第29話「続、無礼なやつら」(追放サイド)
ギィィィィイイイ……。
重厚な音を立て豪奢な扉が開いていく。
その扉が開ききったのを確認した後、たっぷり3秒間時間を置き、カーラは入室した。
しゃなり、しゃなり、と上品に歩くカーラ。
ふかふかの絨毯は超高級で足音一つしない。
そして、この高貴な空間にあっては冒険者ごときなら平伏してしかるべき──……
って、
「…………………あ゛?」
だが、カーラが目にしたものは果たして。
そして、彼女が室内に入って開口一番────。
「な、何、こいつ等……」
ギャハハハハハハハハ!
うひゃはははははははは!
入室してきたカーラのほうを見ようともしないばかりか、粗野な雰囲気の冒険者風の男女がゲラゲラと笑い転げている。
しかも………………なんか、めっちゃくつろいでるし。
「おいおい! なんだよ、この絨毯?! 役所にしては金掛けすぎだろぉ?! 税金の無駄、ゼーキンのぉ!」
ギャハハハハハハハハハハ!
「カッシュ、カッシュ! 見てみてー。この蝋燭……蜜蝋だよ?! ねね、貰っていいよね? 貰っちゃうおーよー」
きゃはははははははははは!
「下品ですよ、メリッサさん。備品は持ち出しちゃだめですよー。この茶菓子ならいくらでもどーぞ。あーうま!!」
ウヒャハハハハハハハハハ!
「いいじゃねーか。俺たちは貴重な情報提供者様だぜ? 蝋燭の一本や二本、かまやしねーよ。俺はこの銀の燭台をかっぱらってやったぜ、ギヒヒヒヒ」
ヒャーハッハッハッハッハ!
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!
げひひひひひひひひひひひひ!
「あー…………部屋間違った? ここって、動物園よね?」
「いえ、ここです。あってます」
シレっと答えるビビアンに、引きつった笑みを返すカーラ。
そのまま、ギギギギギギギ、と首の油の切れた人形のようにゆっくりカッシュ達を振り向く──。
「えーっと……」
……一言でいってチンピラ。
それも最低クラスのクズ。
「ホントこいつ等? なんか臭いんだけど」
「いえす。臭いのは同感です」
鼻をつまみながらコクリと頷くビビアン。
部屋に漂う獣集に、下卑た笑い声───……。
そしてなにより、カーラが入室してきてもチラリとも視線を向けない無礼者ども──。
そう。
そんな連中が王宮の豪華な応接間で馬鹿笑いをしてのだ。
ギャ~~ッハッハッハッハハハ!
うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!
あろうことか、王族を目の前にしてめっちゃくつろいだ態勢で───。
「あー…………」
二の句が継げなくなっているカーラの目の前で、
「ギャハハハハハハハハ! おい、メリッサ、それくれよ」
「やーよー。あ、おいしー!」
ボリボリ、バリバリ。
「おや、ルークさん、こっちのチートスいけますよ」
「お、いいじゃねーか。ムッチャムッチャ」
クッチャクッチャ。
「えー…………」
せめて、口を閉じて食え。
さっそく、ぴくぴくと口角が引きつるのを感じるカーラではあったが、
「……み、皆様、大変長らくお待たせしました。
鋼鉄の自制心を発揮してにこやかな笑みを浮かべた。
だが、
「あー……まったく、茶の一つも出さねぇで、待遇わりぃよなー」
「ほんっとよ、こっちは貴重な情報提供者だってのに」
「まぁまぁ、もう少しの辛抱ですよ。ゲイルの情報を売るだけで金一封。有力な情報なら更に高額が見込めるっていうんですから」
「ぎゃはははははは! 楽勝過ぎて笑いが止まらねーなー」
ひゃーっはっはっはは!
いーっひひひっひひ!!
近衛兵たちに入場を告げられていたというのに、こっちも見もしない。
それどころか、完全に無視して茶菓子をカッ食らっている。
本来、客人様に準備されているもので、別にいいっちゃいいんだけどね───……。
「……あーーーーー。ビビアンさんや、こいつ等殺してもいいんだっけ~?」
語尾が震えるカーラ。相当来てます──。
「いいですけど、まずは話を」
ほっほ~う……。
こいつ等から話を聞けとな?
