第15話「なんだかとっても~!」(追放サイド)

 その頃──……寒い一夜を路上で過ごしたカッシュたち。



「あーくっそ、腹減ったー」

「さむぅぅいい……!」

「まずは、お金を手に入れましょう。クエストさえこなせば何とか……!!」


 ガタガタと震える4人は身を寄せ合ってなんとか夜を越したのだが……。


「ど、どうする? このままじゃ、色々やべぇぞ? 一応、ギルドから仕事をいくつか持ってきたけど──こ、こここ、これとかどうだ?」


 凍えそうな声でルークがギルドで取ってきた依頼書を取りだす。


 どれどれ……?

 「文無し」のカッシュ達は依頼書を覗き込む。


 昨日、宿を追い出され、ほぼ文無しの4人は装備を売ってなんとか宿代に当てようとしたのだが、あまりの小汚さにどの商店も相手をしてくれなかったのだ。


 しかも、そのときは時刻が夕方近く……。

 しかたなく、そのまま路上で過ごしたのだがあまりに寒さにろくに眠れなかったという。


 そして、なんとかお金を稼ごうと決意していたはずなのだが──。


「な、なんだこれは?! 俺たちはSランクだぞ、こんなクエストありえん!!」

「そーよ! ルーク、アンタ馬鹿にしてんの!?」


 カッシュとメリッサは口から唾を飛ばしてルークを責め立てる。


「ま、まぁまぁ、今は精魂尽き果てておりますし、そこまで難しいクエストは無理ですよ。まずはひとつ。近場の簡単な奴からやりましょう」


 カッシュを諫めるノーリスも顔色は悪く限界が近そうだ。


「ほら、とりあえず態勢を立て直すためです。ライオンはウサギを狩るのにも全力と言いますし──」

「ち……! わかったよ」


 そういって、いくつかある依頼書クエストを覗き込む。

 ルークがギルドから持ってきたのは常時置かれている討伐依頼。


 【A級モンスター。街道上オーガの駆除】

 【B級モンスター。スケルトンナイトの群れの掃討】

 【C級モンスター。オークの討伐】

 【D級モンスター。ゴブリンソルジャーの分隊の駆逐】


「ケッ。討伐依頼ばっかじゃねーか! しかも、やっすい依頼ばっかもってきやがってよー」


 ブーブー文句を言いつつ、

 一番報酬の高いオーガのクエストをみて。


「ま、まぁ。……オーガはなしだな」

「そ、そうね。オーガはなしよ。べ、別にビビってないんだからね!! え、Sランクのがないから、スケルトンナイトのこれしかないんじゃない?」


 カッシュとメリッサはB級の依頼をやろうというらしい。


「ほ、本気ですか? び、B級とはいえ、……群れですよ!」

「そ、そうだぜ。ここはオークの討伐にしとかないか?」


 消極的なノーリスとルークを見て、目を三角してに吊り上げるカッシュ達。


「馬鹿をいうな! 骨野郎ぐらい、チョチョイノチョイよ!」

「そーよぉ! 私たち、Sランクパーティなんだからね!」


 やけに自信満々だが、本当にできるのか?


「だいたい、もってきたのはお前だろうが!」

「そ、そりゃそうだが……」


 クエストを貰ってきたのはあくまで昨日の話だ。

 ほぼ徹夜の状態になるなど誰が想像できようか……。


「ま、まぁ、ルークさん。とりあえず、やるだけやってみましょう」

「お、おう。たかだかB級の魔物だしな……!」


 ノーリスとルークは、自分たちが思った以上に消耗していることを理解していた。

 魔法も使えるか怪しいうえ、ルークだって群れ相手に自分が活躍する余地がない事をボソボソと語る。


「よーし、じゃ早速行こうぜ。サクっと殲滅して、今日はステーキだ!」

「キャハハ! スケルトンナイト退治でステーキとか、カッシュってはシャレが聞いてるぅ!」


 あーーっはっはっは。


 と高笑いして、現場に向かうカッシュ達二人の背中を見つめてノーリスたちは顔を見合わせる。


「だ、大丈夫でしょうか?」

「う~ん……。前衛はあの二人だし、アイツ等が自信あるならいいんじゃないかな?」


 魔法支援の黒魔術師ノーリスと

 全般支援の盗賊ルーク。

 

