第12話「モーラ」
なんと、王都を出る場所の前でモーラと再会。
と、言ってもほぼ面識なし……。
「…………っていうか、どこ見て、顔を思い出したのよ」
「そんなん聞くなや……」
きゅぬーで、思い出したわい。……悪いか?
「ま、いいわ。……こんなとこで、どうしたのよ?」
「アンタこそどうしたんだよ? カッシュ達を組んだんじゃないのか?」
ゲイルの後釜としてさー。
少しとげのある言い方をするゲイルに苦笑するモーラ。
「……あー。抜けたわ」
「は……? え?」
ぬ、抜けた?
え? 何が、どこで────あっ!
「──毛が?」
「そうそう、毛が抜けて────……って、パーティよ!! なんでアンタに毛が抜けたことを一々報告するの?! そんなわけないでしょ!!!」
い、いや、まぁそうだけど。
………………って!!
「──いや、おまっ! 入ったばっかりじゃん?!…………え、もう??
「いや、ちょ!! そんな、アタシが悪いみたいに言わないでよ!」
いや、だってさー!!
「普通、入ったば────」
「お二人さーん……。そろそろ出すけど、どーすんだい? 痴話げんかするなら、他の客乗せるけど」
「「痴話げんかじゃない!!」」
と言いつつ、顔を見合わせる二人。
どちらともなく苦笑いし、「「どーぞどーぞ」」で馬車に乗る。
「ったく、ほら」
「ありがと」
先に馬車の乗ってモーラに手を貸すゲイル。
「……ま、なんだ……。短い間だろうけど、よろしくな」
「こっちこそ」
何とも言えない空気が流れたが、今さら馬車を買えるのもバカバカしかったので肩をすくめるだけの二人。
そうして、言葉少なげに馬車に揺られることになったのだが……。
パーティを追放された呪具師。
パーティを脱退してきた支援術師。
まったく、奇妙な縁もあったものだ──────。
※ ※
ガラ、ガラ、ガラ……。
快晴の空に馬車の車輪がのどかに響く。
「くぁ……ねむ」
「ちょっと、近いわよ」
ぐいぐいと肘で頭をつつかれるゲイル。
そして、つつく女は支援術師のモーラだ。
「狭いんだからしょうがないだろ」
「どーだか」
馬車の中は農業都市に売りに行くという鉄器や、隣国からの輸入品でぎっしりと詰まっている。
その余席に数名の乗客と一緒になっているわけだが、あまり居心地がいいとは言えない。
それにこの女だ。
「……ったく、お互い思うところはあるだろうけど、あんまし干渉しないで行こうぜ」
「アタシは別にどうも思ってないわよ──」
まぁそれはそうだろう。
モーラが入ったことでゲイルは追放されることになったのだが、それはモーラには関係のない事。
おおかた、カッシュがモーラの美貌につられたことと──……それ以前に、ゲイルをなんとか追放しようとした結果が重なっただけだ。
「そーですかー。……じゃー、なんで抜けたんだよ?」
「……むしろ、アタシが言いたいわね。……よくもまぁ、アンタ。あそこで今まで何で抜けずにいたのか、小一時間くらい聞きたいわよ、ホント」
「はぁー……」、と大きなため息をついたモーラが、ポツリポツリと話し始めた。
本当は彼女も黙っているつもりだったのかもしれないが、いかんせん暇だったのだ──二人とも。
かくかくしかじか
「────というわけよ」
あっけらかんと説明するモーラに、
「……ま、マジかよ、カッシュのやつ?! え、オーガに?!」
モーラが言うには、Sランクのクエストもまともにこなせず失敗を繰り返していたという。
その上、A級のモンスターとはいえ、一体のオーガに追い回されて無様に逃げたというのだ。
「そーよ! しかも、アタシを囮にして逃げようとしたのよ!! リーダーのくせに、まともに戦えもしないし、残る3人の連中だって、剣も振れないわ、魔法も使えないわ、弓で援護もしないし────ああああああ、もう!!」
「なんで、あんな雑魚パーティに入ろうと思ったのかしら!!」と、顔を真っ赤にして怒り心頭のモーラ。
しかし、腑に落ちない。
「それ……ほんとうにカッシュ達か? アイツ等ならオーガくらい、群れで蹴散らしてたぞ」
「……あれ以外にカッシュ達がいるの? いたら、また顔面陥没させてやるわ」
が、顔面陥没って……。
「ったくもー。とんでもない詐欺師の雑魚よ! おかげギルドにも睨まれちゃったし……、これで王都にしばらくいられなくなったわ」
「そ、そうか……。なんかスマン」
別にゲイルが悪いわけではないが、昔の仲間のことでモーラがひどい目にあったらしい。
しかも、聞けば彼女はかなり有能な支援術師だという。
「いいのよ。ゲイルさんも────」
「あ、ゲイルでいいよ」
「ん……。ゲイルも大変だったんじゃない? なんか、アイツ等ってば、ゲイルのことをことあるごとに扱き下ろしてたけど、端から聞いている分じゃ、アナタの仕事っぷりが何となく見えてきたわ」
「あー……やっぱり何言ってたのか」
気分わるいわー。
「あ。ゴメン。本人がいるのに、言うことじゃないわね」
「いいさ────」
