1人殺す毎に2億円支払うアプリ~既に借金108兆円に到達したから今月中は怖いもの知らず ……はぁ、死にたくないなぁ~

すけだい

人を殺さば億2つ


 僕――盆野片間――は苛立っていました。

 僕は1000円カットをしてもらったのですが、そこの店員の態度が悪かったのです。タメ口だし、頭にフケがあると何回もしつこく洗髪を勧めてくるのです。僕は洗髪をしたと言ったのですが聞く耳持たずに自分の意見を押し通してくるのです。

 こんな店には一生来てやるものかと思い、アンケートに文句を書きたい気持ちでした。しかし、その店が入店しているショッピングモールに前まであったはずのアンケート記入場所が見当たらなかったのです。僕はさらにイライラしました。

 僕は休憩所の長椅子に座りながらスマホを手に取りました。その画面にはあるアプリがインストールされており、そのアプリを操作しているのでした。僕はその操作をやめてスマホをポケットに直し、ぼんやりと人の流れを眺めていました。

 数分の休憩の後に電化製品店に行ってコピー用紙500枚を320円で買いました。その前に百均で探したら100枚入り100円があったので、お得な気分でした。クリアホルダー12枚入り100円を見て、前に10枚入り100円を買ったことを思い出して損した気分になりました。

 そんな僕がショッピングモールから出ようとしたとき、1000円カット店のほうがざわついているのを遠くから確認しました。僕もやじうまのの一員として何が起きたのかを近くから確認しようとします。どうも聞こえてきた情報から察するに、先ほど盆野に対して接客していた態度の悪い店員が急に頭が真っ二つに切れて死んだのです。

 周りの人たちが言うことに、あまりに急のことに驚いたとか、これは例の事件の1つではないかとか、あの店員嫌いだったから死んで良かったとか、いろいろでした。そんな群衆の中、僕は静かにほくそ笑んで離れていきました。明るく照らされたショッピングモールの中を1人暗い顔で進みます。

「はっ、カスが1人いなくなっただけさ!」

 この事件の犯人は僕でした。殺害方法は、専門アプリでした。そのアプリに書き込んだら人を殺すことができるのです。

 ネットに誹謗中傷を書いてその人を死に追いやる出来事がありますが、その過程をすっとばして即殺すのがこのアプリです。名前や顔が正確に分かったほうが確実に殺すことができるのですが、なくても殺すことができます。しかし、情報が不確かな場合は別の人を誤って殺してしまうことがあるので要注意です。

 また、このアプリの特徴として、1人殺すごとに日本人の生涯年収と同額の2億円の支払いが起こることがあります。金持ちでなければ即借金地獄になるのです。そして、その支払いが無理だと判断されたら自分が死んで地獄送りになるので、要注意です。

 僕は既に108兆円の支払いを命じられています。今月までに支払わないと死ぬのは確実です。しかし、そんなことは一般家庭の彼にはどうしても無理なので、僕ははっちゃけて踏み倒そうと思ったのです。

 今は10月20日、今月最後の10月31日まで残り11日、僕、盆野片間はどこまでムカつく人を殺せるかを考えていました。彼はその気になったら人類滅亡も辞さないつもりですし、破滅主義として死が日々近づく自分に酔ってもいました。しかし、覚悟した死を恐れて夜に泣いているのも事実でした。



 翌日10月21日。

 バイト先には嫌な奴がいました。

 やつは上には媚を売り、下には厳しいタイプでした。怒る時にグワッと圧がある怒鳴り方をしていびってくるのです。その割には仕事ができないタイプの人間で、あまり仕事ができないアルバイターである僕から見てもそいつは仕事ができなかったのです。

 僕は脱出ゲームの進行のバイトをしているのですが、そいつは言われたことが全くできないのです。僕よりも昔からいるのに、僕より仕事を覚えていないのです。今だに最後のお見送りの時に「ありがとうございましたー!」というのを忘れてしまうのです。

 それでもそのボケは重宝されていました。理由は、上司に媚を売っているからです。上司に対してイエスマンであったり、バイト仲間の陰口を伝えたり、嘘の悪評を流したりして取り入っているのです。そいつが作った嘘の悪評によると、僕は上司の車のタイヤに唾をかけて蹴ったらしいです。