この生まれついての無礼者どもから、王国が息女──カーラ・ド・グルカンが?!
「いえす────ブフッ」
をい。
「お前、今笑っただろ?」
「笑ってません……!」
シレっと目をそらすビビアン。
「……おい、目ぇ見て話せや」
「ヤです」
露骨に目をそらすビビアンにカーラは青筋を立てながらも、王族のド根性をフル動員して笑顔を作る。
「ち……」──後で覚えとけよ、マジで。
っひっひふー。
ひっひふ~~。
うん、落ち着いた。
コホンっ……。
すぅ──。
「み、みなさ~~~~~ん♪ カーラで~~す。ご注目くださいませぇ」
カーラは王族のプライドを捨て、にこやかに──……。
「ブハッ!!」
吹き出すビビアン。必死で笑いをこらえているようで肩がプルプル震えている。
…………あとで、マジでぶっ殺す。
そう、殺意をフツフツと滾らせていたところに、クルリと振り返るリーダー格の男。
薄汚れた雰囲気のまま、よたりをつけてカーラを下から
「おぅぅ……! お~ぃ、ようやく来たか! おっせぇぇえええんだよー!!」
ペッ、と茶菓子の欠片を吐き出しつつ、冒険者の頭目であるカッシュがカーラに向き直った。
「そーよ!! 貴重な情報提供者をいつまで待たせる気よ!!」
ついでに調子に乗る
「…………
直後、ピキッ。とカーラの表情が凍る。
「あはははー……。私にむかって、随分なお口ですことー」
精一杯精一杯我慢して笑顔を作り、かな~~~~~~~り
ビキビキ!! と額に無数の青筋が浮いていく。
だが、そんなカーラの様子にカッシュ達が気付くはずもない。
「んっだ、てめぇ? 小娘が、何十分も待たせやがってよ~」
「そーだそーだ! 迷惑料はーらーえー!」
ビキビキビキビキッ!
王族相手に迷惑料と来ましたよ?!
「う、うふふの、うふふふ……。お、落ち着くのよ、カーラ。これはレタス。アレはカボチャ。こいつらは野菜だと思えばそんなに腹が立つことも──……」
仕方ないとばかりに笑顔を作って正面に向き直ると、
「え~~っと、カッシュさんでしたね?
「あ゛ぁ゛ん!?……カッシュ、さん───だぁ?!」
ダァン!!
目の前でふんぞり返っている剣士風の男。足を豪奢なテーブルにのっけて、限界までのけぞる。
「おうおうおうおう、もっぺんいってみろや、お~~~~ぅ?」
「は? え?」
───は??
……たしか、聖騎士のカッシュ・ビルボアだろう。
間違ったかな? とカーラは目を泳がせる。
「は、はい。カッシュ……さん。ですよね?」
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいお~~~~い。違う違う違う違う違~~~~う!」
「は? え? 何か……?」
ええ~?
……何か違ったのだろうか?
もしや、隣の盗賊風の男や魔法使い風の男のほうがカッシュだったのだろうか。
どうみても聖騎士という風貌ではないけれど……。
……う、う~ん??
カーラは事前情報を思い出しながら首を傾げる。
「これだからよー。おいお~い、俺らを誰だと思ってんだ? 木っ端役人よぉ~」
こ……。
こ────?!
木っ端??
「は、はぁぁあ? こ、木っ端、役人……? わ、
「ブフぅッ……!」
ジロッ!!
「しーん」
ビビアンさん。顔をそむけてますけど、絶対笑ってますよね?
「……笑ってません」
「嘘つけ」
って、
「おいおい、どっち向いてんだ? あ゛あ゛ん?!
