一、恋は晴れ

 「良かったじゃん!念願の水ちゃんとのお付き合い!」


 「めっちゃ緊張したけどな。心臓が口から出るかと思ったよ」


 教室の騒めく中で会話をしている相手は、同級生の少女、花井詩羽はないうたは

 奏多の告白を一番応援してくれた人だ。

 

 昔から奏多の腐れ縁だが、人の良さだけは学校一だろう。

 机をバンバンと叩いて、背中も叩いて大いに笑っている。性格は大柄で、懐が結構でかい。


 奏多が所属している部活の文芸部の副部長を務めている人だ。本当にオールマイティーである。


 「ふふふ、これで弄り倒せるわねあんた達を」


 「その為に協力したのかよ。俺は一向に構わねぇけど、水城の性格だと絶対嫌がるだろうな」


 「そうねぇ。ウブだもんねあの子」


 「随分と上から目線だな一個しか違わないのに」


 奏多の彼女の水城柚月は、高校一年生の女子だ。

 一つ下を狙い落とす性格では無く、単純に家が近かったから仲良くなった。

 引っ越して来た時は人見知りが激しくて、奏多に対しても口を聞かなかった。

 だが、親密を深めていくうちに、口を開くようになり、相思相愛の関係に発展していったというわけだ。


 「私は実際お姉さんなわけだし、奏多とも付き合いは長いからね。姉みたいなものでしょう?」


 「違うと言い切れないのが悔しいっす姉御」


 ぐうの音も出ない程の暴論を披露され、悔しいながらも肯定する。

 すると、チャイムの音が校庭から校内まで響き渡る、


 「おっと、話はここまでね。じゃ、席につきましょうか」


 「本当にお前は姉さん味が溢れてんな」


 一言呟いて、授業に集中する。

 先生が入ってきた時には、みんなの視線は教卓へと集まっていた。


 「はーい、今日は難しいところをやるので、いつも以上に集中して聞いてね。まず、この問題からなんだけどーーー」


 

 「はぁあー……もう無理限界っすよ」


 机に突っ伏し、四時間分の勉学を反芻するも、全く頭には入っていない様子だ。

 思い出せん。


 「詩羽、ちょっと水城のとこ行ってくる。早く顔を見て疲れを癒したい……」


 「まだ四時間なのにだいぶお疲れね。良いよ良いよ!どんっと一人で任せて、孤独に食べてるから」


 豊満な胸を叩き、一人で食べる宣言をして見せた。

 ふ……胸は大きいだけじゃ、ダメなんだぜ。


 「んじゃなっ!っとごめん」


 手を上げて走り去ろうとしたが、一人の男子にぶつかる。俯いたまま何も言わない男子に謝りつつ、教室を出ていく。


 晴れた天気は、まるで奏多の行く末を祝福しているように見えた。

 

 「水城いる?一緒にご飯食べたいんだけど」


 一年五組の教室にて、奏多は顔を覗かせて近くの女子に聞く。すると、女子はみるみるにやけた面になっていった。


 「はーい。柚月ー!彼氏さんのご到着だよぉ〜!」


 「はっ⁉︎」


 驚愕するだろういきなりだと。

 奏多はまだ彼氏彼女関係になったと、知られていないはずだ。知っているのは僅かな部活員だけで……ってあいつか!


 窓際に座る柚月のボーイッシュな髪を揺らし、赤面した表情で奏多を睨む。


 俺じゃ無い俺じゃぁ!と、手振り身振りで教えるも、中々納得していない様子だ。


 「にしし。まぁ、先輩がんばっ」


 肩を叩いて廊下に出ていく女子は、気軽げに言ってきた。


 「近頃のj kはあんなのしかいねぇのか。俺の水城を見習えっての」


 俯いた状態のまま、彼方に近づき、顔を真っ赤にしながら裾を引っ張る。あまり力の入っていない引力だが、それには流石に抗えない。致し方ないだろう。

 

 柚月は学年でも目立たないだけでトップクラスに可愛い。だから、クラスにいた男子全員は赤面する柚月を見て顔を真っ赤に染めていた。

 それに気付かず廊下を出ていく二人に、なんとも妬ましい視線が送られるのだ。

 

 「まだクラスに慣れてないのか?良い加減友達を作れよ」


 「私は杉坂君がいてくれるだけで良い。それだけで満足」


 「何この子っ!可愛すぎんか‼︎」


 こんな子が彼女とは誉の何者でもない。完全にリアルが充実したあれだ。リア充だ。


 「っと、本日二回目ごめんっ」


 前方を見てなかったせいか、廊下を歩いてきた男子にぶつかってしまった。

 本日二回目ともなれば、三回目は気をつけることにしよう。三度目の正直だ。いや、二度あることは三度あるとも聞くが。


 「最近の若造はぶつかって謝りもしねぇのか?」


 「悪いの杉坂君じゃないの?前方不注意だし、前向いてないし」


 「辛辣だな水城は」


 それも微笑ましく思えるのだから、恋人とは凄いものである。


 屋上は晴れて太陽の日差しが直に浴びる良い天気だった。屋上はだいぶ空いていて、二人でご飯を頂くには良い感じ。


 「くそおぅ、旨すぎて泣けてくる。ビーティフルエレガントデリシャオスだわ」


 「意味わかって言ってるの?」


 「いや、わっかんね。俺の英語の点数は驚異の三十点代赤点ドンピシャ。そろそろ補修も脱したいのにな」


 「それじゃあ、私との時間が減るかもしれないってこと?」


 「ん、そうなる」


 「……っ!私が教えるから赤点は免れて!絶対に七十点は取ろう!」


 「急に元気になりましたね。っわかった。可愛いい彼女のためだ。人肌脱いで俺は頑張ってやるぜ!」


 「人肌脱ぐの私なんだけど」


 「細かいこと気にすんなよ。卵もらう」


 奏多の箸を直接柚月の弁当の卵を掴む。美味しそうな黄色い卵を拝借。いや、咀嚼。


 「美味いなこの卵」


 「でしょう」


 取ったことを咎めもせず、柚月は誇らしそうな顔を見せた。


 「っていうかさ、今日変だよな。晴れてるのに薄気味悪いような……」


 「そうだね。屋上にいるみんなも妙に静かで」


 ガダッ!


 肩を跳ねさせ、一瞬何が起きたのか理解が追いつかない。

 ただ、分かることといえば、






 




 柚月が血を流して倒れていたことだけ。

 


 

 


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