第27話「討伐証明はありまぁ~す!」

 カランカラ~ン♪


「はーい、冒険者ギルドにようこ、……そ?」


 夕方遅くに帰還したゲイルたちはまばらな人影の街を抜け、一路冒険者ギルドの戸を潜った。

 すると、奥からパタパタと駆けてくるダークエルフの少女の出迎えを受けたのだが、その直後に怪訝な顔で出迎えられる。


「え~っと、ゲイル様ご一考ですよね? 似ている他人とかじゃないですよね?」


「はぁぁあッ? ゲイルはともかく、アタシみたいな美人がそんなにホイホイいてたまりますか!!」

「いや、自分で美人とか言うなですしー」


 シテっと毒を吐くダークエルフと、

 自惚れのひど~いきょぬー支援術師。


 って、

「それが帰ってきた冒険者に言う言葉ぁ?!」


 ムッキーと、激高するモーラと、飄々ひょうひょうとしたギムリー。

 帰ってきて早々やかましいことこの上ない。


「いやいや、モーラ落ち着いて───」

「あー! そのセンスのない格好は間違いなく、ゲイルさんですね? おかえりなさ」



「───誰のセンスがないんじゃぁぁあああああ!!」


 ……この間0.5秒。



「ひゃああああ?! 沸点低ッ!!」


 激高するゲイルにギムリーがしりもちをつく。


「お、落ち着きなさいよゲイル」

「これがおちつけるか!! 俺のどこがセンス悪───」

「いや、そこはアタシも否定できない」


 く……!


「あぅー。ごめんなさい。てっきり数日はダンジョンに籠ると思っていたのですが、まさか一日で音を上げて帰ってくるとは思わなくて……」

「音をあげ───……いやいや、クリアしたからぁ!!」


「……あははー。寝言は寝て言えですぅ」


「「く……!」」


 このギルドマスター口悪いな?!


「クリアしたっつーの! ほら、ゲイル!」


 GOゲイル! GO!!


「え? あ、うん───」


 プリプリ怒るモーラに言われるままに、

 ギルドの閑散としたカウンターの上にドロップ品を並べていく。


「あーはいはい。そのへんのスケルトンでも狩って来たんでしょうけど、リッチはもっと───……え?」


 ゴン、


「ぶ、ブラックスケルトン?……いえ、だ、ダークスケルトンナイト?!」


 ゴンゴン!!


「ぐ、グールシュータぁあああ?!」


 ゴンゴン、ゴロロロロ──────……。


「わ、わ、わ」


 B級以上のモンスター素材がゴロゴロと、

 そして、見たこともない高位アンデッドの首までもが───。


「そ、そそそそ、それはぁぁああ! り、りりりり、りっ」


 リッチの首が……ひーふーみー……。え~??


「リッチは一体でいいんですぅ! っていうか、えええ? そんなにいたのぉ?!」


 カウンターの上に積みあがる討伐証明の数々。

 そして、素材素材、たまに副葬品!


「あとこれと、これと───」

「わ、わー、わーーーー! ストップ! ゲイルさん、ストップぅうう!!」


 ギュ~とゲイルの足にしがみつき、袋から取り出されるドロップ品の山を止める。


「わかりましたわかりましたー! 疑って御免なさい」

 素直にペコリと頭を下げるギムリーに、


「ふふん、どうよ」

 でっかい胸を張るモーラ。ブルルンと揺れる───お~……。


「って、なんでモーラが偉そうなんだよ?」

 狩ったのはゲイルだしね?


「す、すごいですー」

 はわわわ、と目を回すギムリーをみてしてやったりの、どや顔のモーラ。


「ふ、ファントムスウォーム霊魂群体に、ワイトまで……わ、こ、ここここ、これって───」


 カラーンと、冠付きの頭蓋骨がカウンターの上に。

 リッチの上位種──────アンデッドの王、


「そ、ソーサラー?!…………ですぅ?」

「いえす」


 ふふん、とモーラがのけぞり、胸がすごいことになってる。

 ボタンぱっつんぱっつんだよ?!


 ……っていうか。いやさ、だからなんでモーラが偉そうなんだよ。


「う~んと、これで全部かな? ひーふーみーの、リッチは合計3体いたよ。アンデッドの数は数百はくだらない数がいたから、かなりダンジョン化が進んでいたみたいだね」

「ひぇぇぇ……。リッチだけじゃないく。ま、まさかソーサラーが湧くほどのダンジョンだったなんて……」


 しゅ~んと縮こまったギムリーを見て、ゲイルの保護欲が掻き立てられる。

 思わず頭を撫でたくなるのを必死でこらえつつ、


「い、いや。大したことないですよ。墓所は俺の得意フィールドですし、たまには巡回にいきますよ。なははー」


 素材も取りたしいね、というゲイルの本音つき。


「ほ、ほんとですかぁ!? 嬉しいですー」


 ピョンピョン飛び跳ねゲイルに密着するギムリーに顔を赤くするゲイル。

 う、腕に何か柔らかいものが──────……あ、なんもないわ。


「ありますぅ!!」


 ピョンピョン!!