 そのボケはある日、控え室の掃除を始めました。そういうことは年末の大掃除の時だけするのに、そのボケはなぜか年末出ない時に始めたのです。その理由を聞くと、汚いからだと言っていました。

 僕や他のバイト仲間はやらなくてもいいと止めたのですが、それでも頑なに掃除を続けました。僕たちは根負けしてほったらかしにしました。みんなはそのボケのことが嫌いだったから、関わりたくなかったのです。

 すると、上司が僕たちに怒鳴ってきたのです。上司から見たらお気に入りのボケが掃除しているのに、どうしてほかの人はしないのかということでした。僕たちは説明をしたのですが聞き入られることなく、大掃除以外でも毎日掃除することに勝手になりました。

 そういうふうに、そのボケが良かれと思って勝手にやったことが勝手に仕事になって面倒くさいことになるのです。そんなことを知らずにそのボケは上司にお茶を入れるようになっていました。僕たちは、そんなことをしたら自分たちもお茶入をしないといけなくなるので止めたのですが、きかん坊でした。

 僕たちは上司から怒鳴られて、お茶入れをするようになりました。そのボケは僕たちに対して、窓の拭き方がなっていないだとかお茶っ葉を買ってこいだとか偉そうに怒鳴ってくるのです。僕はゲンナリとなり、そのバイトが嫌になっていました。

 このアプリで殺そうと何回も思いましたが、僕はそれをやめていました。その理由として、入った初日にコンビニ弁当をおごってくれたからです。周りが新人の僕に遠慮して近づけないので孤立していたから嬉しかったのです。

 そう思っている暗い帰り道、そのボケがコンビニで1人で立ち読みしているのを見つけました。僕は気づかれないようにコンビニに入り様子を見ました。そのボケは次のようにつぶやいていました。

「明日、新しいバイトが入ると言っていたな。弁当で餌付けするか」

 僕はその言葉を聞いた瞬間、スマホに手を伸ばし、コンビニから外に出ました。僕が去った後のコンビニでは悲鳴があがり、数分後には救急車が呼ばれたようです。僕は自分の愚かさを呪いながら、借金を踏み倒す気マンマンです。



 翌日10月22日。

高校に行きました。

 同じクラスにはみんなに好かれているけど僕が嫌っている人がいました。彼は男前で勉強ができて運動ができて面白くていい人です。ただ、僕は彼に嫌いと言われました。

 これに関しては僕が悪いのです。僕はコミュニケーション能力がなくて、話しかけられても無視してしまうようなダメ人間なのです。だから、掃除とかで2人行動になった時に別の第3者を連れてきて僕の悪口を言うのは当たり前なのです。

 僕は彼を殺そうかと思ったことはあります。僕は彼のことが嫌いです。しかし、自分が悪いことをした影響で自分が悪い目に遭っているだけなので、自業自得なので、それで人を殺すほど僕は落ちぶれていないつもりです。

 今の僕はアプリで大量の人を殺した極悪人です。その時の支払いをできないことを分かりながら殺し続けて、支払いを踏み倒そうとするクズ人間です。それでも僕は、自分が嫌いというだけで彼を殺すことができない善人です。

 その昼、僕のことを嫌っている人の取り巻きの1人が僕に話しかけてきました。僕は罰ゲームの一環だと思いました。僕のような仲間はずれの人に話しかけて面白がるという、度胸試しと小馬鹿にすることが同居した遊びです。

 僕は適当に合わせていたが、どうも様子が違う。普通なら、1・2回の会話のラリーをすると仲良しグループに戻り、こちらを見ながらクスクス笑うものです。しかし、いつまで経っても戻りません。

 僕は空気を読まずに「いつになったら友達のところに戻るのですか?」と訊きました。ちなみに僕は同級生相手でも敬語で話すという距離感を感じる接し方をします。周りの人間と距離感があるからこの話し方なのか、この話し方だから周りの人間と距離感があるのか、鶏が先は卵が先か問題に陥っていました。

 そんな問題はともかく、その取り巻きの1人は困ったように笑いながら「友達じゃないよ」と怒っていました。おそらく喧嘩したのでしょう。それで仲間はずれの僕のところに避難してきたのでしょう。

 僕は話し相手ができるのならそれでもいいかと思いました。そこに、僕のことを嫌っている人が来て、取り巻きに謝っていました。それを期に、取り巻きは僕から離れて取り巻き生活に戻るために離れていきました。