ダァン!! さらに足をテーブルに置いて顎をそらして超上から目線でカーラを見るカッシュ。
「わかってんのか、あああんん?! こっちは貴重な情報提供者さまだぞ! そ・れ・に・よ」
チャリーン! と、テーブルに雑に投げられる何かの金属片。
そこには大きく「S」と刻まれているが、
「おうおう。目ん玉かっぽじって、よ~~~~く見ろッ。……俺たちはなぁ、S級冒険者・さ・ま、だぞ! あ?! わかってんのか? あ゛?!」
「は、はぁ……そうですねー」
「そ・う・で・す・ね、だ~~~~?! ばーーーか、だったら、カッシュ・さ・ま。だろ? あ?! 小娘の木っ端役人とは
「は、はぁ……。『小娘のぉ』『木っ端』ですかー」
──ほっほ~~~ぅ。
言うねぇ、カッシュさんとやらー。
(だんだん、楽しくなってきちゃったわー、あはは~)
……もはや怒りを通り越して、すぅーと顔から表情が消えるカーラさん。
人間、怒りの限界を超えるとこうなるんだなーと、ちょっと冷静に自分を見ているカーラがいたとかいなかったとか……。
「……んっだ。その顔はぁ! わかってねぇようだから、教育してやるぜ────ほら、『カッ・シュ・さ・ま』……ハイ復唱」
えー。いうのぉ?
「………………………カッシュサマー」
渋々。しれー、と棒読みになるカーラ
「ブフフッ……!」
それを見て、聞いて、体を苦の字に曲げで笑いをこらえているビビアン。
…………あとで、マジで覚えとけよ。
「あぁ~ん? 聞ッこえねぇなー。ハイやり直し」
パぁンッ!
「……かっしゅさまー」
──カーラの瞳からハイライトが消える。
「お、いいんじゃね? なんか、情報提供したくなってきたねー」
したくなってきたー♪
「いえい、いえぇ~い」
「やんややんや!」
「いいぞいいぞ~」
ひゅーひゅー♪ と、囃し立てるカッシュと愉快な仲間たち。
「はい、もう一度ー」
「「「は~い、もういっかい♪♪」」」
ぱぁん♪
パァン♪
「カッシュ様っぁぁんー♪」
パァン♪ 「はぁい」
パァン♪ 「はぁい」
カッシュの仲間たちもノリノリで柏手を入れての盛り上げ、万歳!
……………………………カーラ、ニッコリ!
「はぁい」パァン♪
「はぁい」パァン♪
パァン♪
パァン♪
パァン♪
「「「は~い、アンコーールぅ♪♪」」」
アンコールぅ!
「カッシュ様~♪♪」
いえーーーーーーーい!!
パチパチパチパチパチ!
「おーおー、よく言えました~♪」
「「「言・え・ま・し・た、にぇ! ぎゃ~ははははははは」」」
カッシュ達もニコニコ。ニヤニヤ。……ゲラゲラゲラゲラ!!
もちろんビビアン、ニッコリ。
近衛兵たちもフルフェイスの奥で、ニッッッ~~~~コリ。
みんなニコニコ平和なひと時…………………………。
───だぁん!
そこに、テーブルの上に両足をのせていたカッシュが、ついにテーブルの上に立ち上がり、両ポケットに手を突っ込んでは、偉そうにカーラを見下ろした。
「……いいね、いいねぇ~! よーく、わかって来たじゃねーか! おぅ?!」
「…………………………えぇ、よ~~~く
ニコッ。
「クケケケ。それでいいんだよ! 俺はなぁ、この町の冒険者のトップだ!! そして、そのカッシュ様率いる『
「はー……
ほっほ~~ぅ。
「おーよ! 王様や王女様くらいなら、まぁ、膝ついて話してやってもいいけどよー。王国府の木っ端役人相手なら───ま、話ができるだけでもありがたく思いな」
そういって、ピンッ、と王国府が出している告知書をテーブルに放り投げた。
「……ほら、この告知書の有力情報持ってきてやったぜ! まずは、礼を言ってもらおうか」
───ダァン!!
テーブルの上を悠々と歩き、カーラの前に立つとヌゥォォオンと見下ろし、足で告知書を蹴り寄越す。
「おらぁぁ! さっさと金一封と謝礼をよこせぇ!
ふんぞり返りのピーク!!