 「当ててんのよ」を地でやりたいギムリーだが、ないものはない……。


「あーるーのー!!」

「いや、ないわよ。って、離れなさいよ、こら!!」


 ギムリーの首根っこを掴んでゲイルから引き離すモーラ。

 プラーンとぶら下がり猫のように吊り下げられるギムリー。


「むぅ。ゲイルさんが失礼なこと考えてましたー」


「事実は事実よ。それより、アンタわかってるの? 「何がリッチの討伐」よ!……ギルドの情報が間違っていたのよ?! 少しでも状況が違えばアタシたちが全滅していてもおかしくはなかったんだからね!」


 ギルドの情報は非常に重要で繊細だ。

 当然、受け手である冒険者は損の情報を信頼してクエストに挑むのだから、いざ情報が全く違っていれば大ピンチに陥りかねない。


 炎系モンスター討伐の依頼を受けて「対策」していった先で、氷系モンスターしかいなかったら、どうなるか──お分かりいただけるだろう。


「す、すみません……。ウチは弱小ギルドで、あまり冒険者さんがいないんですぅ……。おかげで情報の精度はその───ゴニョゴニョ」


 耳をペターンと縮めたままギムリーが恐縮する。

 それを見て多少は留飲が下がったのか、ギムリーを解放するとモーラは不機嫌そうにそっぽを向く。


「……ま、まぁいいわ。今回はほとんどゲイルが狩ったようなものだしね。……今回の件は、ゲイルの気分次第よ」

「へ? おれ?」


 いきなり振られてもなー。


 ……ポリポリ。


 ソーサラーの素材が取れてホクホクなんだよねー。とは言いづらい雰囲気。


「ま、まぁ……その──買い取りとか査定に色付けてくれればそれで?」

「も、もちろんですぅ!! 通常の1割増しで買取させていただきますぅ!」



「一割ぃ……?!」



 ジトぉ、としたモーラの視線を受けて、ギムリーの笑顔が凍る。

「あ、う…………」

「せめて、3割でしょ!」


 ずい! と胸圧で迫るモーラに胸熱……。

 ……って、脅迫しとる?!


「あぅあぅあぅ……に、2割増しで───」

 ギムリーが懐から出した算盤そろばんを必死に弾いていうと、

「ふん、いいわ」


 パチン!


 交渉成立とばかりに、モーラがギムリーの手のひらを合わせる。







「…………いや、だからなんでモーラが───」

 ま、いいけどね。




 農業都市、初のクエストとしては悪くない成果である。

 そうして、大量のアンデッド素材と副葬品などのドロップ品らを換金すると意気揚々と宿に引き上げるゲイルたちであった。




※ ※ ※


 ゲイルたちが宿に引き上げて数時間後───。



「……ギムリー様」

「あら? 珍しいわね、どうしたの?」


 そのころ、大量のドロップ品を仕分けしていたギムリーがモノクル片眼鏡をはずしながら声のした方をチラリとみる。

 いつもの飄々としたギルドマスターの顔ではない。

 先ほどまで見せていた幼げな様子とは打って変わってどこか妖艶な雰囲気だ。


「……はっ。少々お耳に入れたいことがありまして」

 そういって、声がスススと近づく。


 しかし、死角を巧みに伝っているのかギムリーにもその姿は見えない。


「小噺かしら? いいわ、話して───ちょうど閉店したところだから」


 そういって、クイっとギルドの入り口を示すと、確かにスイングドアは占められており、外には「CLOSED」の看板が掲げられていた。

 冒険者の少ないギムリーのギルドでは、客のいない夜は閉店することが多かった。


「はい、実は王都で───」



 ごにょごにょ、ごにょごにょ。



 薄暗いギルドで低い声が響き、そのたびにギムリーの笹耳がピクピクと反応していた。

 よからぬ話か、よき話か──……いずれにしても田舎のギルドの暗がりで話す話がただの天気の話であろうはずがない。




「へぇ……暗殺かー」


 キラリと薄暗いギルドの奥でギムリーの瞳が怪しく光る。


「…………以上です」

「ふ~ん。なかなか興味深いわね。…………いいわ、追加の調査をお願い」


 チャリンと、小袋に入った金貨が影のほうに投げ込まれると、


「はっ、仰せのままに」


 そういうと再び死角を伝って声が遠ざかっていく。

 それを確認することもなく、ギムリーはドロップ品の仕分けの手を止めずに薄く笑った。


「ふふ……。帝国も思い切った手に出たわね──────」



 くすくすくす。



 ダークエルフの少女は闇に沈むギルドの奥で笑う。


 クスクスとクスクスと、

 昼間に見せる姿とはまた違った雰囲気で妖艶に笑う───。


「王国と帝国───……そして、」



 くすくすくす。



「───それにしても、ゲイルといったかしら……あの呪具師?」


 ちょうど手にしたソーサラーの討伐証明をジッと見つめると、


「うふふ」

 ふと笑みを深くし声を落とすと一人ごちる。


 ギルド内には、

 山積みになったドロップ品。少々匂うアンデッド素材。

 そして、明らかに普通とは違う禍々しいオーラを放つ、アンデッドの王からドロップした品の数々───。


「……まさか、ソーサラーを一人で下す人間がいるなんて───。まったく、とんでもない奴がいたものね」


 呪具師ゲイルか……。


「そう……か。呪いをものともしない男─────」


 ふと、闇の中で山積みになったアンデッド素材を見上げ、


「うふふふふ。実に興味深いわねー。気になる男だわ」


 そう。

 呪具師、か…………。


 呪具師、


 呪具師…………。


 呪われしダークエルフ。

 我が一族の悲願……。


 …………。


「…………っていうか、仕事終わらにゃーーーーーーーーい!!」



 仕分け作業が全然進まないので薄暗いギルドの奥で小さな影が泣き声を上げていたとかいなかったとか───。






 ぴえんー!!






 山積みのドロップ品の麓でダークエルフの少女は一人泣く───。

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