第16話「ひゃっはぁっぁああああ!」(追放サイド)

 それからも、カッシュ達は日銭を稼ぐため、なんとかクエストをこなそうと躍起になっていた。


「おい、そっちにオークがいったぞ!」

「任せて!」


 カッシュがオークを1匹追い込むと、待ち伏せしていたメリッサが飛び出す。


「死ねッ! 性欲豚!!」


 ブンッ!


 渾身の一撃がオークの急所を捉える────……ガシッ。


「え? あれ……。ぬ、抜けない……!!」

 だが、あろうことか、メリッサの一撃はオークの分厚い脂肪に包まれ急所に達しなかった。


「く、このぉぉ……!」


 ギリギリギリ……! なんとか剣を押し込もうとするも全然動かない。


「メリッサ何をやってる! さっさと仕留めろ!」

 ようやくカッシュが援護に現れるも、未だ位置は遠い。

 そのうちに、メリッサが女だと気付いたオークがべロリと舌なめずりする。


「ひっ! わ、私を攫うつもり?!」


 ガシリ! と、剣ごと腕を掴まれ吊り上げられる。


「きゃーーーーーー! 助けてカッシューーー!!」


 オークは雌が極端に少ない種族で、繁殖のために他種族を攫うことがままある。

 そうして、人間の女性も攫われることがあるのだが────……。



 じー……。



『…………ブヒ』



 ポイす。


「え? あれ? た、助かっ……た?」


 ……え?

 なんで?


 別にオークに攫われたかったわけではないが、何か馬鹿にされた気がして────。

 メリッサが硬直していると、


『ブヒ、ブヒ……』


 ヤレヤレと肩をすくめて首を振られる始末。

 それを、隠れた位置で見ていたルークたちが大笑いする。


「あは! あははははは! まさか、メリッサさん、オークに嫌われました?!」

「ぎゃははははははは! メリッサのやつ、オークに好みじゃないとさ!」


 ぎゃははははははははははははっは!!

 ぎゃーーーーはっはっはっは!!


「あ、あ。アンタらぁっぁああああ!!」


 ムッキー! と怒り狂うメリッサだが、そこにカッシュが漸く追いつく。


「無事か、メリッサ?! よ。よくも、オークめぇっぇええ!」


 メリッサが負傷したと勘違いしたカッシュが背後からオークに襲い掛かる。

 だが、オークに達したかと思うその剣が呆気なく──。


 ゴキィン! と弾かれて、

「へぁ?!」


 オークの棍棒で弾かれた剣が明後日の方向に飛んでいく────。



「あ、あれ? な、なんで、オークごときに……」

 かつては地竜すら切り裂いたこともあるカッシュの剣が…………オークにすら通用していない。


 だが、さすがに今の一撃はオークにもそれなりに痛かったらしく、奴がプルプル震えている。


 ギロッ……!



「あ。さ、さーせん」



 ブモォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!!


「うわ! オークが切れた!」

「ひぇぇぇ! に、逃げた方がいいんじゃ……」


 ノーリスとルークは早々に見切りをつける。

 自分たちが戦力にならないことを知っているから、カッシュとメリッサがやられた時点でクエストは失敗だ!


「「逃げるが勝ちやでぇ!」」


 ダっ!!


「おい、お前ら! ずるいぞ! って、うわわっ! き、きたーーーーーー!」

「きゃああああああ!!──って、私を素通りすんなーーーー!!」


 怒り狂ったオークは一瞬メリッサを見たが、「ブヒッ」と胸のあたりを見て鼻で笑うと、また怒り狂ってカッシュ達を追いかける。


 そして、「「「うぎゃあーーーーー」」」という三人に悲鳴だけが響き、メリッサは一人寂しく帰る羽目になったとか……。




 【C級モンスター。オークの討伐】


 × 失敗!!





 ※ ※



 そしてついに、



「ご、ゴブリンならさすがに、な!」

「そーそー。ま、まずは簡単なクエストからこなしていきましょう!」


 ルークとノーリスが、カッシュとメリッサを宥めすかしている。


「くそ! げ、ゲイルの野郎……! 俺たちに何しやがった!」

 ──失敗続きはゲイルのせい!

