第34話 噂を尾ひれがつく

「今日も頑張ろうな」

「はい」


居酒屋の厨房にて玄さんとやり取りをする。

あのときの人だと気づいていなそうだ。


「さて開店だ」


独り言を呟き、お客様が来るまで待つ。


   

ーーーーーー

ーーーー

ーーー



「頂利君〜」

「どうしましか?田中さん」

「田中じゃなくて美代子と呼んでよ〜」

「美代子」

「いいよいいよ」


田中さんはこの店の常連客でよく酔って俺に話とか愚痴ったりしている。

今日は一段と酔っている。


「最近蒼のハンティングとか言う人がこの街で残っているヤクザを倒してくれるおかげで私が忙しくなるのよ、今日もあったし」

「つかぬことをお聞きしますが蒼のハンティングの特徴というのは分かりますか?」


玄さんはお酒を注ぎながら聞く。

注いだお酒は対価としてだとわかる。

田中さんも理解した。


「ふーん、なるほど、では一つ蒼のハンティングは狐の仮面をかぶっていることかな〜」

「そ、そうか」

「あれ?玄さんが珍しく動揺しているね〜もしかして会ったことがあるの〜?」

「心当たりはあると答えておこう」


玄さんかそう答えると田中さんから離れる。


「すいません」


「涯行ってこい」

「はい」


オーダーを受けに行く。

まだこんな少しの情報から俺だと特定できる人はいるがもういない。

だって俺に仮面を託してくれたから。

『涯は今は病弱だがもしかすると治って外を自由に動けることがあるかもしれないがその時は世間様から悪となる行動するだろう、でも気にするな、もし身バレしたくないのならこれを託す』

そう言われたのだからあの人から。


















「涯が狂笑ってほんと?」


バイト漬けの休み日が終わり休憩時間に教室にて蒼井からそう言われてしまう。

わかっているよ、霜端が俺だと目撃していて報告していることなんて想定済みよ。


「違うよ、だって噂には尾ひれがつくものだから」


求めている答えをあえて言わないようにした。

蒼井のミスを気づかせるように。


「そ、そうなんだ」


蒼井は気づいて作り笑いをする。

これで俺を誤魔化せたと思っているようだ。チョロいな。

しかし霜端は気づいておりジト目で見てくる。

そうしていると四条がこちらに向かってくる。


「あのさ、冬休みにカラオケでも行かないか?」


そう言われるが誰に向かって言っているのか分からずこちらはポカンとしている。

それに気づいた四条は慌てて言い直す。


「蒼井と頂利と板見さんに言っているんだけど‥‥‥」


申し訳なそうに言う。

あ、こいつ霜端を狙っているな。でも蒼井にベッタリと噂を流しているんだけどな?もしかしてNTRか!

NTRついては個人の自由として強く否定はしない。十人十色である個性を否定することに繋がるから。


「わかったわ」

「いいよ」

「無理」


俺だけ断る。

そうなると思ったよ。


「なんで?」


霜端から聞かれてしまうが、なんでかは蒼井と霜端知っているはずだ。


「バイトあるから」

「なら休みの日は?」


答えるとまた霜端からすぐ聞かれる。

なんで?


「あるが‥‥27日だけだながな」

「ならその日でいい?」


霜端はすぐに四条に聞く。

霜端の素早い行動に四条は一瞬驚くが返事をする。


「わかった」


そう言い四条が自席に戻っていく。


キーンコーンカーンコーン


「じゃあね」

「霜端またな」


霜端は教室に急いで向かう。

その後ろ姿を蒼井と一緒に見てなぜか微笑ましくなる。



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