第8話 VSチョウジ
「話……?」
「そうだ。まず問いたいのだが、どうして私を敵と認識した? 私は貴様の前に現れただけだが? 少々驚かせてしまったようだが」
「それだけの殺気を放っておいてよく言う!」
「……ふむ」
小面からのトボけた質問にイズミは激高。
ただ相手は、何かを推し量っているように見える。
「今度はこちらからの質問だ。何度も聞いているが、お前は何者だ?」
「……チョウジ……とでも名乗っておこうか」
「ではチョウジとやら。目的を聞かせてもらおう」
「クク……ククク……」
表情は能面越しであるため分からない。しかし、明らかにイズミを蔑んだような笑い方。
「何がおかしい!!」
「いやいや、気を悪くしてしまったようだ。すまない。……しかし、随分と甘ったるいんだな。貴様は」
そのままゆっくりとイズミに近付くチョウジ。数歩進み、彼女の目前にまで迫る。
「ほら。今も私に攻撃する良い機会と言えるんじゃないか?」
「お、お前が話をしようと持ちかけたのだろう?」
「ふむ……」
やはり何かを推し量っているチョウジ。イズミに近付くも何もせず、ただただその表情のない能面越しに彼女を見つめている様子だ。
「先ほどの『見逃す』という私の言葉をそのまま信じる……『話をしよう』と言えば素直に応じる……精神面は落第だな」
「何を偉そうに!! ……では話は終わ……ぐあっ!!!」
彼女が何かを言い切る前に、チョウジの膝蹴りが腹部に刺さる。
「わざわざ会話終了の宣言をしてから攻撃をする馬鹿がどこに居る」
「き、貴様~~……ぐっ……」
大岩変化の岩礫が直撃しても、一切ダメージを受け付けなかったイズミへの有効打。
しかし直ちにチョウジから距離を取り、腹部を押さえつつも構える。
(一体何なんだこいつは? 話がしたいと言ったり突然攻撃してきたり……目的が見当も付かないぞ。もっとも、どのみち危険なヤツには変わりない! ここで……ここでボクが何とかしないと!!)
チョウジに対する警鐘は、さらに深く強く彼女の中で鳴り響く。
まもなく構えのまま印を結び気を巡らせ、全身から気を狼煙のように上昇させる。
「む? ……そうか。それが力忍術か」
「はああああ!!! ……忍法!!」
ー
全身から上昇している白煙が、イズミの体表を這うように移動する。
「自己強化の類か。さしずめ『防御力アップ』と言ったところだな」
西国語を交えて、彼女の忍法を分析するチョウジ。
「行くぞ!!」
「ふむ……宣言は癖なのか、それとも拘りなのか? 今後のためにも是正してもらいたいところだ」
言葉と同時に正面から向かっていくイズミ。
この状況の中でチョウジは焦りもなく、彼女に駄目出しすらする始末だ。
「せやあああーーーー!!」
しかし、そんな事はお構いなしに攻める。
即効でチョウジの懐に入ったイズミは、細かく右と左の連打を相手の腹部目掛けて放つ。
「む……!」
チョウジのこれまでと違う反応。予想外の速度だったのかもしれない。
すぐさま半身となり、身体を左右に揺らし的を絞らせない。しかし彼女は回転数重視、さらに両手での攻撃であるため……
ゴッ! ……ドス!! ……ミシッ!
「……チッ!!」
いくつかはヒットする。
明らかに不快感を示すチョウジ。姿勢が僅かに前のめりとなる。
(来る……!)
その様子を視認したイズミは、チョウジからの反撃を予想した。
しかし、それでもなお彼女は連打を続ける。その時、
「鬱陶しい」
ドガッ!!
「ぐ……う……」
またしてもチョウジの膝蹴り。今度は腹部ではなく、イズミの顔面に命中してしまう。
「……少々驚かされた。戦闘に関しては私が調べた以上のものがあるな。このまま調……」
驚かされたと言いつつ、あくまでも上から目線。ぶつぶつと何かを言っている。
彼女は空を仰ぎ、そのまま……
ダンッ
倒れない!
「はあああああああああーーーーー!!」
大地を思い切り踏みしめ、拳を強く握り、反動を利用して思い切りチョウジの胸を殴り付ける。
攻撃を続けたのは、この展開を予想していたからか。
ズドォォォ!!!!
