!

彼女の言葉に決して悪気なんて無かった。


おもしろがってる? そんなわけないじゃないか。

僕のことをこんなにも一生懸命応援してくれたのに。純粋に僕を応援してくれてたのに。


なぜあんなことを言ってしまったんだろう。


僕は彼女のことを侮辱して傷付けてしまったんだ。


侮辱・・・・・それは僕が一番嫌いなことだった。

人に侮辱されることよりも人を侮辱することが何よりも嫌いだった。


僕はすぐに彼女のあとを追った。

店の外に出てまわりを見渡したが彼女の姿はすでに見えなくなっていた。


僕は店の前で一人呆然と立ち尽くした。


あたりを見回すと、いつの間にかすっかりと暗くなっていた。

上着を店内に置いて出てきたせいだろうか、強めの春風がとても冷たく感じた。

彼女のこんな寂しく悲しい声は初めてだった。


そのあと僕は一人で電車で帰った。


ひとりには慣れているので、いつもはひとりの寂しさを感じることなんてない。

でも今日はその寂しさをひしひしを感じていた。


家に帰ってからも、頭の中は自己嫌悪でいっぱいだった。


どうしてあんなこと言ってしまったんだろう? 

頭の中で同じ後悔の言葉が繰り返えされる。


こうして僕の生まれて初めてのデートは最悪なものとなった。



翌日、僕は彼女と待ち合わせた同じ場所で麻生さんと待ち合わせをした。


よくもまあ、そんないけいけしゃあしゃあとしていられるもんだ、と自分に吐き捨てるように言った。


昨日と同じ電車に麻生さんと乗り、同じ道で麻生さんとフェルメール展の会場へ向かった。


でも、僕の目に映っている景色は昨日と全く違っていた。

いや、景色なんか見えていなかった。


でもそれは緊張からではない。

僕はずっと彼女のことを考えていたのだ。


昨日と同じようにフェルメール展に入った。

昨日に負けないくらい多くの人が並んでいた。


彼女に言われた通り前売り券を買っていったので今日はすんなりと会場に入ることができた。

でも会場の中ではうわの空で何を話したのか全く記憶がない。


会場を出た後はまた昨日と同じ道を歩き、昨日と同じカフェに入った。


昨日のリハーサル通りに動いたが、気分は全く違った。


今回はテーブルの席を案内され、そのままその席に座った。

向かい合わせに座ったが僕は麻生さんと目を合わせることがでず、しばらく重い沈黙が続いた。


僕は一体何をしているんだろう?

今は麻生さんとデートしてるんだから余計なことは考えるな。

そう自分に言い聞かせる。


「冴木君はどんな本を読むの?」


麻生さんから話し掛けてくれた。


「うん、そうだね・・・・・」


でも、僕は上の空でその質問は頭の中を素通りしていた。


僕はその後もしばらく黙ったまま何も言えなかった。


「何、考えてるの?」

「え?」


「ごめんね。私と一緒にいても楽しくないかな?」

「え? そんなこと・・・・・ないよ」


僕は慌てながら言った。


どうしよう。

あまりにも会話が無いから麻生さんに変な心配をさせてしまったようだ。この際何でもいい。

何か話題を探すんだ。


僕は二人に共通の話題を探す。


「あのさ、葵さんて・・・・どんな人?」


言った後に猛烈に後悔した。

とんでもない質問をしてしまった。

どうして麻生さんといる時に彼女のことを訊く?


自分の余りにもの馬鹿さ加減にうんざりした。


「ズズメちゃん? うーん・・・・明るくて元気で。私と正反対の性格かな。男の子にも人気あるし」


麻生さんは素直に答えてくれた。


「確かにすごく元気そうだよね」

「でもスズメちゃん、体が弱いみたいで体育は見学が多いんだよ」


体が弱い?

とてもそうは見えないが意外だった。


「ふーん」


僕はそう返しただけで、すぐ会話は止まった。

また沈黙が続いた。


気がつくと、僕はまた彼女のことを考えていた。


「帰るね。今日はありがとう」

「え?」


麻生さんはすっと立ち上がるとそのまま店の出口へと向かった。


 ――しまった!


麻生さんは僕の態度に呆れてしまったようだ。

でも無理もない。


僕は何も声を掛けることができず、茫然と麻生さんの後ろ姿を見送った。


結局、僕はほとんど喋ることができず、人生二回目のデートもこうして大失敗に終わった。


最低だな! 僕は。

心の中でそう叫んだ。


葵さんを怒らせて、麻生さんを呆れさせて。

二日連続で女の子を傷付けてしまったみたいだ。


やっぱり僕にはまだ女の子と付き合うのは無理ないのかもしれない。

すっかり自信を無くしてしまった僕は、家に帰ってからも動くことができず、ベットの上でぼーっとしていた。


疲れてはいるのに、眠ることもできなかった。

時計が進むのが異様に長く感じられた。


よし、明日、学校で彼女に謝ろう。

僕はそう心に思いながら頭から毛布を被った。


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