第28話「無礼なやつら」(追放サイド)

「で、こいつらは何者なの?」



 カッカッカッとヒールの音もカン高く、ビビアンを従えたカーラ姫は王城を行く。

 向かう先は部外用の応接室。


 手には、クリップボードにまとめられた羊皮紙の書類が数枚。


「ハッ。冒険者です。連中の背後関係の調査は、ざっくり・・・・とではありますが確認済みです───こちらを」


 ビビアンが渡す追加の書類にサッと目を通すカーラ姫。

 授業をさぼったり、趣味の悪いインテリアを集めるだけのポンコツ王女かと思いきや、なかなか頭は切れるらしい。


「ふ~ん……」


 パラパラと書類をめくりつつ、歩みを止めることなく要点を目で追っていくカーラ。


「…………カッシュ。カッシュ・ビルボア───冒険者ギルド所属【聖騎士ホーリーナイト】、ね」

「はい。なかなかの腕前を持つ男のようです。他に3名の仲間がおり、彼らは数日前にS級に昇任を果たしております」


 へぇ……。

 S級ねー。


「S級がどれほどかはよくわからないけど。またガセネタじゃないのー?」


 カーラにはS級がどれほどすごいのかいまいちピンと来てはいなかったが、名称の仰々しさからそこそこのランクであると当たりを付けていた。


「調査済みです。……確かに数日前まで、連中は姫様の言う人相の男と行動を共にしていたという、証言があります」

「ほんとぉ?」


 カーラは懐疑的だ。


 いくらギルドで高名な冒険者だからと言って平民には違いない。

 信用するにはいささか材料に乏しい───。


「で、なに? そのS級?ってのは、すごいの?」

「…………さて。大半の冒険者は乞食と変わりませんよ」


 こ、

「……こ、乞食って───アンタくっち悪ッ!」


 興味なさげなビビアンにカーラも呆れ顔。


「まぁ。S級などの一部の冒険者なら多少は───といったところでしょうか。所詮は騎士にも王宮魔術師にもなれなかったゴロツキ集団ですよ」


 ペッと反吐でも吐き掛けんばかりのビビアンにカーラはジト目を向ける。


「アンタ、冒険者に恨みでもあんの?」

「別に?……まぁ、そのあたりは、一度お会いしたほうが分かるかと思います」


 ん~??


「??…………まぁ、もとよりそのつもりだけど──って、」


 カーラ姫は首をかしげながら、書類の束をビビアンに返すと、一度居住まいを正して面会室の前に立つ。

 いつの間にか、情報提供者であるカッシュたちが待つという部屋の前に来ていた。

 ──いたのだが……。


 ガガガガガガガガン!!


 突如、軍靴を打ち鳴らす音に廊下が包まれる。


「へ? え? へ?」

「カーラ殿下にぃぃぃぃいい────」


 カーラが到着したとみるや否や、怒号も朗々と声を上げる下士官が出迎える。

 そのわきには、完全武装の兵士たちが待ち構えているではないか!


「ちょ、ちょちょ、なになになに?!……こわっ!!」

「──敬礼ッ!!」


 バババババババババッ!


 息の合った敬礼を受けてドン引くカーラ。

 儀礼ならともかく、城内で、しかも応接室の前で受ける態勢ではない……。


「ちょ……! なに?! なんなの?!」


 しかも、その護衛の兵たちは完全武装で、

 さらには、応接室の隣り合う部屋にも、いつでも突入できるように近衛クラスが10人も控えているという物騒な態勢だ。 


「ご苦労」

 と、ビビアンは全く動じず、兵たちに敬礼の手を下ろさせる。


 ガガガガガン!!


 すると、一斉に踵を打ち付け、腕を胸に掲げて最敬礼する近衛兵たち。そのまま直立不動────。


「怖ッ!! なんなのよ?! 怖いって!!」


 物々しいこと、この上ない……。


「………………いや。ちょっと、どういうことよ?」


 ジト目でビビアンを睨むカーラ姫。

 あまりの物々しさに少し腰が引けている。


「な、なんで城の中に。近衛騎士が一コ分隊が詰めてるのよ?」

「は?…………そりゃあ、アンタ──相手は腐ってもS級です。用心のためと考えてください」


 アンタって、おまッ!!


「先日の件、忘れたんですか? 城の中とはいえ油断できますまい。ましてや臭い冒険者ですぞ?」


 ──………………あーなるほど。

 暗殺者の一件はカーラにも堪えた。


(腐ってもS級か────……)


「そ、そう。……ま、まぁいいわ」


 先日も、帝国使者に化けた暗殺騒ぎがあったばかりだしね。

 冒険者なら更にザルだろう。


 少し大げさにも見えるが、相手に実力を勘案すれば納得できなくもない。

「……けど、アンタも同席しなさいよ」


「無論です。姫が仕事を丸投げ──────……コホン、ご下知ゆえ、最後まで見届けます」」


 ふふん、となぜか胸を張るビビアン。

 鎧の下からでもブルンと震える胸部装甲がすごい……。


「丸投げって……───おま、さっきから口の利き方ぁぁぁあ!!」


 コイツはすぐに調子に乗りやがる!!

 しかも、「おっと、テヘヘ」みたいなリアクション。


「むぐぐぐ……。アンタをぶん殴りたいッ」


 さすがにイラァと来たカーラであったが、近衛兵たちの眼前である。

 しかも彼らが扉を開け始めてしまったので、客人の前で無様を晒すこともできずに超高速で表情に微笑を浮かべた。


「こほんッ」



 ニッコォォオ!



「……お勤めご苦労様」

「はっ! 光栄であります」


 うん……王族たるもの、いついかなる時も表情くらい作れるというもの───。

 だけど、その情報提供者とやらに謁見前だというのに、さっそくモチベーションがガタ落ちだ。





 ……ビビアン。

「────てめぇ、後で覚えとけよ」


 じっとりとした視線をビビアンに向けるのを忘れない。




「んっん~! で、では、まずは面会してみましょう」

「……チッ」


 ビビアンが咳払いし、カーラは舌打ちすると、部屋の前についていた護衛兵が重々しく扉を開け、口上を述べる。



「カーラ様の、お成ーーーーーりーーーーーー!」



 ゴッゴゴゴン…………。

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