カッシュさん的には、きんもちぃぃぃいいいいい♪ 瞬間だ。
ま……。その、ね。
「あーそー……」
クルクルと横回転する告知書が、テーブルの上を滑りカーラの前まで。
それをトン! と指先で止めると、
「ん~~っとぉ、」
ガラリと空気を変えたカーラは、
「…………あのさぁー。カッ・シュ・さ・ん・さぁー」
両手指を組んで、その上に顎のせると、上品に笑っていう。
「だーーーかーーーーーらーーーーーー! カッシュ様だっつってんだろうが!!」
「カッ・シュ・
わざと「さん」を強調してにこやかに言うカーラ。
目は…………まったく笑っていない。
「だから、この小娘の木っ端役人がぁ!! カッシュ様だっ!……つってん──────」
…………こほん。
「カッシュさん。……そういえば、まだ名乗ってませんでしたね──……」
「あ? 名前だぁ?!」
カッシュが余計なことを言おうとするのを手で制して口を開くカーラは、
「──────
そっ、と席をたったカーラは一歩引き、スカートの端をもって
パチンッと指を弾く。
すると──。
「……だから、木っ端役人の名前なんざ──」
ザッザッザ!
──ドンッッッ!
「「「
ガチャキッ!!
「ひぇ?!」
「ひょぇ?!」
驚くカッシュ達をしり目に、カーラが合図すると同時に近衛兵たちが抜刀! 旗手はカーラ姫、その背後にたち───バサァ!! と室内用の短旗を捧げ持った。
儀礼用栄誉隊列───旗手中央
それは王国の紋章を象っており、ちょうど背後には室内の肖像画が掲げられていた。
ついで、ガシャ!! と、近衛兵たちがワザとらしく剣の切っ先をぶつけて強調した先には、王族の肖像画がズラリ───。
「な、ななななんあななに? なんなの?!」
「び、びびびびい、ビックリした~?!」
「……栄誉礼? っていうか、あの顔どこかで───」
「お、おい。あれ…………もしかして」
タラリと冷や汗を流したルークとノーリスが壁の肖像画を指さす。
その中の一つ。
美貌の王女の御尊顔が……ががががががが。
「え?」
「あ?」
「う?」
「お?」
ポカーンとした4バカの前には優雅に一礼したカーラの姿があった。
「──……カーラ・ド・グルカンと申します。以後お見知りおきを」
ニコッ。
きれいな笑顔にあいまいに頷くカッシュ達であったが───。
ごくり。
やけに大きくのどが鳴り、カッシュが何か言おうとして口を開くも───。
しーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
カ、
「…………か、カーラ……しゃん?」
「いえす」
静かに頷くカーラに、ブルリと震えるカッシュ。
その後、つつー……とさり気なく一歩下がる。
「お、王女さ・んの……──い、いえ! 王女
「おふこーす」
瞑目し、そうだと首肯するカーラ。
それを見るまでもなく、そ~っと、テーブルから降りるカッシュ。
「こ、この国の──……?」
「一応、王女してまッす」
そーっと膝をつくカッシュ。
上目遣いでカーラの様子を窺いつつ、
「か、かかかか、カッシュ・ビルボアと、もう、もももも、申します……!」
「………………ヨロシク、にぇ?」
クリリと眼を見開いたまま、ニコリと首を傾げるようにカッシュを見つめると、
すー……と、自然な動作で首を垂れるカッシュは顔面蒼白。
「あーう……え~……ほ、本日はお日柄もよく」
……んふ♪
「…………YOUたち曰く、
よーーーろーーーしーーーくーーーニェ?
ニッコォォォオ……!
指の上に乗せた顎が限界まで傾げられて、邪悪にほほ笑む。
その笑みを見た瞬間、カッシュ達がピシりと凍り付き、油の切れた人形のように、ギギギギギと、仲間全員が部屋を見渡す。
周囲は、完全武装の近衛兵だらけ。
逃げ場なんてねーーーーー。
ギギギギギギギ
す、
「す?」
「「「「すんまっせんしたぁっぁあああああああ!!」」」」
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