第22話「アンデッドハンター」


『コカカカカカカカカ!』

『あぅあー……』


 おーおー。

 出る出る!!


「きゃ! な、なんかいるよね? なんかいるよね!?」


 ん-んー。

 いるいるぅ!


 モーラが目をつぶったままゲイルにしがみ付いてブルブル震える。


「あー……だから、しがみ付かないでよ。大丈夫、なんもいないよ──」


 3秒後には、ね。


『『コカカカカカカカぁぁあ』』

『『あぅあああああー……』』


「ちょ! ぜ、絶対なんかいるよね?! め、目ぇあけていい? いいよね?」

「やめといたほうがいいよ」


 絶対叫ぶだろうし──。

 ま、あと2秒待ってよ。


「あけていい? あけていい?」


 ふむ……。

 まだまだ浅層なのに、ダークスケルトンにグールローマーか。


 しげしげとアンデッドを眺めるゲイル。


「こりゃ、この地下墓所は期待できるな」

「へ? 期待?」


「……なんでもないよ」


 どうやら、強力なアンデッドが湧きやすい墓所らしい。

 通常なら中層~深層に行かなければ出現しないアンデッドが出現している。


「め、目ぇ、あけるからね!!」

「ほい、────解呪」


 モーラが画面できないとばかりに目を開けようとしたので、すかさず手をかざして【解呪】。

 本来直接触れて解呪するのがセオリーだが、慣れてくれば多少は射程距離が伸ばせるのだ。


『『コカァァ…………』』

『『あぁうー……』』


 解呪を食らったアンデッドたちが崩れ落ちていく。


「え? 今なにかいた──?」


 呪具師の得意技、解呪のスキルの前にただの死体に戻るアンデッドたち。

 あとには、アンデッド素材だけが残されており、彼らが動き回っていた形跡などどこにも残っていなかった。


「ん? さぁ??」


 しれッ


「ちょ、ちょっと……。い、今いたよね? 今なんかしたよね?」

「ん~。目ぇ開けちゃって──大丈夫?」


 うっすらと目を開けていたモーラだったが、何もいないとわかるやいなや今度は目を大きく開いてパチクリ。


「今……【解呪】でアンデッド倒さなかった?」

「あ? 見えてた? うん。そうだよ。簡単でしょ?」


 か、簡単って……。


「アンタ──自分が何言ってるかわかってるの?!」

「ん?」


 モーラは額を抑えながら、

「か、解呪って、呪いを解く技よね? アンデッドに効くなんて聞いたことないわよ」

「そう? でも、ほら────神官とか、よく……」


「あれは退魔ターンアンデッド! それか、神聖魔法で浄化するのが神官の仕事なの!!」


 なえかムキになるモーラにゲイルはたじたじ。


「あ、あーうん……。あれは、あんまりよくないね」

「はぁ?!」


 ゲイルは地面の素材を回収しながら、アンデッドの残骸に軽く手を合わせる。


「よ、良くないってどういう意味よ……」

 訝しむモーラに何と言って説明すればよいか───。


「んー。ほら、アンデッドを動かしているのって、何か知ってる?」

「あ、アンデッドを動かすもの?」


 ふと、考え込むモーラは、

「魔力とか……怨念?」

「そ。大体そんな感じだね。とくに墓所のアンデッドはその傾向が強くてね」


 そう言いつつも手は止めず、黒い骨の下顎や、衣服の残骸。

 グールからは体液なんかも採取している。


 匂いはちょっとばかり……ひどい。


「で……? それが神官の仕事と何の関係が?」

「ほら。浄化とか退魔って、アンデッド凄く嫌うでしょ? あと聖水とかも」

「そりゃー。アンデッドだし」


 コイツ何言ってんだ? と言った顔のモーラに苦笑いを返しつつ。


「あれって、アンデッドからしたら怨念を抱えてこの世に顕現してるのに、上から目線で『帰れ馬鹿もん!』とか『神の御心を!』とか、そういう風に頭ごなしに怒られているようなものでさ」