僕のことを嫌っている人は人ができているので、自分に非があると思ったらきちんと謝ることができるのです。取り巻きからするならば、仲直りしたら取り巻きに戻るのは普通のことです。僕はとんだピエロでした。

放課後、僕はその取り巻きをアプリで消しました。



 10月23日

 僕は周りから怪しまれていた。親から、近所の人から、学校の人から怪しまれていた。僕の周りで人が次から次へといなくなったからだ。

 人を殺すアプリの存在は噂として知られていた。このアプリ、実はなかなか見つからない都市伝説のものらしいです。僕はなんとなくいじっていたら簡単に見つけて面白半分にインスロールしたので、噂のような珍しさは感じなかった。

 そのアプリの存在は噂程度で確信が持てない、しかし僕の周りで起きている不自然な人の死はそのアプリでないと説明が効かない、その2つの間に揺られて半信半疑の周りの人達でした。僕にそれとなく「〇〇さんが亡くなったらしいね」とか「噂では人を殺すアプリがあるらしいよ」とか「あの先生、生徒に手を出したらしいよ」とか伝えてきたり聞こえるように大きな独り言をします。

 それらを聞いても僕に何も反応を示しません。それは、相手が反応を伺っていると理解して罠にハマらないようにするため……ではなく、昔から僕は反応を示さない愛想のない人間だったのです。人はそんな僕を見て「冷静だ」と勝手に判断するが、内心ガクブルに震えています。

 周りから怪しまれていること、アプリで人を殺していること、アプリで発生した借金に本当は怯えていること、それらが僕の心を傷つけます。

 本来の僕は恥ずかしがり屋の小心者だったので、周りから怪しまれることは苦手でした。その結果、人と交流することがなくなり、感情と口数がなくなり、冷静な人間というレッテルを貼られるようになったのです。

 本来の僕はゲームのキャラクターが死ぬのが嫌なくらい殺すのが苦手でした。アプリでの人殺しも肝を冷やしながら実行していました。いつも心のどこかで殺さない理由を探してしまいますが、そういう良心の呵責に苛まされますが、結局殺します。

 本来の僕は金の貸し借りなど全くしない、学校で忘れ物を借りる根性もないくらい小心者であり、金を借りることが苦手でした。借金があまりにも増えすぎて変に気分が高揚したというか、現実逃避したというか、本当は踏み倒す根性もなくてどうしたらいいのか分からず泣き寝入りしている心情です。でも僕は人見知りで人に相談できない性分ですし、人殺しをしているという後ろめたさがありますので、心を痛めながらも墓場まで秘密で通すつもりです。

 そんな僕の唯一の気休めというか罪滅ぼしというか嫌な事を忘れる手段が、テレビとかで報道された確実なる悪人をアプリで殺すことです。ゲームのキャラクターが死ぬことすら怖がる僕がアプリの人殺しで安息するのは自分でも不思議です。昔の野球選手が痛めた肩を克服するために鉄球を投げた激痛で感覚を麻痺させた逸話を思い出して、それと似たものだと納得しながらアプリのボタンを押しました。



 10月24日

 アプリの取立て人というか、死神が来ました。ステレオタイプ的なドクロのお面に黒いローブに大鎌だった。僕は人に会うのは苦手で嫌でしたが、外部の知らない人はもっと苦手で、さらに死神はもっと地獄でした。

 学校帰りにいきなり僕の部屋にヌルッと現れて、僕はあまりの恐怖に声が出なかった。本当に怖い時には声が出ないものだと理解しました。その死神は宙に浮きながら滑るように僕の前まで近づいてきました。

 死神いわく、借金が多すぎるからきちんと払えるのかの確認に来たらしい。今更来るのは遅すぎるだろと思いました。僕は正直に「払えない」と言ったら、「そうだと思いました」と返されたので、特に珍しいことではないと理解した。

 死神いわく、僕のように人を殺すだけ殺してお金を払わない人は過去に何人もいたらしいです。というか、アプリで人殺しをした人の中できちんとお金を払えた人のほうが珍しかったらしいです。僕は自分が普通の思考だったことに安心を覚えるとともに、特別な人間でない残念さも感じました。

 死神いわく、このアプリを利用して人殺しをしただけでやばい人らしいです。普通の人のところにはこのアプリは表示されないし、表示されたとしてもアプリ利用をしない人が多いらしいです。割合としては、アプリが届くのは1/1000以下で、そこからアプリ利用するのが1/1000以下で、全体で見ると百万人に一人以下の割合らしいです。