「そうよ! 絶対ゲイルが原因よ────。きっと何か呪いを掛けられたんだわ」

 ゲイルが何かしたから自分達がクエストを失敗している──と本気で思っているのだ……彼らは。


 憤慨するカッシュ達。


 二人の装備はグレードダウンしており、

 今やボロボロの鎧に中古の剣という有様だ。


「と、とりあえず、一度態勢を整えてからゲイルを追求しましょう」

「そ、そうだぜ? どうせゲイルのことだ。アイツの無能っぷりなら、今頃本当に王都で露店でもやってるかもよ!」


 ノーリスとルークの言うことはおおむね正しい。

 だが、今やゲイルを追うどころではない。


 クエストを連続で失敗している『牙狼の群れウルフパック』に対する評価がだんだん厳しくなり、

 融資はおろか、中古品の買い取りさえおぼつかない状態だ。


 それでも、なんとか装備を「質入れ」して宿屋に泊り、体調を整えると再戦することになった。


「ふん! ゲイルめ……、今度会ったらギッタギタにしてやる」

「えぇ! でも、その前にまずはゴブリンどもを血祭りにしちゃいましょう」


 本日のクエストは、

 【D級モンスター。ゴブリンソルジャーの分隊の駆逐】


 D級とまではいかないが、C級の冒険者が一人でこなすことができるクエストである。


 王都近傍の村に出没する畑荒らしの迷惑モンスターを狩るだけの簡単なお仕事です。


 それも、

 村人と共同でやるので、パーティのメンバーが少なくとも何とかなるはず……。


 村人はノーマルゴブリンを攻撃し、

 冒険者が武器を持ったゴブリンソルジャーを倒すというやつだ。


「「「「らくしよー、楽勝!」」」」


 4人はゲイルの悪口を言いながらも、

 意気揚々と楽なクエストをこなしてやるとばかりに現場に到着した。


 そして、

「いやー待っとったでよ、冒険者さん」

「これで助かるべー! 娘っ子どももゴブリンさ怖くて、おちおち外も歩けんでのー」


 ペコペコ平伏する村人をみて、途端に高圧的になる『牙狼の群れ』。


「おーおー。俺たちが来たからには安心だぜ!」

「そーよ! なんたってSランクパーティなんだからね!」


 ふふん、ない胸を張って偉そうなメリッサ。

 その、ない胸の上ではSランクの認識票がキラリと光った。


「お、おぉ……。まさか、あんな報酬でSランクの方が来てくれるとは──ありがたいこってす」


「ふん! 感謝してくれたまえ」

「そーそー。それに感謝は言葉じゃなく、飯とか行動で示してくれよー」


 ゲヘヘヘヘヘと、下品に笑うカッシュ達。

 彼らの中では、このクエストは確実に成功すると確信していたのだろう。


「助かりますだー。いつも農作業中に襲われて反撃する暇もなかったんでさぁ」

「んだんだ! ゴブリンは卑怯な連中だ! だけんど、今回は違うべ」

「ありがてぇ、ありがてぇ、ありがてぇありがてぇ……! よっし、村の衆も奮起するでー! 今日こそ、あのゴブリンどもを皆殺しだー!」


「「「MI・NA・GO・RO・SHIだー!」」」


 ひゃっはーーー!!


「お、おう……」

「う、うん……」


 急にゾロゾロと出て着た村人の迫力にちょっとビビるカッシュ。


 総勢50人ほど。

 なんかクワとか鎌とか持っててヤル気満々……。


 おいおい、モヒカンおるぞ?

 ほんとにゴブリンにビビってる村人か……?


「す、凄い迫力ね……」

「ひぇー……こりゃ、ゴブリンを迅速に対峙しないと我々が殺されそうですねー」

「ま、まさかー」


 あはははは。と笑うも、村人たちの殺気が半端なくてちょっと及び腰のカッシュ達。


「じ、実はお恥ずかしい限り、ゴブリンとまともに戦うのは初めて何でさぁ。そんで冒険者ギルドに依頼だしたんですわ」

「そーそー。オラたちは喧嘩なんてずぶの素人だしなー」

「んだんだ! 冒険者さんが来てくれて百人力だべ!!」


 次々に現れては隊列を整え、好き放題に言っている。


 その様子を見て、カッシュ達も首をかしげる。

 全員筋骨隆々の労働者で、農具とはいえ鉄製品を持つと迫力満点。


(本当にゴブリンにビビってる村人か?)



