まだ鳴らぬ、己のサイレン
「はぁ、あのなぁ、俺が巡って俺が通すってどういうことだよ。」
相変わらず、意味不明な言葉回しだと頭の隅に追いやる。
「さてさてっと」
まぁ、待つんだ。あくまで見なし、推測、確定ではない。だが、地面とブラックボックスに挟まれ消滅したという視認できる状況は変わらない。この目で俺はそれを確認した。間違いない。この地面に、又はブラックボックスに、はたまたブラックボックスの内側に何か作用があるのか、
「でも、試す価値はある、だな。」
今まで一度も試してこなかったこと。そもそも、向こうから近づいて爆散し、分からなくする。そんなやつ、逃げるのが当たり前だろう。ただ、避けて弾けて、放置。これがこいつらへの対策だと思っていたが、もし物理が効くとしたら。この力が効くとしたら、この場を収めることができる。
「確認しなきゃいけないのは、消滅現象が出ないかだな。これがあるとないのとじゃ違いすぎる」
いざ、武器を生成し、不成人に力が通じるとする。ここまではいいが、その後が1番重要なのだ。最悪の可能性を考えなければならない。もしも、爆散しその場で現象を散らした場合、自分も巻き添えになる。事実として、自身の外套がーー
「…まさかな」
一度、力を解除したものがその後どうなるかなんて考えもしなかった。いつも次に出す時は元に戻っているのだから、それについて考える余地もなかった。
「……」ゴクリ
相手に力か効く、ということは
「もちろんそっちからの力も効くってことか?」
その理論で行くと、やはりリスクは上がる、だが対策の手段としての手札は増える。そう考えながら起き上がる。
不思議と先程までひどく
(治りが早すぎる。コガメとパスが繋がっている可能性が高い…か)
色々と解明したいことが多すぎるが、まず目の前のことに集中することにする。
「……在れ」
「ーー」
「……在れ」
反応がない。もう一度自身の中でイメージを再構築する。
先程まで来ていたのは寒さにも暑さにも耐性がある利便性抜群の外套だ。色は深緑。意外と気に入っている。内ポケットもあり、入れるものは何もないがあったら便利だろう。他にもいろいろ便利機能満載な外套だが、1番の特徴が丈夫なこと。どんなに激しい動きをしようが、引っ掛かろうが、ぶつかろうが、この力で出したものはどれも丈夫だった。
さぁ、準備は整った。そのイメージを後は具現化するだけだ。
「吉とでるか凶とでるか」
自然の摂理に従って、それに反するものを生成する。運は果たしてーー
「…在れ!!」
瞬間 目繰の前にーー
「…なにも…おきない?」
仁王立ちする裸の青年の横ですやすやと寝息を立てて眠っていたはずの少女がぱちりと目を開けてこちらをみている。
手を前にかざし、「在れ!在れ!」と訳の分からない独り言を言っている姿はその無垢な瞳にどう写っていたのか。
「いや、言ってる意味はわかるだろうけど…」
なんだかいたたまれない気持ちになっているのを抑えて、目繰はこう言うのだ。
「あれ?」
♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫
「目が覚めたんだな、おはようコガメ。」
「……」
「いやーほんと困ったよー、服がでないんだもん。裸で寒い寒い。あーいやだな。」
「……」
「あのー、なんかさっきから目線が俺の下に向いてる気がするのですが、気のせいだよな?」
「……」
「いや、向いてないならいいんだ、ただ…。横に腰を振るとお前の顔も動くのが気になるんだが…」
「………フッ」
「っ!!お前今笑ったのか?なんか前のお前とは違う確固たる意思を感じるんだが。」
「ちらない」
「いやそれそれ!あうあう言ってたのに!どうしたんだよ、急に。」
コガメがいきなり喋れるようになった。理由は定かではないが、意思疎通が取れるという意味で大きく変わる。
(おそらく、不成人が関係してることは確かだな)
定かではないが、推測はできる。不成人出現から徐々にコガメの体が、もとい内の何かが成長してるような、感覚的に重くなるような気はしていた。
「わたちは」
「ん?」
まだ、コガメの目の位置は目繰の下に向いており、凝視している。
「わたちは…ゆるちゃない!」
「え」
「へんななまえをちゅけたのゆるちゃない!だからそのちんぽこをけるの!」
「え」
「かいめいをようきゅうする!そのためにちからをふうじてるの!」
「え」
「そのめもきにいらない!ちゅべてをあきらめたそのくちゃったこんじょーたたきなおちてやる!」
「え」
「ぱすはちゅながってるから!またすぐになおるから!かくご!」
「え」
情報量が多すぎる故、処理班求む!
ただ、そんなものどこにもいないため、今は目の前の少女がこちらに走ってくるのをただ見つめる。
(大丈夫。落ち着け。とりあえず、か弱い少女からの改名要求に対するイチモツ蹴りは甘んじて受け入れるか。ま、所詮一時の痛みさ、きっと耐えられーー)
「ぶきようなこぶし!」
「え」
突然、コガメの右手が光ってーー
「きようじゃないわたちのみぎてはーー」
「待て待て!なんだよそれ!不の力を使うとか聞いてないし、蹴るんじゃねぇのかよ!」
時すでに遅し。
既にコガメの拳は目繰の目と鼻の先まで来ている。
「てかげんをちらないっ!!」
たかが、少女の力だ。そこまで大げさにする必要はない。ここは大人の余裕を見せつつ、"あえて"面白いおかしくリアクションをとってやろうと思う。たとえ、パンチングマシーンの如く、イチモツが脳天にまで届きそうな程の威力だったとしてもたかが。たかがだ。はぁ。そろそろいっちょやったりますか!機嫌取り!名前に関しては正直安直すぎて申し訳なさがいっぱいだったけど、そこまで怒るかね?また一から名前を考えるとしても今回はこいつの意見を考慮しつつ決めてやりますか。それにしても、蹴ると思ってたのに殴るとかひどくねぇか。一応こっちにも覚悟ってものが必要だと思うんだよな。
「たたきなおすっていいなおちた」
そうだったか、すまんすまん。色々情報過多で頭回ってなかったわ。そうだ、そうだよ、お前に色々聞きたいことがあるんだよ。名前の件は先に終わらすとして、その後色々話を聞かせてくれよな。
「めぐり、まだきはある」
あ?なんだ?き?木?木なら周りにいっぱいあるだろ。
「もーいい、それより、りあくしょんとらないの?」
ん?あ、ああ!!ほんとだ!リアクション!ってもう遅いよな。っていうよりも、ほら期待してたよりも上だったというか下だったというか。まったくいたくなかったんだよな。力は使ったのはいいものの、拳は当たってなかったんじゃないか?
「あたった」
ほんとか?でもほら、現にーー
「げんに?」
え
「なに?」
浮いてんだけど、俺
「ちってる。わたちがやったから」
更にいうなら、真下には白目を剥きながら裸で倒れてる青年を上から見下ろしている状態になっている。
「あきらめるのははやい、まだねーたまたちにおいちゅける。だからあきらめない」
あーもう、訳分からん。とりあえず、どういうことだ。いい加減こっちはうんざりしてるんだ。はっきり分かりやすく言ってくれ。
「わかった。でもまず、このはこのなかにいるふののこりかすをころちてからはじめましょ」
不敵に笑った少女はやはりアカメの気質を兼ね備えており、重なる部分が多かった。
だが、やはりどこか欠けているような気もした。
そして、その状況故にイヒの異常に気づけない。
『……メ……リ……通…せ』
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