 僕がその割合が多いような少ないようなと勘定していると、死神はここに来た理由を述べました。僕のような利用するだけ利用してお金を踏み倒そうとするものは、死神になる必要があるということです。どうしてそんなことをしなければならないのかと尋ねたら、規約の中に書いてあると述べられた。

 僕はスマホをスクロールして規約のところをよく見たら、たしかに中盤にそういう旨のことが書いてありました……普通こんなものをきちんと読まないぞ。しかし、書いてあるのなら仕方がないと思いました。そして、その死神がどういうものなのかの説明を受けた。

 説明によると、霊体になってアプリに指示された人を殺しに行くようです。自分自身が死ぬわけではなく、その時だけ霊体になるバイトみたいなものらしいです。しかし、お金は支払われないタダ働きとのことです。

 そこまで聞いて僕はある疑問を持ちました。僕の目の前の死神も生きた人間が一時的に霊体になっているだけではないかと。それを訊くと「正解です」と言われました。

 その死神装束は一種の正装として着させられているだけであり、身元を隠す仕様になっているようです。「どうして身元を隠すのか?」と訊くと、「死神アプリを持っている人に殺されないようにするためです」と返されました。なるほどな、と思った。

 僕は今月が終わったら死神になることを誓った。書面にサインをするとき、死神のお面を奪った。死神の印象のない顔を見て、アプリのボタンを押した。

 その死神を殺しました。



 10月25日

 死神を代行させられた。理由は、僕が自分のところに来た死神を殺してしまったからです。まだ今月が終わっていないので、正式な死神にはなれないとのことです。

 昨日、僕は衝動的に死神をアプリで殺してしまいました。その時に死神を殺す死神が来て、同じ説明と新たな注意をされました。死神を殺すなんて、なかなかないことらしいですが、初めてではないらしいです。

 死神をアプリで殺すのは利用者のなかで1/1000以下の割合らしく、一般人全体から見て10億人に一人以下の割合らしいです……すごくない?

 ある意味選ばれた人間になった僕は、死神代行として、アプリで殺して欲しいと言われた人を殺しに行くのです。死神代行といっても、監督者として本物の死神が同行してくれているだけで、やることは変わらない。死神専用のアプリで霊体になり、死神装束を着て、大鎌で魂を刈るだけだ。

 大鎌で刈るといっても首を狙うなどする必要はなく、相手の体に鎌を透かせればいいだけです。大鎌も霊体だから普通の人には見えないし当たらないのです。だから、人は知らず知らずに死神に大鎌で殺されているのです。

 大鎌と体の接触は起爆スイッチみたいなもので、それだけで人を殺すことができます。その殺し方はアプリ利用者がオプションで指定できるが、別途料金で大枚が飛ぶので僕は利用したことがありませんでした。すでに大量の借金があるのにその誤差の範囲のお金でビビるのは僕の小心者ぶりが表れています。

 さて、今回アプリで僕に殺害依頼をしたものは、僕のバイト先の上司でした。その上司は、自分の上司を殺そうとしていました。僕から見たら偉そうにいびり散らしていたその人も、さらに上の人から電話でガンガン怒られて電話越しに頭をペコペコしていました。

 僕はその上司も好きではなかったのでアプリで殺す候補に入れていましたが、そのさらなる上司にいびられている様子を見て、殺さなくてよかったと思いました。さて、依頼通りそのさらなる上司を殺しました。実際にこの手で人殺ししたら良心の呵責に苛まされるなどの心境の変化が起こるかと思いましたが、「なんだ、こんなものか」となんとも思いませんでした。



 10月26日

 今日から本格的に始まった死神代行で忙しい。

 アプリ使って人殺しする人が多すぎる。思ったよりこのアプリの利用者は多いんです。説明では一般人の中の百万分の一しか使っていないはずなのにです。

 百万分の一……一億人換算だと100人……77億人換算だと7700人……そう考えると多いです。しかも、その中には僕のような大量殺人要求者がいるのだから、仕方ないでしょう。

 何事もそうでしょうが、最初の数回は新鮮でしたが、10回したら飽きてきました。朝から始めたが、昼前に飽きてきました。授業中に居眠りして霊魂だけ活動しますが、寝るだけの方がいいような気がしました。

