Ｓランクパーティから解雇された【呪具師】～『呪いのアイテム』しか作れませんが、その性能はアーティファクト級なり……！

第１３話「オークの襲撃」

「オークだ！　オークの襲撃だっぁああああ！」

　御者が大声を張り上げるも、すでに魔物の攻撃は馬車を捉えていた。

　初撃が車軸に命中したらしく、既に動きが怪しい。

「いてて……。あれ？　柔らかい──」

「ちょ、ちょっとどこに顔つっこんでんのよ！」

　真っ赤な顔をしたモーラがゲイルの顔を張る。

「いって！！　ご、ごめん」

「も、もう！────って、それどころじゃないわ！」

「わかってる！　オークって聞こえたぞ？！」

「えぇ、モンスターが車列を襲ったみたいね」

　すでに馬車は傾いで動きを止めている。

　同時に出発したいくつかの馬車も襲われているらしく、外で悲鳴と剣戟が響いていた。

「ぎゃぁぁああああ！」

「うわっぁぁああ！　逃げろぉぉおお！」

　どうやら戦況は思わしくないらしい。

　護衛についていた傭兵の悲鳴がこだましている。

　そして、そのうちに悲鳴も剣戟も途絶えていく。

　戦場が遠くに映りつつあるようだが、それは傭兵たちの逃亡を意味していた。

「ひぃ！　よ、傭兵がやられた！　マズイ、こっちに来る！」

　御者が悲鳴を上げて馬車に転がり込んでくる。

　その様子に乗客も不安そうに身を寄せる。

『ブモォォォオオオオオオオ！』

『ブォブォブォォオオオオオ！』

　外にはオークの集団が押し寄せているようだ。

　そして、ここには戦える人間がいない。

「ひぃ！　も、もうだめだ！」

「「「きゃあああああ！」」」

　御者と乗客の悲鳴が響き、オークたちが馬車の中の人間に気付いたようだ。

「不味いわね、ゲイル。武器は？」

「へ？　あ、あるけど……。お、おい、まさか？！」

　モーラも緊張した面持ちで、傍らに小さな杖を引き寄せる。

「や、やるしかないわ。アタシは魔法杖と小さなナイフがある。アンタは？」

「お、俺はデバフ用の使い捨ての呪具と────短剣だけだ」

　スランッ……！

　と、お手製の短剣を半分ほど引き抜いて見せる。

「武器はお寒い限りね────いいわ、打って出ましょう」

「ちょ！　む、無理だって！　せめて誰か前衛を！」

　ゲイルはこれまでずっと後衛で戦ってきた。

　たしかに、まったく短剣で戦ったことがないというわけでないが、それはあくまでも緊急時。

　しかも、前衛に守られての時のみだ。

「アタシを信じて。支援魔法なら自信あるの」

　ニコリと青い顔で笑うモーラ。

　だが、彼女の手が小刻みに震えている……。

「も、モーラ…………」

　彼女も怖いんだな、と理解すると、ゲイルも覚悟を決めた。

「わかった。モーラだけにやらせるわけにはいかないよな──……俺が前に立つ。だから、後ろは任せるぞ」

「えぇ、任せて────……その、ゴメン」

「いいさ。俺も、一応──男だからな」

　さすがに、ナイフ一本の支援術師の女性を前に立たせるほど落ちぶれちゃいない。

「いくぞ！　まだ連中はこっちを侮っているはずだ。一気に攻めて、１匹は仕留める！」

「そうね。じゃ……。まずはデバフで敵の出鼻をくじきましょう。たしか、呪具師はデバフの呪具を使うのがセオリーよね」

「そうだ。そこそこ持ち歩いてるからな────でも、前衛がいないんだ。効果には期待しないでくれよ」

「ちょっとでも、敵のステータスが下がればそれでいいわ。あとは、アタシのバフを信じて！」

　そういって早速支援魔法を練り始めるモーラ。

　それを見て、ゲイルも呪具を準備する。

「……了解した！」

　投擲に二つ。

　設置型一つ。

　作戦はいたってシンプル。

　デバフで敵の動きを止め、その隙にバフを貰ったゲイルが突っ込む。

　そして、一匹でも多くの敵を仕留めるのだ。

　全滅しなければいい。時間を稼げば、街道上の以上に気付いた巡察隊が来る！！

「行くぞッ」

　あとは、出たとこ勝負だ！！

「行って！　すぐにバフをかけるから！」

「おうよッ！」

　シュランッ！！

　腰の後ろから短剣を引き抜き、もう一手には設置型の呪具を持つ。

　抜き出した途端に、短剣から禍々しいオーラがあふれ出す。

　それをクルクルと手を回してまるで、ひもを絡めるように刃に纏わりつかせると────。

　なぜか、モーラが目を丸くしてそれを見ている。

「ちょ……。え？　な、なにそれ？」

「は？　これ？？　ただの、お手製の短剣だよ。そんなことより、後ろ頼むぞ──」

　こんな剣一本でモンスターに突っ込むんだ。

　気分は『神風』なんだから、せめてバフをしっかりしてくれよ！！

　バッ！！　と馬車を飛び出すゲイルをモーラがポカンとして見ていた。

「な、ななんななな、なによ。あの剣？！────……そ、それに、手に持ってた巻物はなんなの？！　あ、あんな禍々しいもの見たことないわ」

　しかし、それに目を奪われていたのも一瞬のこと。

　すぐに自分の役目を思い出し、支援魔法を練り上げ完成させる。

「今行くー……ゲイル！」

　モーラは瞬く光を魔法杖の先端に維持しながら馬車を飛び出し、ゲイルがオークの群れに果敢に突っ込むその背中にバフを掛けようとする。

　このタイミングが肝心だ！！

「効果時間は長くはないけど────……」

　その分！　性能はピカ一！

　ステータス向上が１．５倍になる支援術師の究極技！！

　──これなら、非力な呪具師の一撃でも、オーク一体くらいなら致命傷を与えられるはず！

「はぁっぁぁああ……！　全能力向上（オールアビエイション）！！」

　カッ────！！

　モーラの身体から迸りでた魔力が、黄金の輝きを伴ってゲイルに降りかかる。

　が、その前に……────。

「とりゃぁぁああああ！！」

　先に走り出たゲイルがオークの群れの前に何かを放り投げる。

　それは先ほど見た、禍々しいオーラを放つ巻物──。

　ブンブンブンブン────……！！　回転して飛んでいく巻物。

　たしか、設置型の呪具というやつだ。

　使い捨てのデバフアイテム………………。

　それが、地面に当たって、結びが弾けて、呪印がパラリと開かれる。

　すると────……。

　ヌォォォン……！！！

　髑髏のエフェクトが一瞬だけ、空間を覆いつくす。