「…………はぁ?」


 よくわかっていないモーラ。


「う、うん……。そのうまく言えないんだけど、ほら。子供のころとか頭ごなしに注意されるとイラってくるでしょ?」

「まぁ、誰でもそうじゃない?」


「だから、さ。アンデッドが、こう────恨みを抱えているなら、話を聞いてあげればいいんだよ」


「は、話?! アンデッドと!?」


「いや、たとえ話だよ? なんていうか、アンデッドもそんな無茶な恨みってわけでもないんだよ」


 例えば──……。


 お腹がすいて死んじゃったから、腹いっぱい食べたい。とか。

 病気が苦しい、早く楽になりたい──とか。

 たまに、

 恋人がほしい。死んでも死にきれない、とか。


「へ、へー」

「あとは、まれに強い怨念もあるけどね、」


 一族の恨みを晴らしたい──とか。

 拷問の果てに殺されて──とか。

 親に刺された──なんてものあるけど……。


「まぁ、大体は日常の一幕でしかないんだ。怨念なんてのはね」

「はぁ?…………それが?」


「だから、簡単に頷いてあげればみんな満足して成仏するよ?」


 こんな風にね、


『コカカカカカカカカカカ!!』

 バッカーーーーーーーン!

「ぎゃああああああああああああ!! 黒いぃぃぃいい!!!」


 突如、棺を破って表れた黒い瘴気をまとった騎士装束の骸骨!

 通称、『ダークボーンナイト』が雄たけびを上げて襲い掛かってきた。


「モーラ近いって、もー」

 抱きつくモーラに参った表情のゲイル。


 しかし、あわてず騒がず、

「ほい、解呪────」


 ───チョン。


『コカァァ───』ボッロォォォオ……。


 ゲイルが指で軽く頭蓋骨に触れると、一瞬だけ人の身を取り戻したかのように見えた骸骨騎士。

 それは金髪の青年で、美しい容姿をしていた。

 だが、ゲイルと視線を合わせると、スゥと満足したような顔で目を閉じ────……消えた。


「へ?」


 ガラガラガラ……!

 音を立てて崩れ落ちる黒い骸骨。


「って感じ」

「……………………いや、分かんないわよ!!」


 え? え? え?


「今のって、B級モンスターじゃん!! リッチよりも厄介な敵じゃん!!」

「ん? あーうん。らしいね」


 らしいねって……。


「彼は、婚約者に別れを告げることができずに、それが心残りだったみたいだね」

「へ? は? アンタ何言って───」

「いや。なんとなくだよ。なんとなく。呪具とか作ってると、そういう微妙なアンデッドとかの心の機微が読めるようになるんだ」


「いや、読めるわけないじゃん……!!」

 何言ってんの?!

「そ、そういわれてもね。だ、だからさ。こう──神官みたいに、『こらー!!』っていう浄化もあるんだろうけど、」


 ガラガラ。

 黒い骨をかき集めるゲイル。


「……話を聞いてあげればいいんだよ。『まじまじー』とか『わかるぅ』とか言っとけば、みんな満足するから」


 あははははは。


「……いや、アハハじゃないわよ。それはさすがにアンデッドに謝ってあげて」


 マジ本気で。


「そーいわれてもね」

 ポリポリ

「……それが俺なりのアンデッド退治。浄化するよりも良質な素材が取れるから、呪具作成にはもってこいなんだよ」

「うう。実際に目の前で見てるからねー。そうなんだ……、解呪ってそんなことも───って、」


 え?

 もしかしてこれってすごくない? とモーラはハタと気づく。


「いやいや……! ゲイルってば、もしかして……」


 ゴクリ。


「アンデッドって、ほぼ楽勝だったり?」

「んー。今のところ、ただの素材にしか見えないなー」


 ズルッ!!


「アンタは!!」

 ほんと!!


「アンタはぁぁああああ!!」

 

「え? え? え? ど、どうしたの?!」

「どうしたもこうしたもあるかッッ!! 謝れ! 今すぐ全聖職者に謝れぇぇぇえ!」


「えー……急に何言ってんのこの子?」


 だって、アンデッドなんて楽勝じゃん。

 解呪したら、みんな満足──ウィンウィンじゃん?


「んな簡単な問題じゃないわよ!!」


 やばい。

 こいつの考え方がやばい、とモーラが頭を抱える。


「いたたた……頭痛が痛い」

「はは! 冷気が冷えるのかな?」


 ゴンッ!!


「茶化すんじゃないわよッ」

「あだ!? な、なにすんだよ!」

「なにすんだ。じゃないわよ!! アンタが何してんのよ!!」


 シレっと、この世の理を無視しているゲイルに、割と本気でモーラは拳骨をくれてやった。

 だってそうでしょ……?


 呪具師を極めると、アンデッドが雑魚になるとか────……こりゃ、教会が気づいたらどえらいことになるなー。


「こりゃ、とんでもない呪具師がいたものね……」




 モーラは頭痛の痛い頭・・・・・・を抱えるのだった。

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