 初めは授業中に寝るフリして霊魂だけ出して人殺しするなんて心臓バクバクで死にそうでしたが、数時間で飽きました。僕はもうさっさと辞めたいと思っていました。でも、よく考えたら来月からは正式な死神となり半永久的にこれを続けていくのです。今更ながらとんでもないことをしてしまったものである。

 ……

 僕は人殺し先で、同行の死神を殺しました。不意を突いて大鎌で殺すことができました。この大鎌は死神相手にも通じるらしいです……まぁ、殺人アプリで死神を殺せたのだから当然です。

 僕の仕事用ケータイが鳴り響きます。次の仕事の連絡でしょう。しかし、仕事をしたくない僕は電話に出ませんでした。

 すぐに同行してくれた死神のケータイが鳴り響きました。僕がケータイに出なかったから、代わりの連絡が行ったのでしょう。しかし、屍にはケータイに出る力はありません。

 その鳴り響くケータイの音を後にして、僕は仕事用ケータイを投げ捨てて、その場を去った。もうこんな仕事をするのは嫌だ。僕は追いかけてくる死神から逃げる心づもりですし、その気になったら大鎌で返り討ちにすることも厭わないつもりです。

 僕は絶対に逃げ切るつもりです。



 10月27日

 僕は死神に捕まっていました。

 昨日のあの後すぐに、霊体ではなく本体の方に大量の死神が来ていました。本体が持っていたケータイから居場所は直ぐにわかったようです。僕は強制的に霊体を元の体に戻されて、普通の人から見えない死神たちに囲まれて引きつった顔で授業を受けていたのです。

 学校終わりに、僕は死神たちに幽閉されました。大鎌をちらつかされながら、殺されたくなかったら言う事を聞けと言わんばかりの無言の威圧を感じました。僕は電車に揺られながら、知らないところに足を運びました。

 人気のない倉庫に入れられました。周りの死神が見えない普通の人から見たら、自分から入っていく不審者です。

 そこで僕は倉庫から溢れそうなくらいの大量の死神に囲まれていました。普通の人から見たら、一人でポツリといるだけの悲しい人です。

 僕は死神たちと質疑応答をしていました。普通の人から見たら一人でボソボソつぶやいているヤバイ人です。

 僕はどうやら殺されるようです。僕がやった非人道的かつ非死神的な行動が目に余るからのようです。明日の正午に死刑執行されるらしいです。

……

 僕は自分のアプリでの借金を思い出す。明日の死刑執行がなくても結局は数日後に死んでしまう。僕はさっきまで調子に乗っていたのに、ここに来て死にたくない。すごく逃げたいが、逃げたらほかの死神に追われて捕まるだけです。

 捕まっている間も、死にたくないと僕は震えます。そもそも、死んだらどうなるのだろうか? 本来なら死神になる予定だったが、それがなくなった今、どうなるのだろうか?

 僕は死神に聞きました。しかし、誰も答えてくれませんでした。もしかしたら誰も知らないのかもしれません。

 僕は死んだあとのことを考えて寝ることができずに泣いてしまった幼少期を思い出しました。そのときは一緒に寝ていた両親にあやしてもらった記憶があります。今は泣きたくても泣けない気分ですしあやしてくれる人もいません。

 こういう時は宗教というか、死後の世界を信じる人は救われるのだろうと思いました。しかし、僕はそれを信じません。だから、まぁ、内心ガクブルなんです。

 僕は死にたくないから警察に通報することも考えました。しかし、死神がどうとかというこんな絵空事を信じるわけがないだろう。いや、死神アプリのことは眉唾物とはいえ噂になっていたから、あるいは……

 通報してうまくいったら、このアプリは違法だと検査が入る。しかし、立証まで時間がかかる。その間に僕は死んでしまう。

 そもそも、人殺ししたからダメだろう。結局僕は死神から救われても、人殺しの件で法に罰せられるだろう。どちらにしても詰んでいます。

 僕はアプリを見た。まだ使える。そうだ、自分を殺すことができないとは書いていなかったな……


 10月28日


 死神になった僕は自分の死体を眺めていました。

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1人殺す毎に2億円支払うアプリ~既に借金108兆円に到達したから今月中は怖いもの知らず ……はぁ、死にたくないなぁ~ すけだい @sukedai

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