 基本的に攻撃は前衛の聖騎士カッシュと、遊撃兼アタッカーの軽戦士メリッサの仕事だ。

 二人ができるというなら…………できるのだろう。多分──。


「ま…………最悪、怪我をするのはあの二人ですしね」

「そーだなー」


 割と他人事のノーリス達であった。


 そして、向かう先は王都郊外の廃教会。

 ここには、定期的に地下墓所あとからアンデッドが沸きだすのだ。



 ※ ※



「どうだ?」

「んー……うじゃうじゃいるな」


 廃教会の塀によじ登ったルークが偵察結果を報告し、地面にがりがりと簡単な要図を書いた。


「ここが教会の本殿あと、墓所はその裏で────その周辺の暗がりに20匹はいるな」


「はは! 20匹だぁ?──余裕だな!!」

「楽勝ね~!」


 基本的に日中は動きの鈍るアンデッドだ。

 雑魚のスケルトンの上位種とはいえ、所詮はナイト級のスケルトンナイト。モンスターとしてはB級といわれる。


「よ~し。じゃあ、カッシュとアタシで突撃でいいよね?」

「おーよ。俺が聖なる武具で威嚇しつつ、メリッサの遊撃で数を減らしながら敵を分散させる──」


 地面の落書きに、カッシュが注釈を加えていく。


「で、敵さんが固まったところにノーリスの火魔法で火葬して、トドメをルークが刺す────これでどうだ?」


 無難な作戦だろう。前衛が引き付け、後衛が火力支援。そして、盗賊が速度をもって弱点を狩り取っていく──なかなかじゃないだろうか?


「ふむ……これなら、いけそうですね」

「なら、俺とノーリスはここで待機してるから、突撃を見届けたら順次援護を開始でいいか?」


「おう、それでいい!」

 後衛の二人を残すと、カッシュは剣を抜き出し、廃教会の正門に手をかけた。


「準備はいいか?」

 と、メリッサに。

「ろんのもちー♪」


 聖職者の施した聖なる封印が一時的に解かれて内部にスルリと入る。


「「GO!」」


 サッ!!


『コカカッカカ?』

『コカァ?!』


 すると、途端に反応を示す骸骨ども。


「へへ、来た来た!」

「カッシュ、いくわよー」


 スラリと剣を抜いて自信満々の二人。

 それを背後から援護するルークたち。


「「突撃ぃ!」」


『『『コカカカカカカカカカッ』』』


 一気にスケルトンナイトに突撃するカッシュと、遊撃位置から援護するメリッサ。 


 その様子を見て一斉に襲い掛かってきたスケルトンナイト!

 暗がりにいた個体も、苦手な陽光の中に突撃する。


「おーら、かかってこい! 一生眠らせてやるぜ」

「キャッハハ。太陽のもとに出てくるなんて、馬鹿ねー」


 はーっはっはっは!!


 そして、不敵に笑うカッシュ達は大胆にも、真正面からそのまま突撃する。


「ぎゃはははははは! クエスト報酬ゲットだぜーー」


 と、突っ込んだはいいものの──ボッコォォォォオオオン!!


「ゲットぉぅううううう──────……はぶぁぁああッッッッ!!」


 と、大腿骨の剣で思いっきりぶん殴られるカッシュ。


「きゃははははは! Sランクパーティの強さを見せてあげるわよ────って、何やってのよカッシュ!…………あれ?」


 スルリと一撃を躱されるメリッサ。

 そして、スケルトンナイトがユラリと立ち────。


「へ?え?……ちょ、ちょっと、タンマ──」

『こか!!』


 ボッォココォォォォォッォオオオオン!!


「────はぶらげらぁぁああ?!」


 そして、ぶっ飛ばされた。


 ギュルギュルと錐もみ状態で上空に舞い上がる二人。


「「あーーーーーれーーーーーーー」」


 それを──…………。


「か、カッシュさん?」

「めめめめ、メリッサ大丈夫か?!」


 ドッスーーーーーーーーン!!


「「あぎゃああああああ! だ、大丈夫なわけあるかーーーーー!」」


 と、割と大丈夫そう……。

 しかし、吹っ飛ばされた先で、スケルトンナイトに囲まれてボッコボコ。


「いだ、いだ!!」

「やめ、ぎゃ!!」


 ボッコボッコ!!

 ボッコォォオン!


「おいおいおい、ノーリス! あれやばいんじゃないか?」

「え、えぇ、分かっています────ほ、炎よ……むむむむ」


 魔力を練り始めたノーリス。

 だが、遅々として魔法が発現する様子がない。


「おい、早くしろよ! 二人とも死んじまうぞ!!」

「むむむ……うるさいですね! 集中できないでしょう!!」


 その間にも、ボッコボコ。

 もうボッコボコ!!