 そこに────……。



「来た! ゴブリンが来たぞーーーー!」



 カンカンカン!!

  カンカンカン!!



 村の外れの見張り代から警鐘が飛ぶ。


「お……! へへへ。ゴブ公が来やがったぜ……!」

 ペローンと鎌を舐める村人A。

「ひひ……! 俺のグレンカイザーαが血を欲しているぜ……!」

 スリスリと、グレンカイザーαことクワに頬ずりする村人B。


「くけけケ! ゴブリンのナオンちゃん女の子がいたら分かってるだろうな、てめぇら!」


「「「ゲヒヒヒヒヒヒヒ!」」」


 そういってゴブリンの雌を夢想して下品に笑う村人C~Zくらい。

 いや……。ナニする気だよお前ら……。


「…………え~っと、村間違えた?」

「ま、まさかーー…………」

「「あははははは……」」


 カッシュのドン引き顔に仲間もつられる。


 っていうか、この村YA・BA・Iッッ!!


 そして…………。

『『『ゴブゴブゴブゥゥウウウ!』』』



 バカなゴブリンの群れが村に襲い掛かった。



「ち……! 今はとにかく仕事だ──! あーメリッサは離れるなよ」

「う、うん!」


 村人の目が怖くて、メリッサはカッシュの傍を離れない様にして戦闘開始。

 今回は、雑魚モンスターゴブリンということもあってノーリスもルークも最初から戦闘に参加。


 非力なノーリスであっても魔法を初戦から詠唱しておけば一撃できるだろうし、杖で殴ってもゴブリンくらいなら追い払える。

 それはルークとて同じ。

 短剣に一撃は十分にゴブリンを屠るに足るし、久方ぶりに持った弓矢もあの大群ならどこに打っても当たるだろう。


「いけ! ノーリス! 鼻先に魔法だ! ルークも速射しろッ」


「「おぅ!」」



 パリパリと紫電を走らせるノーリスの魔法。

 範囲魔法、『紫電回流エレキトリックランス』だ!



「たぁぁあ!」



 パリパリパリ…………。と、もはや想像通りの威力だが、曲がりなりにも魔法!

 それがゴブリンの集団に落下し、連中の数体が麻痺して動けなくなる。


「いいぞぉ! やるじゃねーかノーリス」

「ふん! 次弾を打ちます──アナタもサッサと敵を射止めなさい」


 言われるまでもないとばかりに、ルークが立て続けに矢を打つ。

 ザァァア! と降り注ぐつるべ打ちの矢の雨!


 数体のゴブリンが仰け反り倒れる。


「いいぞいいぞー! よし、メリッサ────」

「うん! フォーメーションCよね」


 おう!!

 そしてカッシュ達の突撃が始まる────……。


「おらおらー! かかってこいやぁー!────」

「ゴブリンなんてねー!」何体束になっても……


 って、

『『『『『ゴブゴブゴブゥゥウウウウ!!』』』』』



 め、めっちゃ数多くない?!

 しかも、ノーリス達が倒した奴らも起き上がって、戦列に復帰。


 おいおい、一体も倒せてねぇぞ?


「しゃあねえ! 討ってでるぞ!」

「掩護してよね!!」


 ダッと前に出るカッシュたち。


「うおおおおおおおおおおお! って」

「たぁああああああああああ! って」


 剣を抜刀し突っ込む二人の前に雲霞のごとくゴブリンの群れが襲い掛かる。


 一体、二体、数体と倒していく!!

 千切っては投げ、千切っては投げ!


 さすがはSランクパーティだぁぁあああああ! と言いたいのだが……!


 が、しかし────。


「ななななんああ! なんて数だよ!」

「ぎぇぇぇえ!!! カッシュ援護して! 無理!? もう、無理ぃぃい! 」


 そして、その群れに二人が呑み込まれそうになるのを、ノーリス達が必死で援護しているのだが──……。


「あわわわわ! なんだ? なんでゴブリンごときが倒せないんだ?!」

「ひぇぇえ!! ま、魔法どころか、俺の矢も効いてねぇえ!!」


 援護も全くの役立たず。


「こ、この数は────無理だ!」

「きゃあああああああ!! 撤退よ、撤退!」


 うぎゃあああああああああ!


