第20話 二対二

危機を肌で感じる。

これを喰らうとまた戦闘不能になると、イズミの本能が告げている。



「こんな鎖……こんなもの……」



すると彼女、全身から凄まじい気勢を上げる。



「こ、ん、な、も、の……」



全身を包む気が猛り、炎のように燃え盛り始めた。



「…………ぶっち切る!!!!!!!!!」



ベキ……ミキッ……



絡み付いた鎖の輪が伸び、やがてひとつずつ破断する。



「何!?」


「おおおおおおおおおおお!!!!!!」



バキバキ……ベキ……ブチブチ……バキーーーーン!!



「忍法!!」



ー強空拳・崩潰!!-



ドゴォォォォォーーーーー!!



以前リュウシロウにデモンストレーションで見せた崩潰よりも、遥かに威力の高い一撃。

地面は割れ、めくれ上がり、ケイユンの瘴気弾を巻き込み、イズミを中心として半径30mの地形を変える。



「な、何という……一文字でこれか! いや、だからこそ我々の切り札に……」



攻撃と同時に大きく飛び上がり驚愕、焦燥、喜悦きえつを混在させる深井。



「ククク、さらに成長すれば……む!? な……何だと!?」


「うおおおおおおーーーー!!!」



崩潰で起こった土煙に紛れて、イズミが向かった先は何と深井。

ケイユンとの戦闘という先入観があったのか、深井は即座に反応出来ない。



「くっ!!」


「逃がさん!!」



空中で気を練る深井。向かってくるイズミの迎撃体制に入る。

しかし時既に遅く、彼の足首をかろうじて掴んだイズミ。


すると、



バキバキバキィィィ!!!



「ぐ……ぐあああああああーーーー!!!」



深井の足首が折れる……いや、粉砕されるような音。

握力に任せてイズミが握り潰したのだ。



「貴様ーーーーーー!!!」



深井が左手で印を結ぶと、差し出した右手掌の前に何かが生成される。



豪鉄塊ごうてっかい!!ー



「岩……じゃない? これは……鉄!?」



ドッッッ!!!!



「ぐ……は……」



拳よりも大きめの鉄球。深井はそれを放つことなく、自ら手に持ち直接イズミを殴打する。

顔面を殴打された彼女は思わず手を離して落下、一方深井はイズミを殴打した衝撃で滞空時間を伸ばす。



「く……しまった!!」



ドゴッ!



「がは!」



落下中の彼女に対し、またしても鉄球を放つ深井。追い討ちだ。

イズミは落下中であるため回避行動が取れず、成されるがままだ。



(ダメだ! 避けられない! それに、あの攻撃を貰うと落下が加速する! この早さで地面に叩き付けられたら、さすがに無傷とはいかないぞ……それに、下にはもう一人が……どうする!?)



考える。

地面に叩き付けられるまでの僅かな時間で、イズミは必死で考える。



(………………)


(…………)


(よし)



そして程無く決意。すると彼女の身体から、これまでにない程大きな狼煙が上がる。



「ぬああああああああああーーーーー!!」



言い換えれば白い炎。外からは、彼女の姿が形程度でしか分からない。それほどの密度だ。



「これが本当に鳴り物入りの忍術か!? ケイユン! 回避しろーー!!」


「あ゛……あ゛……」



深井はイズミの気勢に危機を感じたようだ。

ケイユンにそれを伝え、動こうとするが……



「もう遅い!!! お前達はまだ、力忍術の真髄を知らない!!!!!」



大いに啖呵を切ったイズミ。印を結ぶと、身体に纏う気が全て右拳に集中する!



「力忍術奥義!!!!」



空中で右拳を振り上げるイズミ。

その面差しは、その後起こる致命的な出来事に対する覚悟が見られる……が、



「無茶はイケませんヨ」



言葉と同時に、辺り一帯に吹く一陣の風。

すると落下中のイズミの身体が持ち上がり、その速度が大幅に軽減される。



「……え?」


「マッタク……困ったプリティガールさんデスネ。アレでは、一人倒せてもアナタがタダじゃ済みまセーン」



ごく最近で聞き覚えのある声。



「?? ……何者だ?」



滞空時間が伸びたものの、すでに落下中の深井。

突如現れた者を慎重に観察する。



「よくゾ聞いて下さりマシタ! 我輩は……疾風の風『ウインド』その人デース!!」


「トム!!??」




※※※




一時間前。



~なずな町 宿~



「zzZ……ふんごー……」


「……」



イズミが修行と出掛けた後、先に布団へ入るリュウシロウとトム。

リュウシロウはぐっすりと眠っているがトムは眠れないようで、両手を頭で組み天井を見上げている。



(遅いですね、イズミさん)



胸騒ぎとでも言えるのだろうか、どうにも不安感が拭えない様子。



(風がざわついています。こういう時は決まって……ん?)



ここは室内。だが、吹く筈のない風がひゅうとトムの顔を撫でる。



(これは気……? 町から5km程度……相手は二人ですか!!)