「ぐ……っはああーーーー!!」
5m、10mと、地に足が着いているにも関わらず吹き飛ぶチョウジ。
「ふん! 相手が倒れてもいないのに、勝利を確信する馬鹿がどこに居る」
「……ゴホッ……カハッ」
鼻出血が見られるものの、大きなダメージはなさそうなイズミ。血液を飛ばしながら鼻を鳴らし、先ほどの意趣返しをする。
「……なるほど」
吹き飛ばされ、みぞおちをさすりながら納得した様子のチョウジ。
その声色に落胆は見られず、むしろ嬉々としている印象が見受けられる。
「せやぁぁぁーーー!!」
さらにイズミは飛び込み、追撃。
左で無数の牽制を放ちつつ、右は引き手の位置で気を纏いスタンバイ。
「図に乗るな」
今度はチョウジ、無数の左を体捌きで上手く躱す。それでも躱しきれない攻撃については左腕でガードし、体幹に被弾させない。
だがそれでも、
「……チィ!」
あからさまに嫌がる。
ガードをした左腕がだらりと垂れ下がる。それこそが理由と言えよう。
イズミはさらに攻めようとするが……
「防ぐこともままならんとは。何という力技だ……噴!!」
ドンッ!!
「ぐあっ!」
チョウジは、残った右手で見えない何かを放つ。気を利用した衝撃波だ。
イズミは無防備で喰らってしまう。
「それは使わせない。噴!! 破!!」
「む! ……ぐっ」
さらに衝撃波を連打。多くは直撃してしまうが威力は高くないようで、イズミの目はしっかりと見開かれている。さらに、最後の攻撃についてはかろうじて躱せたようだ。
しかし彼女の、引き手の位置にあった右手の気は霧散してしまっている。
(くそ! 集中力が途切れた! 寸前のところで……! しかもこの衝撃波も、躱せるタイミングを掴み掛けたところで止められた。上手いな……)
口惜しさが見えるイズミ。
お互い少し距離を置き、仕切り直しの空気だ。
その間でチョウジが口を開く。
「すまなかった。みくびり過ぎていたようだ。上方修正させていただこう。接近戦では少々分が悪いようだ」
「そうか。……嬉しいよ!!」
もうチョウジの話術には乗らないという意思表示か、軽い返答と同時にまたしても飛び出すイズミ。
「なかなかどうして……怖い相手じゃないか。ククク……」
そう言いつつチョウジは、右手を前にし人差し指と中指を立て印を結び、身体から狼煙を上げる。
「……忍法……」
ー
ボゴッ! ズズ……ズズズズズズ!!
「な!? これは……ぐあ……!」
イズミがチョウジの懐に入る寸前、二人の間に複数の木が一気に生える。
木々は、たちまち成人男性の足程度の太さに。しかも多量であるため、その間は生え方の影響で隙間があるものの遮断されたと言っていいだろう。
たちまち覆い茂る木々に、攻撃前の彼女は衝突し押し返されてしまう。
「貴様と近付いて戦うのは得策と言えないようだ。だから私の距離で戦わせてもらう」
木々の隙間から聞こえるチョウジの声。
しかし戦うにしても、容易にはお互いが干渉出来ないように見える。
「……ふぅぅう……」
一方で、油断大敵という言葉をすでに思い知らされているイズミ、臨戦態勢を崩さない。
木々という隔たりがあったとしても気を練り上げ、迎え撃つ準備を万端にする。
しかし、準備万端だからと言って、必ずしも何もかもを迎え撃てる訳ではない。
そう。特に予想外の攻撃に対しては。
「忍法……」
(!? ……気の波動が違う!!)
再びチョウジが何らかの術を使うようだが、そこには大きな違和感。
ー
「な……!?」
『ズズズズ……』という音と共に、地面が広範囲で柔らかくなる。
足首まで沈み、直ちに引き抜こうとしてもまるで動かない。
さらにチョウジは気を練り続け、新たな術を放つ。
ー
ー
ー口寄せ『大岩変化』ー
ー口寄せ『樹木変化』ー
方や、イズミの目前にある地面が大きく盛り上がり、津波のように襲い掛かる。
方や、二人を分断していた木々の根元が途端に朽ち始め、彼女側に向かって倒れようとしている。
さらに目前には、以前イズミが倒した規模の大岩変化と樹木変化が現れる。
(こんな……! 立て続けに複数の忍法を……!!??
しかもこの大岩……あの時の!!)
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