不のものクエスト

knockhai

風呂場に浮かんだ無数の垢から足掻いて

ひとりなんて、ないさ

 水に沈みゆく体。








 まさに今、1人の人間が海に沈んでいる。



 かすかに光が届く水深から上を見上げ、片手を伸ばす。





 イヒ






 もう片方の手で、自分の腹の上にある直径70cmほどの岩を抱えて深い闇に落ちてゆく。

 体はくの字に折れ曲がり、明らかに、どうしようもなく、落ちていくしかない状況の中、口元が緩む。

 そして彼は、岩の心地いい重さを感じる今の状況を、なんの恐怖もなくひたすらにこの状況を、客観的に観察していた。


 ただ、観察していた。


 彼は、左手を上にかざしながら思う。


 ーーいつからだろう 欲にまみれたように盛んだったろう街並みを見飽きたのは。



 ーーいつからだろう そんな街中で好き放題に過ごすのをやめたのは。



 ーーいつからだろう 荒廃した世界を歩きまわろうと思ったのは。



 ーーいつからだろう いつからだろう いつからだろう いつからだろう いつからだろう いつからだろう いつからだろういつからだろういつからだろういつからだろういつからだろういつからだろういつからだろういつからだろういつからだろういつからだろういつからだろういつからだろういつからーーーーー




 目の前に



                   口が






          あr





ははっ







 イヒ



 目が覚めた。何回目の目覚めだろうか。

 うつ伏せの状態からパチリと目を開け、今の天気を把握しようと瞳を右にずらす。それを確認する行為自体無意識に行っていた。今が晴れていることに特にリアクションもせず、再び目をゆっくりと閉じる。

 意識を手放す間際、昼夜関係なく寝て起きる、その繰り返しに意味を見つけようとしてみるが、すぐにそんな無駄な思考を放棄した。




 ♪



 今は無きN国。

 とは云うものの、国という概念がこの世界にあったのは遥か昔。


 人間、名は目繰。外套に身を包む黒髪黒目、平均より少し高めの身長のどこにでもいる人間。


 目繰は重い腰を上げて外套についた大量の砂をパンパンと前屈みになりながら、濡れた手のひらで払う。


「あぁもう、毎回毎回めんどくせぇな」


 日課のようになっている悪態をつきながら



 ブルブルブルブルブルブル



「よし!今日も戌年いぬどしだな!わんわん!」



 今日もわんこの気分で、進み続けるのである。







『※※※※※ カ※レオ※

 なりきる。染まる。※きるぐらいの※を※み※けたその※。自分の頭の中のイメージでなりきる。いつだって※※は※り※って※※※った。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る