素直に謝るモーラを見て、最初に感じた
むしろ、サバサバとした性格の彼女には好感すら持てる。
「じゃあ、あれだ。『
ニッ。と、ちょっとばかしカッコつけて笑いかけると、モーラもクスリと笑う。
「ちょ、なーにそれ。別にゲイルは被害者ってわけじゃないじゃない──。ま、いいか」
「そーそー、細かいこといいっこなし」
モーラに言わせれば追放されたのはゲイルの自業自得だと言いたいのかもしれないが、ゲイルはゲイルでしっかりやってきたつもりだ。
「ふふ。わかったわ」
コツンと拳を合わせると、
「道中よろしくな、ほい、──お近づきの印」
そういって街を出る前に買い込んだ食材のパンを渡す。
よくよく見れば彼女は小さな荷物しかもっていない。おそらく、騒動があってすぐに抜けてきたのだろう。
「わ、ありがと」
「うん。あ、せっかくだし──」
ここで軽く手を加えるゲイル。
『牙狼の群れ』では、雑用もやらされていたので、こういったことはお手の物だ。
「ん? なにするの?」
「ま、任せて任せて──」
長めのバゲットを取り出すと、ナイフでサッと切れ目を入れる。
昨日のパンなので少し硬くなっていたが、そこそこ値が張るパンを買ったので、まだまだ柔らかい。
「これとこれと、あとこれかな」
ザグッっと、クリスピーな音をたてて割れたパン。
そこに薄く切ったベーコンを一枚しいて、
その上に瓶詰のザワークラウトを乗せる。
「仕上げに──」
ガリガリガリ……。
最後に、岩塩とチーズをナイフの背で削ってパラパラと散らすと──。
「ほい、簡単だけど──『サンドイッチもどき』だよ、召し上がれ」
「わ! 凄いッ。ありがと!!」
そういってニコッと輝く笑みを浮かべるモーラ。
「お、おう。大したもんじゃないけどね」
優し気に笑うモーラは、なるほど──美人でプロポーションもいい。
こりゃ、カッシュが目をつけるわけだ。
「ん! 美味しい!!」
サクサクッ! といい音を立ててパンの表面がきれいに割れる。
したたるベーコンの油とザワークラウトの酸っぱい汁が少し零れるがそれもご愛敬。
「ほい、ワイン」
「ん! あひはふぉー(ありがとう)」
モッモッモ! と口を一杯にしたモーラは気取ることなく、ワインを受け取りゴクリゴクリと飲み干していく。
「ぷふっ! おっいしぃぃい!! なにこれー。アンタ凄いわねー……簡単な素材なのに超美味しいじゃない!」
「はは。物がいいからね。昨日のうちに、いいパンといいワインを買ったのさ」
口の中をパンパンにしながらブンブンと首を振るモーラ。
「それだけじゃないわよ!────ちょっとした工夫で、すごいわね! ゲイル」
偉く褒められてゲイルとしては照れ臭いばかり。
大した料理じゃないが逆に申し訳なくなってきた。
「お、おう。あ、ワイン全部飲んでいいよ」
「あら、酔わせてどうする気ー…………って、これ! ローマンジュワインじゃないの?!」
高級ワイン、ローマンジュ。
「いやー。カッシュの言葉じゃないけど、露店で稼げたんだ」
「ふーん露店で?──……そういえば、王都出る前に、エラく露店街のほう騒いでたわね。……なんでも、アーティファクト級の品が露店で見つかったとかで?」
「へッ? アーティファクトを露店で──?! 誰それ、馬鹿じゃないの?!」
※ 注:お前だ ※
「ねー! バッカよねー。そして、それを探してるのが、なんと王女らしいわよ。……なんでも露店でその商人から、例のアーティファクトを買ったっていう噂なんだけど……。どうも、それで血眼になって探しているんだって」
「へー……そんな馬鹿な商人がいたら、そりゃ国としては大問題だねー」
「んねー!」
ん?────お、王女って??
いやいや…………まさかね。
「あら? でも、露店で稼いだって──…………もしかして、アンタ」
「ん?…………はは、俺がアーティファクト持ってるように見える?」
「見えないわね。アハハハハ」
「だろ。あっはっはっはっ!」
あはははははははは!!!
「あーおっかしい! アンタ、気に入ったわ」
「俺も、モーラのこと嫌いじゃねーぞ」
ニヒッと、二人で笑いあって手を叩く、
パンパン、いえーい!
「どっちかが前衛だったらねー」
「そーなー。モーラと組んだら楽しそうだな────だけどまぁ、呪具師と支援術師じゃなー」
「そーね……」
モーラも残念そうに顔を伏せる。
……二人とも後衛職。
どちらも攻撃力に欠くため、パーティとしてはバランスが悪すぎる。
ほんとに、残念…………。
「ま、縁があったらそのうち────」
「そ────」
ごかぁっぁぁあああああん!!
「うぉ?!」
「きゃあ!!」
突如振動がが馬車を襲う。
「な、なにが……」
「ちょ! アンタどこに顔を突っこんでの!?」
モーラの抗議が闇の中で聞こえ、御者の声がそこに被る。
「お、オークの襲撃だぁっぁああああ!!」
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