第14話「消費型呪具」
──ヌォォォオオオン!!
髑髏のエフェクトが、一瞬だけ空間を覆いつくす。
その瞬間、空気が冷えわたり、ブルリと震えた。
「な?!」
『『『ブヒッ?』』』
それは冗談でも比喩でもなく、空気が震えたのだ。
その禍々しい気配に、モーラとオークたちが怯えた声をあげる。
それはあたかも────まるで、魔王が君臨したかのように重々しい空気を伴って……。
ミリミリミリ……。
ミシィィィ……!!
く、
空気が、
空間が重いッッ………………!
ミシシシィィッッ!
『ぶもっ?!』
『ブヒッ?!』
『BOO!?』
「うぐ…………」
それを遠くで見ているだけのはずのモーラですら、ゾクリと背筋が震えるほどの『強力な呪い』!
「な、なに……。あの呪具?! で、デバフ……? あ、あれがゲイルのデバフなの?!」
モーラが魔法を放つと同時に、
ゲイルが投擲した巻物から流れ出たナニカ。
……そいつがこの空間を覆って、禍々しい空気でオークたちを汚染したのだ。
…………いや、汚染ではない。
あれは……。あのオーク達は呪われているのだ!
それも、ただの呪いではない!
この空間の敵性モンスターだけを狙って襲うデバフが、今まさに、まき散らされている。
そこに、
「──うぉぉおおお! 死なばもろともぉぉぉお!」
「げ、ゲイル?!」
気合とともにゲイルが突っ込んでいくッ。
「ちょっと……! は、早いッ! タイミングが合わないわ、待っ…………」
バフ魔法は即効性が薄い。
魔力が被対象者に当たってから、効果を発揮するまでにタイムラグがあるのだ。
だが、
「てりゃぁああ!!」
そして、愚かにもそのまま──ステータスが向上を始める前にオークの群れに突っ込んでしまう。
「ゲ──」
モーラの悲鳴が響く──。
あんな状態で突っ込んでただで済むはずがない──と!
だが……!!
「──………………え? な、なにあれ……?!」
モーラは最悪の瞬間を想像していたのだが、そうはならなかった。
ブシュ────……。
バフのかかっていない状態で、ゲイルが短剣をオークに突き立てる。
すると、まるでバターでも切り裂くみたいにオークの首がはじけ飛ぶではないか!
『ブモぉッ?!』
クルクルと舞い飛ぶオークの首。
奴は、自分の首が落ちたことすら気付いていない。
だが、それを見届けることなくゲイルは次の一体に突っこむ。
……どうやら、突撃の勢いのまま、かなりハイになっているらしい。
「うぉぉぉぉおおおおおおおお! しーーーーねーーーー!!」
そして、すぐさま先ほど見たあの瘴気を放つ短剣を、オークの脳天に突き立てる!!
そのオークの最後の瞬間が……。
オークが首を振って懇願する姿すら、まるでスローモーションのように、モーラには見えた。
「あ、れは────……」
あれは、なに……??
あ、あれは……。
あれが短剣?
タダの?!
…………あれは
あれは────────!!
「たりゃあ!!」
『ぶもっ!』
ブシュウウウウウウウウ──────!!
次の一撃も、あっという間にオークのクビ掻き斬る。
まるで、敵の防御力を感じさせないそれ。
「……うわ! 行ける?! 俺でもサクサク倒せる────……ま、まるでバターみたいに切れたぞ……!」
二匹を仕留めた手応えに、ようやくゲイルは目を見開く。
「す、すげぇ! すげぇぞ、モーラのバフはッ!」
「……………………は?」
ば、バフ??
あ、アタシの────?、
い……。
いや、
いやいやいや!!
「いやいやいやいやいや!!」
モーラは人知れず首を振る。
手でブンブンと全力否定する。
──まだ、魔法が効力発揮してないから!!
今、バフ掛けたばっかりだから!!
「それ、バフ関係ないから!!」
それよりもなんなの?!
こ、この周囲に立ち込めるデバフの呪いは?!
生半な、能力低下なんて生易しいものじゃない。
少なくとも、
【
(そんな呪具……聞いたこともない!!)
そしてあの短剣……────。
「あれじゃ、まるで────……で、伝説の魔剣??」
【
【
【
確認できただけでも、
これくらいの効果は、常時かかっているに違いない。
そんな、伝説クラスの魔剣をタダの短剣とか────。
「ば、バカなの?!」
パッァアアア……♪
そのころになって、ようやくモーラのバフがゲイルを活性化し、彼のステータスを向上させていた。
「お……?! なんだ??」
ウィィィン……!!
