第14話 追っ手
次の日。
「よし! 朝の修行終わり!」
「ぽん!」
先に会った般若との邂逅以降、修行への気持ちが一層強くなったイズミ。
上衣から袴まで汗でびっしょりで、時折キラリと輝かせる。
そして休憩の後、なんとその場で素っ裸となり着替えを行う。
「ぽ、ぽん!!」
「あはは、大丈夫だって。誰も見てやしないよ」
胸が無いことを気にしていることから一定の羞恥心は持っていると伺えるが、実のところそれほど強いものではないようだ。
「そういや昨日の大道芸人、あれがリュウシロウの言ってた西国人ってヤツなのかな? 訳分かんない言葉捲くし立てるからずっこけたよ」
「ぽん?」
「ううん。結局、最後まで笠被ってたから分からなかった。どんな髪の色なんだろうなぁ。目も色が違うんだろ? ま、西に向かってたらそのうち会えるか」
そう言うと彼女は、身支度をして町へ戻ろうと歩みを進め始める。
「さ、町へ戻って食料の買い出しだ。リュウシロウもさすがに起きてるだろ」
※※※
一方リュウシロウ。
「ふあぁあぁあぁあぁぁ~~……ねっむ~……」
早朝、ボッケボケの寝起き面でいきなりボヤくリュウシロウ。
「ん? イズミは? ……あー、また修行か。ご苦労なこった」
彼は修行には付き合わないようで、まさに他人事となっている。
しかし……
「んじゃま……俺は俺で動くとしますかね」
彼には彼なりの考えがあるようだ。
そう言うと彼はゆっくりと起き上がり、おもむろに着替えながら、
(普通に相部屋にされて、普通に寝てたが……アイツ、まるで意識してねえな。なんか凹むぜ……風呂嫌いのクセしていい匂い撒き散らしやがって……)
と、思春期の男の子のようなことを考えているのであった。
※※※
再びイズミ。
町へ戻った彼女。宿に戻るもリュウシロウが既に外出しているため、途方に暮れている。
「まったく、何処に行ったんだアイツは! 出発が遅れるじゃないか!」
「ぽんぽん」
「あ~、そうだな。ボク達で先に買い出しだけ済ませておこうか。食べ物ばかりだし、ボク達だけで選んでもいいだろ」
ぽん吉の提案により、イズミ達だけで食材の買い出しに行くことに。
彼女は目ぼしい店を探そうと、多くの人が行き交う大通りをひたすら進む。
「!」
そこで何かに反応する。どうやらすれ違った人間に対してのようだ。
イズミは振り返り、背後の二人組に視線を送る。
(何だこの二人……他の群衆と明らかに何かが違う。忍なのか? 初めて見る種類の人間だ……)
※※※
再びリュウシロウ。
「そうかい。すまねえ、邪魔したな」
「おう、いいって事よ。また仕事の方も頼むぜ!」
初老の男性と話していた様子のリュウシロウ。どうやら顔見知りだったようだ。
しかし結果的に肩透かしだったのか、彼の表情は芳しくない。
「チッ……これで七人目か。やっぱその辺の一般人に聞いても分かる訳ねえよな」
リュウシロウは歩きつつ、二枚の紙を見つめてそうつぶやく。
紙には小面、般若の能面を非常に詳細に描いている似顔絵的なもの。
どうやら彼は、能面の者達の情報を掴むために嗅ぎ回っているようだ。
「……もう少し聞き込み範囲を広げるか……いや、俺のツテじゃ無意味か……?」
しかし手詰まってしまったのか、裏路地で立ち止まり思案する。
そこへ、表通りへ繋がる通路を塞ぐように、二人の男性が現れる。
「ちょっといいか?」
「あ?」
※※※
再々度イズミ。
イズミとぽん吉は既に買物を終えたようで、彼女の両手にはそれぞれ大きな風呂敷が一つずつぶら下がる。
「ちょっと買い過ぎたかな……」
「ぽん……」
「ま、いっか。このくらい全部食べるだろ。次の町……えっと何だっけ? はこべら町だっけ? 遠いって話だし」
「ぽん」
「え? 五日も掛かるのか……すずしろとなずなは一日で行き来出来るのに。まぁとりあえず宿に戻ろうか」
風呂敷を持ったまま、来た道を戻るイズミ。
スタスタと、全く重さを感じさせない足取り。しかし、宿まで残り半分程度の距離でピタリと止まる。
「ぽん!」
「分かってる」
彼女は、近くの裏路地に繋がる通路に目線を送りつつ思案する。
(気の波動が二つ……こんな町の中で?)