どういう理屈か、イズミが戦闘中であることを察知。

トムはすぐに起き上がり、身支度をしたと同時にリュウシロウを放置して宿を出る。


大通りを駆ける。忍らしく足は速いようだが、イズミには及ばない程度。

少し焦ったのか、



「急いだ方が良さそうですね……」



トムは印を結び、



「……忍法……」



翼賛よくさん舞風まいかぜ!!ー



すると、地に着く足がまるで重力を無視するかのように軽やかになる。

ふわりふわりと、それでいて一度の踏み込みで5m以上を稼ぐその足取りは、先ほどのイズミの走りを大幅に上回ると言えるだろう。



「さあ、まもなくヒーローがやって来ますよ! イズミさん!」




※※※




「ど、どうしてお前が?」



場所は戻り、戦場。

予想外のトムの出現に、イズミは目を白黒させる。



「コレですよコレ。詳しくは後デ」



そう言うとトムは、風をくるくると巻くように纏った指先を彼女に見せる。



「コンナ時間に貴女ノようなガールが一人修行だナンテ、ヒーローとしては心配デスからね」


「……便利だな……風忍術……何にせよ助かった。ありがとう」


「オホう」



暗がりであっても、イズミの微笑みの輝きは失われない。



「何をしている! ケイユン! やれ!」



一方、地面に着地した深井。すぐさまケイユンに指示を送る。



「う゛あ゛あ゛あ゛ーーー!!」


「!?」



一気に間合いを詰めるケイユンに、イズミは身構えるが……



ドン!!


「ぎ!?」



何かに遮られため、跳ね返り転倒してしまう。

ここでトムが歩み出る。



「風忍術……守勢しゅせい風帆かざほ。風の壁ノお味は如何……な!? あ、あなたは……!! いや、違う……?」



既に印を結んでいるトム。この僅かの間に忍法が使われていたようだ。

だが、理由は分からないがケイユンを見るや否や、非常に驚いた様子を見せる。



「貴様!! 邪魔をするな!!」



ー豪鉄塊!!-



「その程度の風では、この鉄球は防げんぞ!!」



今度は深井が鉄球をトムに放つが



「ア……し、しまっ……」



ドガ!! 



……バガッ



トムは慌てるものの寸前で鉄球は割れ、その場に落ち霧散する。

もちろんそれが出来るのは……



「お前の相手はボクだ。トム、警戒を怠るな」


「面目ありまセン……そうデスネ。戦いニ集中しまショー!」


「チッ!」



イズミである。苛立つ深井。



「二対二ですネ。これでフェアデス」


「ふん、図に乗るなよ西国人! ……ケイユン! やれ!!」


「ぎぎぎぎぎ!!」



ケイユンが一目散にトムへ襲い掛かる。

一方でトムは落ち着いた印象。むしろ笑みすら浮かべている。



(トムは大丈夫か……? リュウシロウは手練だって言ってたけど……)



イズミは、今日昼間にあった戦いを思い出す。

もっともその時は相手の実力が乏しく、あまり参考にはならず今ひとつトムの実力が推し量れない。

よって、これからの戦闘で真価が問われるだろう。



「あ゛ーーーーーー!!」



ケイユンの貫手、豹拳、掌底が入り混じった連打。



「……」



しかし、トムはふわふわと揺れるような体裁きをし、クリーンヒットを許さない。

ケイユンは苛立ったようで、さらに彼との距離を詰めようとする……が



ガシィ!



「ぎゃう!」


「掴ンデ攻撃しようトしているノガ見え見えデスヨ」



トムの膝蹴り。逆にケイユンの顎が跳ね上がる。



「あ゛あ゛ーーーー!」


「!」



だがケイユンもただでは転ばない。顎が跳ね上がったと同時に、トムの下腿部を掴んでいた。

握った下腿部を支えにして、ケイユンは起き上がりと共に握り締めた拳を、トムの腹部めがけて打ち込む!



スル……


「??」



だがトムの身体に触れる手前で、攻撃した側の手の軌道が逸れる。

何度打ち込んでもスルスルと軌道が逸れ、どうしても彼の身体に触れることが出来ない。

やがてトムは、



「我輩は接近戦ガ苦手なのデスヨ。少し離れてイタダキますカ」



そう言うと印を結ぶ。



「ニンポー……」



ー攻勢・荒嵐あらあらし!!ー



ゴオオオォォォォーーーーー!!



トムの身長程度の、螺旋を描くような風……つまり『横の竜巻』がケイユン目掛けて突き進む。



「ぎぃぃぃぃあああああーー!!」



螺旋に巻き込まれたケイユン。渦を描くように奥へ飛ばされてしまう。

その際、身体を強く揺さぶられた所為か身体を動かせないようで、地面へ叩き付けられる寸前だ。



「ソノママ倒れられると思いマシタカ? 甘いデスヨ」



吹き飛ばしただけでない。トムの追撃!



「ニンポー!」



ー攻勢・切颪!!ー



かつてリュウシロウが、イズミに問題として出した風忍術のひとつ。

既に遠距離にまで飛ばされてしまったケイユンを、無数の風の刃が切り刻む!!



ザシュ! ズバ! シュバ!



「ぎゃああああああーーーー」



地面にたどり着いた頃には血まみれ。

まさに風の如き早業で、ケイユンに深刻なダメージを与えたトム。もはや手練、実力者として疑いようがないだろう。


イズミの白黒した目が、今度は点に変わる。



(つ、つ、強いーーーーーーーーーーーー!!!???)

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