──ステータス向上1.1倍
──ステータス向上1.2倍
ゲイルの髪も体も、バフの効果によってつかの間、金の光を放つ……。
「こ、これが……モーラの魔法?」
──ステータス向上1.3倍
──ステータス向上1.4倍
その間にも、オークたちがガクガクと震え始め、まるで何かに怯えるように嫌々と首を振る。
…………ヌォォォォォオン!!!
…………ヌォォォォオオン!!!
低く唸るような、魔王のごとき呪いをまき散らす
時折、髑髏のエフェクトが浮かび上がり、ゲタゲタと気味の悪い笑い声を吐き散らしていく。
『『ブ、ブヒィィィ』』
オークたちは怯えきり、その視線の先にはゲイルが投げた設置型呪具──巻物がある。
──ステータス向上1.5倍
「こ、これが……モーラの
「ち、チガッ」
いや、違うッ。
違くないけど、違う!!
「……行けるッ!! これなら、俺でも戦える!!」
「いやー。アンタ──な、なくてもいけるんじゃない……?」
タラーリと汗を流すモーラを尻目に、
──ダッ! と、ゲイルが駆けだしたときには、
シュ~ン……と、バフが消えていく。
──ステータス向上1.5倍
──ステータス向上1.4倍
──ステータス向上1.3倍
──ステータス向上1.2倍
──ステータス向上1.1倍
「あ、しまった……!!!」
なぜならモーラがポカンと口を開けて、魔力の供給を忘れていたからだ。
「まずい、まずい……!」
ようやく自分の失態に気付いたモーラ。
「ゴメン、ゲイル! ごめん、ごめん!!」
バフを切らすなんて、支援術師失格!!
慌てて、さらなる支援魔法を練り上げるが、
「うぉぉぉおおおお! これが支援魔法の効果だぁぁぁああ!」
「いや、違ッ」
ズバンッ!!
ズバンッ!!
「おりゃあああああああ!!」
ズバババババババッ!!
「凄い! 凄いぞ、モーラの支援はッ!」
テンションMAXで切り込んでいくゲイルに、モーラも必死。
「いや、掛けてないからぁぁぁああ……! 何もしてないからぁ!」
「うぉぉおおおおおおおおお!! 俺とモーラのコンビパワーは無敵だぁぁぁあ!!」
モーラのツッコミが耳に入らないのか、ゲイルは短剣を振り続け、次々にオークを狩り取っていく。
──しかも、なんか恥ずかしい!!!
そして、ついにはオークたちが敗走開始。
だが、足が動かないのか、ガクガクと震えたまま身動きすらままならない。
「はは! か、勝てる! 勝てるぞ!」
「あ………………う、うん」
そこをゲイルの追撃が襲い掛かり、一匹、また一匹と仕留めていく。
「ち! 二匹──……逃がすかッ!!」
一番離れた位置にいた大柄なオークも、これは敵わないとみて、手下のオークと戦利品を捨てて逃走を開始!
だが、そこにゲイルの投擲型呪具が炸裂する。
「はぁ!!」
──ビュ、ビュン!
『ブッ』
『モッ』
器用に片手に握り込んだダーツ型の呪具を、それぞれに命中させると、ゲイル自身も軌跡を追うように一体に迫る。
「モーラ! 【
「え? あ、……うん。わ、わかった」
モーラにほど近い位置の一体も、投擲型呪具が命中したのか、ゲイル曰く【
スロウ??
スロウって言った??
す、スロウって──────。
ノローーーーーーーーーリ、ノローーーーーーーーリ。
ノロォォォオオーーーーリと動くオーク。これで全力で走っているらしいが……。
──これが、スロウ?????
通常の10分の一以下の速度が、スロウーーーーー???!!!
「はは! 凄いぞ、モーラのバフは!! 敵が止まって見えるッッッ!」
いや、
「……アンタ本気で言ってんの??」
「もちろんだ!!」
あっそ……。
スタスタと歩いてオークに追いついたモーラは、それこそゆっくり目に急所にナイフを突き立てる。
……ブシュ!!
『ブ……モ……ォ……ォ……オ……』
悲鳴すらゆっくり……。
息絶えるのも、ゆっくりだろう。
「うわっ。アタシでも倒せちゃったよ……」
おかげで、ゲイルのトドメの一撃がよく見えた。
ブシュ……!!
ゲイルの短剣に纏わりつく、黒い瘴気が一瞬だけ髑髏の姿を纏ったかと思うと、オークの首に吸い込まれていき。
シャキーーーーーン!! と、
黒く輝く、稲妻のようなエフェクトが一瞬だけ映える。
すると、鋭い一閃を放つ短剣が、いともたやすくオークの首を両断してしまう。。
「な、何なの、あの短剣──。それに、その他の呪具は……!」
ドスンッ。
と、オークの首が落ちて、ついに魔物は殲滅された。
「か、勝った!!」
「いや、そりゃ…………勝つよね?!」
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