「様子を見に行こう」
「ぽん!!」
「ぽん吉は荷物番をしていてくれ」
「ぽ……ぽん」
付いて行く気だったのだろう。しかし荷物番を任された事からいささかしょんぼりするぽん吉。
これまではイズミの奇行に悩まされていたが、強敵との戦いや邂逅などによりぽん吉の意識も変わりつつあるようだ。
「後で、たらふく唐揚げ買ってやるからな!」
餌をチラつかせ、ぽん吉を
なおぽん吉はこの条件で満足のようで、途端に二足となり立ち上がって、キリリとした面構えとなったのであった。
※※※
再々度リュウシロウ。
「お主、リュウシロウで相違ないか?」
「リュウシロウ? 誰だよそれは」
リュウシロウの前に立ち塞がる男性二人。
双方共に
しかし手に持つ
「とぼけるな。灰色の髪色、六尺に満たない背丈……手配書のとおりだ」
「!」
何かを察知したのか、リュウシロウである事を即座に否定したリュウシロウ。何かに気付いた様子。
「髪色? 確かに珍しいけどよ……この町にはバカみたいに人が居るんだぜ? 現に俺よりもう少し明るい白に近い灰色髪のヤツと、あの時は夕方でちょっと分かりにくかったけど、俺に似た髪色のヤツも居たしな」
「何……?」
もちろん嘘である。
しかも嘘に真実味を帯びさせるため、具体的な情報を即興で作り上げる。
「この男は……シロか……?」
「いや……もう少し……」
惑わされている二人。ボソボソとお互い相談し合っている。
この隙に、リュウシロウは考えをまとめる。
(ケッ! 髪色と背丈だけで判断してるって、お前からバラすんじゃねえよ。だが誤魔化しきるのはちと難しいな……
とりあえずは引っ張れるだけ引っ張って、番所のヤツが気付くか通り掛かりがあれば……イズミが来るのが最良だが。てか何者だ? この連中……)
方針が決まったようで、間髪入れず動き出す。
「そんなに俺に似てんのか?」
「ああ……い、いや! 手配書は完全にお主の特徴だ! 我々を
「だから、似たようなヤツが居たって言ったじゃねえか」
「それはお主が我々を欺くための虚言……」
「俺がリュウシロウってヤツなら、あんたらが話し掛けた時点で挙動不審になるんじゃねえの? それかすぐに逃げ出すかな。んで戦うって選択肢もあるだろ。俺は一般人だぜ? 話し合いしか出来ねえ。だから今こうして分かってもらおうとあんたらにしゃべってんじゃねえか」
「む……むう……」
口八丁でひたすら煙に巻くリュウシロウ。
目前の二人は、またしてもボソボソと話し合う。
(やっぱ見た目の特徴しか分かってねえな。しかもその情報も雑だ。よくこんな仕事引き受けるぜ。ま……これで、コイツらの親玉はほぼ確定だ。あのカス共は俺の具体的な情報なんて興味ないだろうしな。ったく、このクソ忙しい時に……)
ひたすら時間を稼ぐリュウシロウ。
相手の出方を待っていると、話し合いが終わったのか数珠を持つ男が前に出る。そして、
「両手を差し出してみろ」
(……だよな。あのカス共が親玉ならそこは聞いてるわな。もうちょい引っ張りたかったが仕方ねえ)
誤魔化しきれない理由は傷だらけの手。
沈黙するリュウシロウ。
「早くしろ」
「分かった。とくと見ろ、この美しい手を……あ、番人さーん! こっちこっちー!」
「何!?」
最終的には古臭い手に頼った彼だが効果
ダッ!!
その瞬間、彼は反対方向へ逃亡。
「……む!? 逃げた!」
「やはり
二人もすぐに後を追う。
双方かなり足が早いようで、みるみるリュウシロウとの差が縮まる。
(やべえ! 早ぇ…てか俺が遅ぇのか。 忍か? いや、何か違うような……)
「ははは! 必死の策も徒労に終わったようだな!」
(……く、くそ……!! 逃げられ……)
杖を持つ男が、リュウシロウの肩に手を掛けようとしたその瞬間……!!
ズンッ!!
「ーーーーーー!!」
「へ?」
何かが杖の男の顔面にめり込んだ。彼はそのまま前のめりに倒れる。
何が起きたのかとリュウシロウが恐る恐る振り返ると、そこには……
「リュウシロウ! 無事か!」
少し暗めの二藍色、切れ長の目、秀麗さを匂わせる美しき忍。
「い〜〜〜ず〜〜〜みぃぃぃぃぃ〜〜〜!!!」
イズミ見参。
リュウシロウは感涙していた。
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