 ついに、悲鳴を上げる二人と後方にいたノーリス達も巻き込まれゴブリンにボッコボコにやられていく。


「ヒッ!?」

「いた! いた!」

「痛いです! 痛い!」

「うわ! やめろ────そ、そんなの入らない!」


 ついにはゴブリンに囲まれ全員危うく絶体絶命かと思ったその時である。





「「「「ひゃっははあぁぁぁああああああ!」」」」





「な、なんだぁ?」

「きゅ、救援かしら?」

「な、なんでもいいから助けて―」

「っひっひー!! って……アレはなんだよ!?」




 ドオン、ドォン!!

 ドドドドドドドド!



 無茶苦茶デッカイ農耕馬にまたがった村人が、まるでアイドリングのように農耕馬に足で地面を掻かせたかと思うと、



「「「「ゴブリンは消毒だぁっぁあああああ!」」」」




 ズドドドドドドドドドドドドドドドド!


 と、モヒカンを先頭に、なんかトゲトゲの皮鎧をきた村人集団が一斉にゴブリンの群れに突っ込んだ。


 そして、



『『『『ゴブゴブゥゥゥゥウ?!』』』』


 ドカーーーーーーーン! とゴブリン集団をぶっ飛ばしたかと思うと、そのまま突撃開始。

 あっという間にゴブリンを蹴散らしてしまった。


 その後には、ボッコボコにされたカッシュ達がいて、顔面をパンパンに膨らませていた。

 歯とか折れてるし……。


「ひ、ひぃ……た、助かったー」

「うえええん、死ぬかと思ったー。ってゆーかー、な、なんでゴブリンにも勝てないのー?」

「うぐぐぐ……。ゲイルのしわざに決まってます……。なんて無様な」


「お、おい、そんなことより────」


 ゴブリンを追い回していた村人たちだが、次第にゴブリンを圧倒していき、続々と帰還しつつあった。


「いやー。ゴブリンの集団もたいしたことねぇな」

「隣村がさんざんやられたって聞いたからビビってたんだけどなー」

「ん~? これで、冒険者さんに報酬払わにゃならんのか?」

「んだんだ。これくらいなら、オラ達でもできたべ」


 うんうん。と頷くモヒカン集団。

 そして、ギロリとカッシュ達の方を一斉に振り向く。



 その殺気たるや──……。


「いや、その…………。ほ、ほら、仕事は仕事だし」

 あははははは、は、は────。


 カッシュは引きつった笑いで村長に話しかける。


しんごと仕事だぁぁあ? 腰抜かして泣き叫んでたやつが偉そうなごというでねぇ!」

「んだんだ! おめぇらなんもしてなかったでねぇか!」


「そーだぞ! Sランクだか、デスランクだか知らねぇが、働きもしねぇで報酬を寄こせたぁふてぇ野郎だ!」


 ムキッ!

 ムキムキィ!!


 村人たちが筋肉をアピールしながらカッシュ達に迫る。


「ひ、ひぃ!」

「キャーーーーーー!」


「か、カッシュさん、ここは──……」

「逃げようぜ!!」




「「「「賛成!!」」」」



 ゴブリンにすら歯が立たなかったカッシュ達に、村人に歯向かうなど思いもろらない事だった。

 結果、村人の怒号にビビって逃走開始。


「んっだ! 逃がすかぼけぇぇ!」

「タマとったるでぇぇええええ!」

ナオンちゃん女のコを捕まえろぉぉ!」



 ぎゃあああああああああああああ!!



 農耕馬で追撃を開始した村人たち。

 その迫力にちびりながらカッシュたちは命からがら王都の壁の中に逃げ込むことに成功した。



 そして、その足でギルドにすべてのクエスト失敗を報告に行くのだった…………。


「また失敗したんですか? カッシュさん」

「うるさい! うるさい!! いいからもっと簡単なクエストをよこせーーーー!」


 ギルドでみっともなく騒ぐものだからいい見せものだ。





 もはや、信用…………ゼロ!!

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