『『『コォアアアカッカカカカカカ』』』


 まるで笑っているかのように、手に持つ大腿骨を剣のかわりにカッシュとメリッサに振り下ろす。


「はべっ、げふっ」

「あびゃ、はびゃびゃー」


 スケルトンナイトは普通のスケルトンの上位種で、ボロボロの鎧を着て剣の代わりに仲間の大腿骨を握りしめただけのモンスターだ。

 それでも、武器を持っているだけ、普通のスケルトンよりも強いのだが…………。


 ……間違ってもSランクの冒険者が苦戦するような相手ではない。 


「おいおい。ど、どうなってんだ? なんでカッシュがスケルトンナイトごときに……」

 しかも、陽光の下で動いているアンデッドは通常よりも弱体化しているはず。


「し、知りませんよ…………。で、できた!!」


 ボボボッ! と、炎の呪印が中空に浮かび上がる。

 ノーリス得意の上級火魔法の発現だ!!


「────はぁっぁぁぁああ!!……炎獄弾インフェルノ!!」



 いぃぃぃぃっけぇっぇえええええええ!







 ──ポヒュ…………。






「……おい、なんでファイアボールだしてんだよ!」

「ち、ちがっ……!」


 たっぷり時間をかけて打ち出した魔法は範囲魔法『炎獄弾』ではなく、どうみても下級魔法の初歩中の初歩の『火球ファイアボール』だ。


 そして、フヨフヨと飛んでいった、『炎獄弾』がゆっくりとカッシュ達を襲っているスケルトンナイトに向かっていく。


「ほ、ほら! 熱の温度を凝縮したので、ち、ちちち、小さくても高威力なんですよ!」

「ほ、ほんとかよ」


 フワリ、フワリ……。

 ぽしゅー……。


「ほら! す、すごいでしょー!!」

「す、すげぇわ。……お前の頭がすげぇわー。……あれを『炎獄弾インフェルノ』と言い張るお前の頭が──」


 ノーリスの打ち出した魔法は高威力どころか、『火球』にすら劣りそうな威力。

 地面にぶつかっても延焼することもなく、煙を吹いて消えた……。





 ギロッ。




「「ひ!」」


 安全圏にいるはずノーリス達を睨みつけるスケルトンナイト達。



『『『コカカカカカカ!!』』』


 そのまま一斉に向きを変えるとノーリス達目掛けて走り出した。


「うわ! うわわわ! こっち来た」

「だ、だだだだ、大丈夫です! 教会の作った封印が突破されるはずが……」


 ノーリスの希望的観測がどこまで当たるかはわからないが、突進してきたスケルトンナイトは廃教会を覆っている壁に激突すると、バチバチと聖なる封印によって青白い炎を放って焼かれる。


 だがそれでもひるまず、ノーリス達を捕まえようと手を伸ばす。


「ひぇぇ、に、逃げましょう!」

「さ、賛成──」


 その恐ろしい光景にノーリス達は完全に及び腰、今にも逃げ出す寸前で会った。




「い、」

「今よ!!」




 その瞬間を待ちわびていたカッシュ達はスケルトンナイトの圧が減ったことを感じ取り、一斉に起き上がる。

 全身をボコボコに腫らしていたが、今この瞬間は逃さない!!


「「逃げ」るわ」


 ビュン!! と逃げ足だけはSランクを発揮。

 あっという間に廃教会の壁を乗り越えると命からがら脱出に成功した。


「お、おぉ! 無事でしたか!」

「あわわ、よかったよかった……」


 思わず逃げようとしていたノーリス達もカッシュ達を介抱に向かう。


「無事に見えるってのかよ! 畜生、さっさと助けに来いよ」

「そーよ! いたたた……。何をグズグズしてたのよ!」


 理不尽な怒りを向けられたノーリス達は顔を見合わせ、

「ど、どうしろというのですか……。最初の作戦と違う状況なんて打ち合わせもしてないというのに」

「そうだぜ。しかも、俺たち支援職に助けろったって無茶だろ?」


 一応魔法を打ったことは打った。

 それでスケルトンナイトの目を引き付けられたのだから結果的に助けたと言えるだろう。


「うるさいッ! 役立たずどもめ」

「そーよ、遅いのよ!!」


「「んなっ!」」


 さすがに言われっぱなしの二人は顔を引きつらせるが、それが不毛なことであることをわかっているのでグッと堪える。


 そうして、命からがら教会跡から逃げ出したカッシュたち。


『『『コカカカカカカカカカカカカ!!』』』


 滅茶苦茶怒ったスケルトンナイトの声がいつまでも響いていたとか……。






 【B級モンスター。スケルトンナイトの群れの掃討】


 × 失敗!!

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